●東京の夏音楽祭『映画のための音楽』
2000年7月30日17:00/紀尾井ホール
『キーズ公の暗殺』1908/モノクロ・サイレント/35ミリ9分
監督=アンドレ・カルメット、シャルル・バルジー/脚本=アンリ・ラヴダン
音楽=カミーユ・サン=サーンス/美術=エミール・ベルタン
出演=シャルル・バルジー(アンリ3世)、アルベール・ランベール(キーズ
公)
武満 徹《3つの映画音楽》1994/95
1.訓練と休息の音楽〜「ホゼー・トレス」より
2.葬送の音楽〜「黒い雨」より
3.ワルツ〜「他人の顔」より
−休憩−
アーロン・コープランド《映画音楽のための音楽》1942
1.ニューイングランドの田園〜「町」より
2.麦馬車〜「二十日鼠と人間」より
3.日曜日の通り〜「町」より
4.グローヴァーズ・コーナーズ〜「我らの町」より
5.脱穀機〜「二十日鼠と人間」より
『幕間』1924/モノクロ・サイレント/35ミリ22分
監督・脚本=ルネ・クレール/音楽=エリック・サティ/撮影=ジミ・ベルリ
エ/美術・脚本=フランシス・ピカビア/出演=ジャン・ボルラン、インゲ・
フリス、マン・レイ、エリック・サティ、マルセル・デュシャン、ジョルジュ
・オーリック
(演奏)
小松一彦(指揮)
新交響楽団
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映画と音楽という切り口をテーマにした東京の夏音楽祭も今日で終わり。今回は
オペラの映画を主に見てきたが、今日はオペラから離れて純粋に映画のための音
楽がテーマに扱われていた。会場は映画関係の人が多いのか、いつものコンサー
トと雰囲気が大分違う。
最初の演目はサン・サーンスが作曲した映画音楽の元祖となった作品だそうだ。
ドラマ自体はそれほど面白くはないが、ステージ一杯に並んだオーケストラが躍
動感一杯にサン・サーンスの魅力を引き出していた。続いて武満の映画音楽を三
つ。いずれも耳に馴染みやすい音楽で特にワルツは艶やかな弦の響きが心地よい。
後半はコープランドが作曲した映画の名作品のための音楽集。映画音楽というと
クラシック音楽とジャンルを異にしてしまうが、彼の音楽はクラシカルな情景を
聴かせてくれる。映画自体はいずれも見たことはないのであるが、標題にあるよ
うな「田園」「麦馬車」「日曜の通り」「脱穀機」の情景が目に浮かぶようだ。
そして圧巻は映画「幕間」。これはパロディの極致を行く映画といって良く、エ
リック・サティが作曲し、映画にも登場するという異色もの。冒頭、パリ・オペ
ラ座バレエの下りが紹介され、パリの生活模様が映し出される。標題にあるよう
に幕間に見る映画ではあるが、意味不明の画像が次ぎから次ぎへと現れる。まる
でバラバラなようでいて不思議と統一感が感じられる。次第に目も眩むようなス
ピードでストーリーが展開し、見ているものは全く目がはなせない。と同時にこ
れまたパロディックで軽快な音楽が鳴り響く。サティといえばピアノ作品くらい
しか知らなかったが、結構なオーケストラ作品を作曲しているので感心する。
20分ほどの作品ながら、いろんなストーリーで構成されているのであるが、後
半はビルの屋上に立つ狩人が噴水に浮かぶ標的を射止めようとしている。標的は
狩人をからかう様に分身の術を使い焦点が定まらない。狩人の撃った玉は目出度
く命中し、そこから鳩が現れ狩人の帽子に留まる。しかし鳩を射止めようとする
ものがいて、これを狙い打つ。が、この衝撃で狩人がビルの屋上から墜落してし
まう。一転して音楽は葬送行進曲となり、葬儀の場面。ここからは馬車に乗った
棺が坂道を転げ落ちて行くというアクシデントに見まわれる。棺はどんどんと加
速して落ちて行くが、人々がこれを追いかける。映像の早回しとはいえ、とても
迫力がある。この時の音楽は全く息も出来ないほどのスピードだ。ついには草原
に落ちた棺から死者が生き返ってくるという落ちで終わるが、全く手に汗を握っ
て見てしまった。もちろんサティのエキセントリックで粋な音楽も素晴らしかっ
た。アンコールにフィナーレがもう一度演奏されて大いに盛り上がった。以上い
わゆるコンサートではなかったが、コンサートにも勝る音楽的興奮が楽しめた一
時であった。
2000/7/30 22:40