●カテリーナ・マヌーキアン/ヴァイオリン・リサイタル
 2000年7月21日(金)19:00/紀尾井ホール
(演奏)
 カテリーナ・マヌーキアン(ヴァイオリン)
 若林 顕(ピアノ)
(プログラム)
 イザイ    :「悲劇的な詩」作品12
 ブラームス  :ソナタ第3番ニ短調作品108
 −休憩−
 チャコフスキー:「憂うつなセレナード」作品26
 ベートーヴェン:ソナタ第9番イ長調作品47「クロイツェル」
(アンコール)
 ハチャトゥリャン:「剣の舞」
 ショパン    :ノクターン
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ちょうど1年前の来日では素晴らしい演奏を聞かせてくれたマヌーキアンを再び
聴いた。前回ではショパンのチェロ・ソナタ(ヴァイオリン版)という珍しさも
あったが、今回のプログラムはオーソドックスな名曲で勝負に出るという意気込
みすら感じられた。

冒頭のイザイで早くも美しい響きに惹きこまれてしまう。奇しくもイザイが使っ
ていた銘器ヴィヨームを16歳の少女が見事に弾き込む姿は誰にとっても新鮮か
つ感動的に写るに違いない。その演奏は常に情熱を湛えたものであり、ほのかな
ロマンが漂う。

イザイの情熱に対してブラームスの郷愁も見事で、とても少女が弾いているとは
思えないほど。彼女の場合は感性そのものが既に巨匠の域に達しているのではと
思わせる。もっとも細かなところで集中力が本の一瞬途切れることもあるが、概
ね素晴らしい完成度を見せる。特に終楽章の激しいヴァイオリンに驚愕すら感じ
られた。

特に後半のクロイツェルでは実に余裕の演奏を聴かせる。ヴァイオリンが美しく
歌い、ベートーヴェンの緊迫したエネルギーも十分。むしろ響きそのものに柔ら
かさがあり、余分な贅肉もない。若林の豪快なピアノにマヌーキアンの強烈なヴ
ァイオリンが応える。全般にロマンよりも古典性が感じられる演奏だ。この若さ
でこの大曲を水準を遥かに越えた演奏を聞かせるとは本当に凄いヴァイオリニス
トと言わざるを得ない。