'97ザルツブルク音楽祭旅行記

モーツァルト・マチネー

 

モーツァルテウム ■#2763 芸術劇場 97/10/11 15:29 (ID:DAT19113@biglobe.ne.jp)
ザルツブルク音楽祭(17)モーツァルト・マチネー tujimoto

●8月16日/8日目 モーツァルテウムへ

いよいよ滞在最終日。モーツァルト・マチネーを聴きます。このシリーズはモーツァルトの作品がメインとなる訳ですが、今年はハイドンのミサがテーマになっているようです。5つのプログラムがそれぞれ二日ずつ演奏されます。ひとつのプロはオール・モーツァルトで、その他のプロはいずれもモーツァルトとハイドンを半分づつのミックス。さらにその内三つのプロでは神聖ミサ(Heiligmesse) 、ミサ・テレジア(Theresienmesse)とネルソン・ミサ(Nelsonmesse)が演奏されます。今日は勇ましい「ネルソン・ミサ」を聴けるので、自ずと期待が高まります。なお今回の旅ではマチネーにミサを三つも聴くことになりましたが、こんな機会も珍しいですね。

ホテルからモーツァルテウムへはとても近くて便利。いつものようにミラベル公園の中を通り、この場合は公園を横切ってザルツァッハ沿いのシュヴァルツ通りに出ます。旧市街に向かって左側歩道を歩くともうモーツァルテウムの大ホールです。

●「魔笛」作曲の小屋

正面ロビーには記念品の売店とクロークがあり、左右二箇所に階段があります。向かって右側のを上がるとビュッフェがあり、そこから庭に出られるようになっています。緑が綺麗な庭にはモーツァルトが魔笛を作曲した小屋がありました。もともとは劇場支配人シカネーダが「魔笛」作曲の為にモーツァルトに提供したもので、アン・デア・ウィーン劇場付近にあったそうです。小屋はとても小さく古びれていますが、メルヘンチックです。中には木のテーブルと椅子、壁には魔笛に関する絵画が飾ってありました。この庭でカフェを飲みながら開演を待ちます。今日も天気が良くて、緑に囲まれた清々しさが最高。

大ホールは音楽院の講堂で、床は木張りのムジークフェラインと同様ボックスタイプです。中央にオルガンがあり、白を基調とするとても美しいホールですね。今日の座席はパルテレ最前列の中央。この1列目とステージの間には十分スペースがあり、ホールの左右をつなぐ通路になっています。ちなみに座席の左右を分離する通路はなく、左もしくは右から詰めて座る構造です。

●演奏

♪ MOZART-MATINEEN
   16. August 1997, 11:00 Uhr, Mozarteum

   Morzart   Gallimathisa musicum (Quodlibet)KV32
             Symphonie Nr.30 D-Dur KV202
   Haydn     Missa in Angustiis d-Moll Hob.XXII:11 "Nelson Messe"
   Solisten  Lena Lootens,       Sopran
             Petra Lang,         Messosopran
             Kobie von Rensburg, Tenor
             Jochen Kupfer,      Bariton
             Alexander Weimann,  Orgel
   Dirigent  Howard Arman
             Mozarteum Orchester Salzburg
             Salzburg Bachchor
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モーツァルテウム管弦楽団を聴くのは「後宮からの誘拐」を併せて2回目となります。指揮者のハワード・アルマンは主に合唱指揮に携わってきたそうで、1983年からザルツブルク・バッハ合唱団を指揮しているそうです。特にザルツブルクの作曲家ビーバーやパーセル、バッハ、ヘンデル、ハイドンがレパートリーで、ウィーン祝祭週間とかザルツブルク音楽祭で活躍されています。

《モーツァルト/クォドリベットKV32》
Gallimathias musicum (Quodlibet)
この曲はモーツァルトが10歳の時、オランダのハーグへ旅行中に作曲した15分程度の管弦楽曲です。CDもほとんど無く、私が知っているのはオルフェウス室内オーケストラ(DG 429 783-2)盤くらいです。

