'97ザルツブルク音楽祭旅行記

ムーティ/ウィーン・フィル

■#2752 芸術劇場 97/10/ 2 1:35 (ID:DAT19113@biglobe.ne.jp)
ザルツブルク音楽祭(14)ムーティ/ウィーン・フィル tujimoto

●8月15日/7日目

今日で滞在1週間目になり、時間の経過がとても早く感じられます。演奏会とオペラもあと二日間となりました。今日のマチネーは祝祭大劇場でのオーケストラ・コンサート。今日もとても快晴です。祝祭劇場へは趣向を変えて、ミラベル公園からミュルナー橋を渡り、ザルツァッハ川の旧市街に向かって右岸を歩くことにします。ここは川沿いに木が植えてあり、ちょうど良い日陰になります。ベンチが並び市民達がのんびりとたたずむ場所で、観光客は余り歩いてはいません。歩いていて、この静けさが気に入りました。しかしここからだとホーエンザルツブルクの城は本当に遠くに聳えています・・・やっとマカルト橋に合流。ここからはいつもと一緒の道を祝祭劇場へ・・・

♪ ORCHESTERKONZERTE
15. August 1997, 11:00 Uhr, Grosses Festspeilhaus

Schubert Symphonie Nr.3 D-Dur D.200
Messe As-Dur D.678
Solisten Ruth Ziesak, Sopran
Monica Bacelli, Alt
Rainer Trost, Tenor
Rene Pape, Bass
Markus Fohr, Orgel
Dirigent Riccardo Muti
Wiener Philharmoniker
Arnold Schoernberg Chor
Koestlerischer Leiter Erwin Ortner
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ムーティはウィーンフィルにとって特別な存在であって、重要な記念コンサートはムーティが指揮することが多いようです。私も何度かこの組み合わせを聞いたことがあり、その卓越した統率力と生き生きとした演奏に魅力を感じます。ところで、今までザルツブルク音楽祭ではムーティがオペラを指揮していたのですが、彼はモルティエと意見が合わなくなったそうです。モルティエの過激な演出方針では指揮が出来ないとして、彼はモルティエが音楽監督である限りオペラを振らないと宣言・・・もっともモルティエは進歩的ですが、誰とでも喧嘩をしてしまうようです。

とはいえムーティがウィーンフィルを振ってくれるというのは喜ばしいこです。今年の音楽祭テーマはシューベルトとメンデルゾーンで、今日はオール・シューベルト・プロの交響曲3番とミサ5番です。8月後半にもガーディナー/ウィーンフィルの交響曲8番(グレイト)がありますが、今日のプログラムは余り有名な曲ではないかもしれません。でもシェーンベルク合唱団も後半に控えており、期待が高まります。

●シューベルト「交響曲3番」

この交響曲はシューベルト18歳の時に作曲され、とてもコンパクトでエネルギッシュな作品ですね。ムーティ/ウィーンフィルのシューベルト交響曲2番はCDで聴いたことがありますが、このコンビで第3番は初めてです。

今日のコンサートマスターはヒンク。ムーティがいつものように堂々と指揮棒を振りました。第1楽章、冒頭のトゥッティと続く木管のパッセージの前奏では未だどのような演奏になるか分かりません。クラリネットと弦の第1主題は生き生きとした調べで、まさにウィーンの音楽です。これに柔らかな弦と張りのある金管がリズミカルに合奏・・・
ムーティはやはり貫禄十分で、軽く流しながら指揮しています。オーボエの第2主題のレントラーはとても甘い響きで、まさしくウィーンフィルの音です。音楽は自由な伸びやかさで展開され、端正な第1楽章があっという間に終了。

第2楽章と第3楽章メヌエットの聴き所はやはりウィーンフィルの木管と弦。いずれの楽章も、のどかな風景を見るような美しい演奏でした。

第4楽章プレストはベートーヴェンの交響曲のようなダイナミックさが特徴です。ムーティの指揮ぶりは余り細かな指示を与えないで、ウィーンフィルの自発性を尊重しているようです。例えば、一時的に指揮棒を振らないでムーティ自身が音楽の流れに身をまかせ、タイミングを合わせてまた指揮棒を振り始めます。またヴァイオリンとチェロの早いパッセージへは指揮棒が鋭く振られ、機敏なボーイングがこれに答えます。抑揚のある壺を心得た指揮は見ていてもとても気持ちが良いですね。そしてヴァイオリンのリードに対し管楽器がこれに呼応。音楽が生き物の如く推進していきます。

