●オーギュスタン・デュメイ(ヴァイオリン)&小山実稚恵(ピアノ)
 デュオ・リサイタル
 2000年6月27日(火)19:00/カザルスホール
(プログラム)
 プロコフィエフ:ヴァイオリン・ソナタ第1番へ短調op.80
 フォーレ   :ヴァイオリン・ソナタ第1番イ長調op.13
 −休憩−
 ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第9番イ長調op.47
         「クロイツェル」
(アンコール)
 シューマン  :3つのロマンスop.94より「速くなく」
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デュメイと小山によるデュオは予想を遥かに越える素晴らしい演奏だった。今回
はカザルスという音響の良さも加わってか、彼らの絶妙なデュオを余すことなく
楽しめた。最初のプロコフィエフでは冒頭から渋く険しい表情を見せながらも、
彼らの類稀なる音楽作りに圧倒される。特に第2楽章の戦闘的な激しいパッセー
ジに加えて、ロマン情緒のゆたかさに、すっかりと虜となってしまった。

今日の圧巻のひとつはフォーレのソナタ1番。小山の力感溢れるピアノに誘導さ
れデュメイがフォーレのリリシズムを奏でていく。まるで彼のヴァイオリンは絵
描きのようだ。ボーイングの一振りは絵筆の一筆書きとでも言えるかのよう。そ
こには美しい響きが空間をほとばしり、まるで郷愁にただよう風景画を見ている
ようだ。素晴らしい。それに小山のピアノが凄い。彼女はデュメイに遠慮するこ
となく、二人で火花が飛び散るようなアンサンブルを目の当たりにさせてくれる。
余りにも凄い演奏だ。第1楽章のしみじみとした味わい、第2楽章のピアニッシ
モの静けさのうちにも微妙な色合いの空気を漂わせる。第3楽章から終楽章まで
も完璧な演奏。これはデュメイ一人で無し得たというよりも、小山とのデュオで
最大の燃焼度を見せた賜物である。

後半のベートーヴェン。これもフォーレから一転してベートーヴェンの躍動と迫
力をさらに高い次元から展開する。デュメイのソロでスタートし、既に勝負はあ
ったも同然。余裕の堂々とした演奏でもあるが、力みは一切なくて、同時に実に
軽やかでもある。これに小山のピアノが今まで以上の迫力と切れこみで迫る。こ
うなるとデュメイのヴァイオリンもさらに冴える。そういえば、デュメイの表情
からは新たな発見をしたかのような喜びの表情に充ちている。そう、今日の演奏
には終始、新たなインスピレーションがあった。それゆえに音楽がとても新鮮。
クロイツェルのフィナーレに掛けての高揚は素晴らしかった。全くもって、こん
なに凄いデュオリサイタルは久しぶりだった。