●藤井一興/ピアノ・リサイタル
 2000年7月2日(日)15:00/彩の国さいたま音楽ホール
(プルグラム)
 フォーレ:夜想曲全曲
  第1番 変ホ長調op.33-1
  第2番 ロ長調op.33-2
  第3番 変イ長調op.33-3
  第4番 変ホ長調op.36
  第5番 変ロ長調op.37
  第6番 変ニ長調op.63
  −休憩−
  第7番 嬰ハ短調op.74
  第8番 変ニ長調op.84-8
  第9番 ロ短調op.97
  第10番 ホ短調op.99
  第11番 嬰へ短調op.104-1
  第12番 ホ短調op.107
  第13番 ロ短調op.109
(アンコール)
 ドビュッシー:ベルガマスク組曲第3曲「月の光」
 ドビュッシー:前奏曲第2集第12番「花火」
 ラヴェル  :「水の戯れ」
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ピアノリサイタルはいろいろな作品を取り合わせるプログラムが多いが、こうい
った全曲を通してというのは珍しい。特に今回はフォーレの作品、しかも夜想曲
の全てが演奏されるということで是非とも聴いてみたいリサイタルだ。というこ
とで久方ぶりに彩の国までやってきた。

藤井一興氏はデュオ・リサイタルを主に活躍されているがピアノ・ソロも格別に
素晴らしい。フォーレの夜想曲を通してフォーレの人生を俯瞰するが如くの内容
の深さに感激した。そもそもフォーレはその人生において夜想曲を書きつづけて
きたため、各楽曲毎にフォーレの人生観の変化が読み取れるようになっている。
プログラム解説には、夜想曲全体は大きく3つの年代に大別されるとのこと。実
際には5つの年代と作風に細分化される。第1〜3番、4〜5番、6〜8番、9
〜11番、12〜13番がそのカテゴリーとなり、前半はショパンを思わせる抒
情が素晴らしく、中期にフォーレ独自の世界が。後半は簡素化に向い、音楽の響
きの塊が存在感を示す。そして最晩年での情熱が復活する様は圧巻であった。藤
井氏のピアノはこういった特徴を余すことなく描写する。途中休憩が入るが、首
尾一貫した名演奏と呼べるだろう。

アンコールでは一転してドビュッシーを主体にピアニズムの醍醐味を存分に披露
する。特に「花火」あたりでは藤井氏の類稀なるテクニックと音楽性が冴え渡っ
た。ラヴェルの「水の戯れ」も夏という季節感にぴったりに響き渡った。充実の
リサイタルに満足しつつ、埼京線の中で感想を綴った。今、ちょうど池袋到着だ。