07/08 東京の夏音楽祭『ヴォツェック』
●東京の夏音楽祭2000
 蘇るオペラ座の名舞台〜リーバーマンへのオマージュ
 2000年7月8日(土)15:00/草月ホール
 ハンブルク国立歌劇場公演(カラー/35ミリ)
 ベルク『ヴォツェック』1967年/103分
 演出(映像)=ヨアヒム・ヘス
 美術=ヘルベルト・キルヒホフ
 指揮=ブルーノ・マデルナ
 出演=トニ・ブランケンハイム(ヴォツェック)
    リヒャルト・カシリー(軍楽隊長)
    ハルハルト・ウンガー(大尉)
    ペーター・ハーゲ(アンドレス)
    ハンス・ゾーティン(医師)
    クルト・モル(職人1)
    フランツ・グルントヘーバー(職人2)
    クルト・マルシュナー(白痴)
    ゼーナ・ユリナッチ(マリー)
    エリザベト・シュタイナー(マルグレート)
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今年の東京の夏音楽祭は音楽と映画を切り口としたテーマ設定となっている。そ
のひとつ、ロルフ・リーバーマンが監督に就任していたオペラ劇場での映像がシ
リーズで上演されることとなった。今日は彼がハンブルク国立歌劇場の監督だっ
た頃に作られたベルクの「ヴォツェック」。

映像はオペラハウスでの収録ではなく、いわゆる映画として編集されたものだ。
最初にヴォツェックが大尉の髭を剃るというオーソドックスな場面から始る。最
近は斬新な演出が多いヴォツェックであるが、このような正統派演出を見せられ
ると何故か懐かしいような、ある種の安堵感を感じる。

野外の風景も美しく、特に建物の古風さが味のある世界を描く。朝霧のかかった
通りをヴォツェックが寂しく歩いている場面など。やはり映画にはオペラとは違
った味わいがある。といっても、さすがにベルクのドラマを上手く描いている。
このオペラはオペラというよりもビュヒナーの戯曲を題材としているだけあって、
極めてドラマティックな作品。映画という手法でスピーディなドラマ展開を見せ
てくれるようだ。ステレオ音声も良好で、オーケストラも歌手たちの歌もまさに
ベルクのアンサンブルを隈なく聴かせてくれる。

登場人物たちの表情をアップにして、時にヴォツェック、医者、大尉など三者三
様の心理を浮き彫りにする。こういったところにオペラ演出ならではの上手さを
感じる。マリーを殺害する場面も幻想的な木々がしげる池が使われているし、ヴ
ォツェックが池に飲み込まれ行く場面も、とてもスムーズな必然性でもって映像
が展開する。カラーフィルムが用いられているが、モノトーン的な映像美を加え
ながら、目と耳を離さない。特に第3幕の間奏曲が鳴っている間は、物言わぬ池
に夕日が輝くという映像が映し出され、壮絶さもひとしおであった。

今ではヴォツェックといえばグルントヘーバーが当たり役であるが、当時では脇
役として登場していたのも面白い。ちょうど今のグルントヘーバーのお手本とも
なるようなヴォツェックを演じたのがブランケンハイムだ。彼は無表情な演技を
とりながらも、微妙な心境の変化を見せてくれる。こういったところは映画もオ
ペラも同じだ。

このヴォツェックのあとにはシェロー演出ブーレーズ指揮の「ルル」170分が
上演されるが、残念ながらこれはパスしなければならない。今日はこれからアル
ティスSQ&シャロン・カムのコンサートを聴くため三鷹へと急ぐ。