シューベルト3番はヴォリュームは少なめですが、ウィーンの香りとシューベルトの快活さが凝縮された逸品でとても美味しく頂けました。シェフのムーティはウィーンフィルという贅沢な素材の旨味を引き出すのが上手です。へたな香辛料など子技は使わず、ストレートな味わいを醸しつつ、弦、フルート、オーボエ、ホルンの味がハーモニーさせたのはさすが。インスピレーション溢れるさっぱりした料理に拍手喝采!。

●休憩
このところ連日、重量級オペラを見ているので、感性は鍛えられています。でもそれだけ鈍感になりつつあります。すなわち舞台と歌のあるオペラでないと感動しなくなってしまいました。コンサートだったらマーラーとかブルックナーなどヴォリュームたっぷりの曲でないと欲求不満になりそうです。ウィーンフィルの演奏だからといってシューベルトでは何となく物足りなさそうでしたが、今の交響曲を聴いてその心配は吹き飛びました。

後半のミサに期待しながら休憩です。外に出ると強烈な太陽が照りつけています。しかしザルツブルクといえば半分は雨だと聞いていましたが、連日天気が良いのも異常気象なのでしょうか。暑いのでオーランジュ・ザフトを一杯。まさか午前中からシャンパンは飲めませんよね。でも結構飲んでいる人が居た。

開演前のブザーで席に戻ります。祝祭劇場の一部は岩盤に埋まっているので普段はひんやりしています。それと弱い冷房がはいっているので外に比べると涼しく感じます。

●シューベルト「ミサ5番・変イ長調D.678」

交響曲3番が前菜ならミサはメイン・ディッシュです。ムーティはこのところシューベルトのミサをよく演奏しているようです。今年の5月の祝祭週間にはウィーンフィルと変ホ長調のミサを演奏して好評だったとか。その続編が今日の変イ長調のミサとなるわけです。ちなみに来年の5月はケルビーニのミサを振るようです。

ステージにはシェーンベルク合唱団の並びは台形状に、その両翼はハの字に折れ曲がって、オーケストラ後方を取り囲んでいます。シェーンベルク合唱団は1972年、ウィーン音楽院出身者を中心に創設され、レパートリーはルネッサンスから現代ものまでいろいろ。得意なのはやはりモンテヴェルディ、バッハ、ハイドンを初めとするミサです。最近ではウィーン祝祭週間でもアバド指揮のシューベルト「フィラブラス」やザルツブルク1992でのメシアン「アッシジの聖フランチェスコ」などで歌ったそうです。

さて本日のソリスト達とムーティが登場。最初からすごい拍手です。

  • ソプラノのツィザークはドイツ語圏を中心に活躍され、最近はロイヤル・オペ ラでティーレマン指揮のパレストリーナに出演したとのこと。5月のムーティ VPOの変ホ長調ミサでも歌ったそうです。青いロングドレスをスタリリッシ ュに着こなした金髪美人で、ひときわ目立っています。
  • メゾソプラノのバチェリはローマで学び、ムーティとの共演が多いようです。 日本でもミラノ・スカラのファルスタッフに出演しました。主にモーツァルト とロッシーニが得意。
  • テノールのトロストはモーツァルトのいろんな役をこなし、いろんな劇場に出 演していますね。最近ではハンブルク・オペラで良く歌っているようです。
  • バスにはラミーが予定されていましたが、ボリス同様キャンセル。代役は魔笛 にも出演しているルネ・パーペです。2月の「メフィストフェレ」ではラミー が素晴らしい歌を聞かせてくれましたが、病気とは残念です。

『キリエ』
最初のキリエでは静けさを讃えた合唱が心を落ち着かせてくれます。ソプノラノのツィザークは「キリステ」を歌い始めますが、音程が少しずれたようです。何となく危なっかしい様子です。テノール他のソロが後に続き、再び静かな合唱でキリエが終わりました。

