●ミラノ・スカラ座日本公演・ヴェルディ作曲『運命の力』
 2000年9月24日(日)15:00/東京文化会館
 指揮        :リッカルド・ムーティ
 合唱指揮      :ロベルト・ガッピアーニ
 演出・美術・衣装  :ウーゴ・デ・アナ
 振付        :レーダ・ロヨーディチェ
 カラトラーヴァ伯爵 :エンツォ・カプアーノ
 ドンナ・レオノーラ :マリア・グレギーナ
 ドン・カルロ    :アンブロージョ・マエストリ
 ドン・アルヴァーロ :サルヴァトーレ・リチートラ
 プレツィオシッラ  :ルチアーナ・ディンティーノ
 グァルディアーノ神父:ユリアン・コンスタンティノフ
 メリトーネ修道士  :ロベルト・デ・カンディア
 クルラ       :ティツィアーナ・トラモンティ
 村長        :アルベルト・ノーリ
 トラブーコ     :エルネスト・ガヴァッツィ
 軍医        :エルネスト・パナリエッロ
 ミラノ・スカラ座管弦楽団/合唱団/バレエ団


昨日のレクイエムの感動を抱きながら今日の「運命の力」に期待する。座席は平
土間11列目のほぼ真中と視界・音響に好条件が揃った。序曲の開始から緊張が
続く。とにかく今日の歌手たちは大変良かった。特にグレギーナは第1幕早々か
ら全開といったところ。合唱やオーケストラの素晴らしさも言うに及ばず、これ
だけレベルが高いとイタリアオペラを楽しめるのは勿論のこと、運命のドラマに
没頭させられてしまう。

ステージは画面一杯を使いきる巨大なもので、いわゆるスペクタクルさを全面に
押し出している。しかし単に豪華な舞台には留まらない。終始、大きな岩が天井
から押し迫った構図を取りながら、運命に押しつぶされるような威圧感が支配す
るのが特徴。また第3幕は2段に大砲を並べたりと、かなり見せる舞台を披露す
るが、巨大なステンドグラスを背景にしたりと、舞台にもどこか意味付けが行わ
れる。ウーゴの舞台作りはオーソドックスさを基調としながらも、巨大なオブジ
ェで意味を持たせるあたりに、ドン・カルロやシチリアを演出したヴェルニケと
は異質な指向ながらも共通性があるように感じる。

終始、運命の重圧が漂うドラマではあるが、第4幕は正に圧巻。リチートラの歌
に釘付けとなった。マエストリの演じるカルロも復讐には燃えるものの暖かい人
間性すら感じられた。彼が運命に従わざるを得ない宿命にあることの意味がひし
ひしと伝わる。ムーティが捌く音楽も実に悲痛だ。彼らの歌も素晴らしいが、こ
こは音楽を越えて、何とも痛ましいドラマに釘付けにさせるのかと緊迫する。さ
らに今まで天井から覆っていた岩が姿を消し、天空が広がってきた。この効果は
一種の開放感すら与えてくれるようだ。

ここからレオノーラを含めた3人の運命の場面が始まるのだ。しかしグレギーナ
の圧唱のあと、この悲劇の終結にかけて、どこか晴れ晴れとした気分にさせてく
れる。もちろん二人は死に向うのであるが、今まで血のように曇っていた空が紺
色に晴れ渡り、大きな月が地上を照らす。ヴェルディの初演版では考えられない
アプローチかもしれないが、ウーゴの演出は悲劇からの救済を示唆するのは明か。
このポジティブさはカルロの人間性も含めて、実に感動的だった。終結部にかけ
てのヴァイオリンの奏でるピアニッシモのトレモロにハープが重なる音楽には祈
りを聴くこともできた。まさにムーティが描く音楽は歌手達のドラマと舞台演出
とが三位一体となった。

終演後のカーテンコールでは日本公演のフィナーレが祝された。ちなみにポンス
氏も聴きに来られており、帰り際にサインを頂いた。まずはオペラフェスティバ
ルのミラノ・スカラ座が終わり、来月はいよいよウィーン国立がやってくる。