●バーバラ・ボニー/ソプラノリサイタル
2000年9月14日(木)19:00/紀尾井ホール
ピアノ:マルコム・マルティノー
(プログラム)
E.グリーグ:6つの歌曲 作品48
挨拶(ハイネ詩)
いつの日か、わが思いよ(ガイベル詩)
世のならい(ウーラント詩)
秘密を守る夜うぐいす(フォーゲルヴァイデ詩)
薔薇の季節に(ゲーテ詩)
夢(ボーデンシュテット詩)
R.シュトラウス
心を鎮めるのだ、安らかに 作品27−1(ヘンケル詩)
したわしい光景 作品48−1(ビーアバウム詩)
ばらのリボン 作品36−1(クロプシュトック詩)
《4つの最後の歌》より<9月>(ヘッセ詩)
A.コープランド:エミリー・ディキンソンの12の詩
自然、いともやさしき母よ
角笛のような風が吹いた
なぜ私を天国から締め出すの?
世界は不毛になる
心よ、あの日とを忘れます!
おいで、いとしい3月よ!
眠りというものは
もし帰ってきても
頭の中を弔いの行列が
たまにオルガンのことばが
天国に召される!
馬車
(アンコール)
R.シュトラウス:献呈
E.グリーグ :春
昨年のラモー「ボレアド」以来、1年ぶりにボニーを聴いた。さすがに彼女のリ
ートは何時聴いても素晴らしい。オペラとはまた違った味わいに驚嘆しつつ夢の
2時間が過ぎて行った。ブラックのドレスが似合う彼女が登場した瞬間、一昨年
のリサイタルが思い出された。しかも今日は、嬉しいことにグリーグとR.シュ
トラウスが聴ける。いずれも彼女の得意とする作品ばかり。
最初のグリーグ、やはりライブだとCD以上に、とてもリアルに迫ってくる。詩
が聞え始める空気の振動、彼女の仕草、語り口など全てが、極自然に生々しく伝
わってくる。まさに時間が止まったかのように全神経をリートに集中させてくれ
た。これほど没頭して聴けるのは大変なことだと思う。それゆえに会場は最初か
ら超静寂に彼女に視点が集中していた。ここで感じたことは、無音のパウゼすら
ボニーとマルティノーの織り成すリートの余韻が十分に聞えること。音が消え行
くときの限りない美しさ。しかも彼女の歌声が空間を広がって行く様も、並の歌
手では無し得ないのではと思ったほどだ。それゆえに空間・空気・時間といった
要素までも彼女の重要な表現媒体になっているようだ。
R.シュトラウスに至っては、その感激はひとしおのものではなかった。クレッ
シェンドの短いフレーズにおいてすら、質感豊かに陰影を帯び、耳を楽しませる。
彼女の情感の起伏と詩との完全な一致を見たとき、聴くものとして最高に感動さ
せられてしまった。
後半はコープランドの珍しい作品を楽しめた。1曲毎に女性の日本語ナレーショ
ンが入り、詩の朗読がある。これは面白い趣向とは思うが、詩と詩との連なりを
俯瞰する上では余り好ましくないと感じた。しかも前半のようなパウゼの語りを
聞くことが出来ない。それにしても彼女とマルティノーのデュオは前半同様、生
彩に満ちていて、英語の響きを堪能できた。コープランドの作風を知ることも出
来たことも楽しかった。アンコールのR.シュトラウスとグリーグでまた最高に
感激し、とても素晴らしいリートが聞けたという喜びで一杯になった。