『グローリア』
キリエは本当に祈るような静けさだったので、対照的なグローリアでは日が注したような輝かしさを感じます。ここでは合唱と管弦楽の吹き上がるような音楽ですね。ちょうどシェーンベルク合唱団はアーノンクールの指揮で同じミサをTELDECに録音していますが、そのCDではとても奥ゆかしい演奏でした。ムーティVPOとの共演ではもっと明るく、自由奔放とは言い過ぎですがとても開放的です。

『クレド』
ここでは合唱が暗さを湛えた深刻な響きから突然、明るく躍動に満ちた響きに変化したり、まさに変幻自在。オーケストラの音色の変化もひとつの聞きどころです。ソロと合唱とオーケストラが交互に掛け合いながらパンチある演奏が展開されました。ムーティはこんな音楽が得意中の得意で、音楽の盛り上げ方がとても上手です。うーむ、しかし今日のウィーンフィルは良く鳴っています。

『サンクトゥス』
サンクトゥスはとても短いですが、シューベルトの清らかな祈りと感謝が荘厳に響きます。シューベルトがミサ・ソレムニスとして作曲した所以を実感する箇所です。しかしそれにしてもシェーンベルク合唱団の厚いハーモニーも美しい。続くホザナは上昇旋律で盛り上がり、あっという間に通過。

『ベネディクトゥス』
ツィザークは最初どうも調子良くなかったようですが、もう大分調子が出てきたようです。ピチカートにのってソロの重唱で開始。これに合唱が控えめに加わり、ウィーン音色の木管と弦がささやきます・・・
そしてサンクトゥスでのホザナが短く繰り返され、アニュス・デイへ

『アニュス・デイ』
ここはしみじみと敬虔さが支配する音楽です。ソリスト達の重唱が続き、静かな合唱と重なり合います。ここで初めてトロストのテノールやパーペのバスに気がつきました。祈るようなソロと合唱が静かに静かに瞑想するのです。最後は厳かに盛り上がりを見せて、意外とあっけなく終了。

アーノンクールのCDと比べると、ムーティの演奏は遥にシンフォニックで厚みがあります。ムーティといえばイタリアの歌を感じさせるのですが、むしろ今日の演奏は重厚で荘厳なドイツ音楽でした。

アーノンクールは100%鳴らし切らない奥ゆかしさ、すなわち懐の深さが感じられ、これも捨て難いです。80%位のゆとりが聴衆のインスピレーションを駆り立てるようです。これに対してムーティは音楽が鳴るときはほぼ100%鳴り響き、音楽の流れがうねりとなり、聴衆に押し寄せてきます。この流れはとても自然なので、聴く方は安心して身を任せられる・・・?うまく説明できません。

カーテンコールは言うまでもなく大拍手。ムーティVPOとソリストと合唱は豪華すぎる組み合わせで、観客は何の不満もありません。床もドタドタと響く拍手が続くのでありました。

●演奏会終了後

コレーギエン教会横の道を三人連れが並んで歩いていました。真ん中の人がやたに巨体で、どこかで見たような方です。西ドイツのコール首相にとても似ていました。まさかと思いましたが、通りのカフェで休んでいる人達が手を上げて、ヤーとかなんとか言っているので、コールに似た人も手を上げて答えていました。やっぱり本物のコール首相!でした・・・これにはびっくり
首相も同じマチネーを聴かれたようです。それにしても警備のSPも付けなくて自由に行動できるのはザルツブルクだからでしょうね。

今日は趣向を変えて中華レストランで昼食。滞在も残り少なくなってきたので、適当にお土産でも買うことにしました。ホテルに帰る途中、急に暗くなってきました。連日、超快晴だったのが急に嵐の気配。ポツリ、ポツリと雨が降ってきました。滞在1週間目にしての初の雨! 暑さに木陰を求めて歩く毎日だっただけにこの雨は嬉しく思いました。

さて今日のオペラは「ルーチョ・シッラ」!
モーツァルトですがこれは大変なオペラです。雨なので、リブレットでも復習しようとホテルへ向かうのでありました。・・・実際は昼寝をしてしまいました。

                               tujimoto

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