1.Molt allegro 2.Andante 3.Allegro 4.Pastorella 5.Allegro 6.Allegretto 7.Allegro 8.Moloto adagio 9.Allegro 10.Largo 11.Allegro 12.Andante 13.Allegro 14.Menuet 15.Adagio 16.Presto 17.Fuga

以上の17曲で、1曲あたり平均1分以内の短い即興集です。民謡を素材にして作曲されたそうです。ガルマティアス(クォドリベット)というタイトルはモーツァルトの父レオポルドが付けました。ガルマティアスとは「ごちゃ混ぜ」という意味で、当時の伝統的なバッハ・ファミリーの作風と違ったものを目指したようです。

さて実際の演奏はとても楽しいもので、1曲目のモルト・アレグロは猛スピードで開始。最前列の座席ではアンサンブルのズレはすぐに分かってしまいますが、ズレそうでズレていませんでした。この際どいスリルが印象的です。気が付いた時には既に穏やかなアンダンテに変わっています。またしてもアレグロに変わり弦楽、チェンバロ、ホルン、木管がヘンデル風に演奏。そしてパストレッラ・・・刻々と変化していくのですが、楽想に一貫した連続性が保たれているのに気がつきます。オーケストラの方は年配の方から若い方まで様々ですが、まとまりの良さは見事。それと6曲目のアレグレットではオーケストラ全員が合唱しながら演奏。実にアット・ホームなアンサンブルが印象的でした。

《モーツァルト/交響曲KV202》
次は交響曲30番。これは1773年から1年間に作曲された9個の交響曲グループのひとつです。30番は前後の有名交響曲の影に隠れてしまい、余り演奏さていませんね。CDも少ないようです。さて実際の演奏ですが、確かに曲のインパクトは余り感じられませんでした。もっと有名な交響曲を演奏して欲しいというのが本音です。

でもアルマンの丁寧な指揮で、オーケストラは伸び伸びと歌います。穏やかでいて、フルートとかオーボエと弦の対話はじっくりと味わい深いものです。それと音の良さには驚きました。この大ホールはムジークフェラインと構造が似ているだけでなく、響きも似ています。まず適度の残響が周囲を包むようでいて、楽器本体の音もくっきりと超ハイファイ・サウンドで浮かび上がってきます。ハーモニーがとても美しく、トランペットとかの破裂音もクリアーなのです。単調な曲でも立体感が生まれます。

第1楽章から3楽章まではハイドンの交響曲に似ており、古典交響曲の見本のようでしたが、4楽章はモーツァルトらしい溌剌さに溢れていました。ここではトランペットのスタッカートがとても魅力的でした。

ここで前半が終わり休憩です。二階に上がり、ホール二階正面のテラスに出てみました。日が当たりとても眩しいですが爽やかな風が吹き、とてものどかです。さてリフレッシュしたところで今日のメインのミサが始まります。

《ハイドン/ネルソン・ミサ》

ネルソン・ミサと名前がついたのには二つの説があるそうです。ひとつはハイドンがミサを作曲中にネルソン提督がナポレオン艦隊を敗り、このニュースに刺激された為とか。もうひとつの説は、ネルソンがエステルハージ家に滞在した時、ハイドンに時計を与えたそうです。その代わりにハイドンがミサをネルソンに献提したのでネルソン・ミサと呼ばれるとか。

ステージにはオーケストラと合唱が勢ぞろいしました。前半は終始穏やかでしたが、合唱が登場すると自然と姿勢を正してコンサートに臨む雰囲気になります。キリエの冒頭のトランペット・ファンファーレとティンパニでいきなり強烈な喝を入れられました。オルガンの持続音も緊張感満点。この曲には木管とホルンのパートが無いそうです。これは当時ニコラウス公が管楽奏者達をリストラしたので、ハイドンは止むなくオルガン・パートで代用した為とのこと。でもこの冒頭のサウンドは独特で、全てを見透かすほど透明で鮮烈です。

