●サントリーホールBACH2000
J.S.バッハ:ヨハネ受難曲BWV245(1749年第4稿)
2000年7月28日(金)19:00/サントリーホール
(演奏)
福音書記(テノール) :ゲルト・テュルク
イエス(バス) :ステファン・マクラウド
ペトロ/ピラト(バス) :浦野智行
ソプラノ :鈴木美登里
アルト(カウンターテナー):ロビン・ブレイズ
指揮 :鈴木雅明
管弦楽・合唱 :バッハ・コレギウム・ジャパン
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バッハの命日の今日は今年3度目のヨハネ受難曲を聴く。今年はマタイを7回聞
いているのに比べれば、ヨハネの回数は少ない。それほどにマタイの方が頻繁に
演奏されているのだがヨハネももっと演奏されても良いのではと思う。前回のコ
ンチェルト・ヴォカーレのヨハネが素晴らしかったように、今日のBCJも素晴
らしかった。
BCJはオペラシティをホームグランドとしているが、サントリーの場合は半円
弧のステージに沿って合唱をレイアウトする。これがアンサンブルや合唱に強い
求心力を与えているように思う。冒頭の主への呼びかける合唱が何とも迫力に満
ちていた。小編成ならではの透明感や軽やかさ、さらには躍動感に溢れていてい
る。
ヨハネ受難曲はマタイに比べるとソリスト達のレチタティーヴォやアリアは少な
い。それゆえにエヴァンゲリストに焦点が集まるが、テュルクの実に淡々としな
がらも味わい深い語りが素晴らしかった。静かな語りであっても力強く、受難の
ドラマをしみじみと描く。彼が歌うときは鈴木氏のチェンバロが通奏低音として
加わる。テュルクの語りからはドラマ全体を統率する空気のようなものが常に発
せられているように感じた。これがアンサンブルと合唱に伝わり、さらに聴衆に
伝わってくる。ひいてはホール全体がヨハネ受難曲の原理に導かれるとすら感じ
た。その証拠にほぼ満席のホールは素晴らしいほどの集中力に支配されている。
特に第2部からのドラマには釘付けとなって聞き入るという素晴らしさだ。
不調を押して出演したというマクラウドも無難に威厳に満ちたイエスを歌ったし、
鈴木さんのソプラノの見事さに感激した。後半はかなり緊迫した場面でアンサン
ブルが気迫に満ちた演奏を展開した。あまりの気迫のためか鈴木秀美氏が弓を飛
ばすというアクシデントもあったが、それほどにアンサンブルも高揚していた。
まさに目も見張るほどの音楽的興奮も聴くことができたし、何と言っても鈴木氏
の指揮が全体をよく見えるものにしてくれた。次回のミサ曲ロ短調も大変楽しみ
である。