これに追い討ちを掛けるように合唱が加わり聴いている方は完全に釘付け状態。バッハ合唱団はとても若い人が多くて元気一杯です。それに美人の方が多いですね。あっ、ジョディ・フォスターが歌っている?とびっくりするほどそっくりさんが歌っていました。バッハ合唱はシェーンベルク合唱団に比べると多少荒削りです。でも多少の粗さはむしろネルソン・ミサには相応しいかもしれません。一人一人が吠えるというのは言い過ぎかもしれませんが、とにかくパワフルなのです。さらにソプラノがナポレオンの戦艦を沈没すべく勢いで咆哮します。ソプラノは若くて美貌のローテンスです。彼女はロンドン、アムステルダムで学び、ハイドンが得意だそうです。

戦闘的なキリエに比べてグローリアは沸き上がる歓喜。上昇する合唱をライブで聴くと、モーツァルテウムの高い天井から勝利の歌が降り注いでくるようです。中間部ではクプファーのバリトンが厳粛な気分にさせてくれました。彼はテオ・アダムとフィッシャーディスカウに師事したそうです。グローリアは再びソプラノのリードで盛り上がり、合唱がこれに続きます。

クレド、サンクトゥス、アニュス・デイと続きますが、穏急の起伏が大きなうねりとして次から次へと押し寄せます。そもそもこの大ホールは客席とステージがとても近いと言うか、一体感を感じさせる構造です。ですから観客も自ずとミサに奮い立つ訳です。それにしても合唱のハーモニーと終始司令官の役目を担うソプラノが素晴らしかった。まさにゲルマンの血をかいま見るような演奏でした。圧倒的な充実感に満腹です。マチネーの感動を引きずって夜の「魔笛」に臨むことになりました。

三つのミサを聴いて・・・
今回の旅ではモーツァルト/シューベルト/ハイドンとミサを聴いた訳ですが、モーツァルトには輝かしさを、シューベルトには荘厳な雄大さを、そしてハイドンには勇ましさを実感しました。聴いた場所も教会、祝祭劇場、モーツァルテウムと様々でしたが、普段余り聴かない宗教音楽の深さと素晴らしさを体験できました。

●モーツァルト週間1998

本日のプログラムにモーツァルト週間のチラシが入っていました。毎年の1月下旬に開催されますが、結構充実したプログラムです。ご参考までに・・・

◇モーツァルテウム管弦楽団(1/23,29)
  ピノック指揮ほかで、モーツァルトのピアノ協奏曲とか交響曲など
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◇ザルツブルク・カメラータ・アカデミカ(1/25)
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◇ザルツブルク・バロック・アンサンブル(1/30)
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◇クアトロ・モザイク&アンドラス・シフ(1/24)モーツァルト協奏曲
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◇ウィーンフィル(1/24,27,30)
  ラトル、ムーティ、メストらが指揮してハイドン、モーツァルトを。1/30には
 ペライヤも出演。
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◇コンツェントゥス・ムジクス(1/31,2/1)
  アーノンクール指揮チェチーリア・バルトリによるアリアとシンフォニーの夕
 べで、オール・モーツァルトのプログラム。
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◇イングリッシュ・バロック・ソロイスツ&モンテヴェルディ合唱団(1/31)
  ガーディナー指揮ツィザーク、フィンク、ウィドメル他でハイドンの天地創造
 とモーツァルトのジュピター交響曲。
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◇ピアノ・リサイタル
 前島園子(1/26)、メルヴィン・タン(1/30)、マリア・ペライヤ(2/1)
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◇室内楽
 ザルツブルク・クィンテット(1/24)、ザルツブルク・ホーフムジク(1/26,29)
 ハーゲン・カルテット(1/26,27)、プロ・アルテ・カルテット(1/28)ほか
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◇ウィーン・グラスハーモニカ・デュオ(2/1)

などです。下記アドレスにて書面チケット申し込み受け付け中とのことです。

INTERNATIONALE STIFTUNG MOZARTERUM
ABONNEMENTBUERO
Postfach 156
A-5024 Salzburg
Telefon:+43-662/873154 Fax:+43-662/874454

                                                              tujimoto

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