ベルリンからのモバイルコンピューティング(4)


ウィーン>国立歌劇場/メフィストフェレ   2.25 tujimoto


Dienstag, 25 Februar 1997 STAATSOPER

       MEFISTOFELE / Arrigo Boito

 (Koproduktion mit dem Teatro alla Scala, Milano)
Szenische Einrichtung
nach der Regie          Pier'Alli

Musikalische Leitung    Riccardo Muti
Spielleitung            Lorenza Cantini
                        Diana Kienast
Choreographie           Antonella Agati
Choreinstudierung       Dietrich D. Gerpheide

Mefistofele             Samuel Ramey
Faust                   Keith Ikaia-Purdy
Margherita / Elena      Miriam Gauci
Marta / Pantalis        Nely Boschkowa
Wagner / Nereo          Ruben Broitman

Knabenchor Bratislava
              Leitung   Magdalena Rovnakova
Pause                   nach dem ersten und driten Akt
Beginn                  19 Uhr
Ende                    22:30 Uhr
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この公演はミラノ・スカラ座との共同制作です。既に95年スカラ座で上演され、
ピエラッリの舞台装置/演出およびムーティの指揮で話題となったそうです。
ライブCDを聞いた時は、ダイナミックさと美しさに驚き、ぜひ見たいと思いまし
た。ウィーンでの公演はこの2月からで、またメフィストフェレ全曲はウィーンで
も久方ぶりということで期待されていました。記録によるとオペラとしては1920年
のフォルクスオーパー以来だそうです。演奏会形式では1973年のコンツェルトハウ
ス(ギャウロフ出演)の記録があるだけです。今回は2月13日が初日で、本日は
5回目の公演にあたります。

メフィストフェレ見たのは初めてでしたが、『余りの凄さ!』に息を呑むばかり。
というのはムーティの強力な指揮もさることながら、聞く者全てを引き込む魔力が
オペラ全体に満ち溢れているのです。 特に歌・合唱・バレエ・衣装・舞台・美術
・演出の全てが見事に調和しているのには感心しました。やっぱり共同制作だと資
金面でも有利になるのでしょうか、かなり金を掛けているようです。
という訳で今回、舞台を中心にレポートしたいと思います。

◆今日の席も平土間、指揮者がよく見えそうです。昨日はドミンゴ出演したせい
か、観客の衣装とても華やかでしたが、今日は比較的地味です。はやり今日のオペ
ラ、開幕前から興奮してきます。

ムーティが颯爽と登場。プロローグの壮大な音楽が開始され、幕が開くと紺色の夜
空。ここはとても神秘的。舞台を全貌出来るまでは期待に満ちた緊張が続きます。

星空の中間幕が上がると、そこは天上界。銀色の鎧姿で大合唱が出現。CDの解説
に載っているカラー写真と同じ光景です。舞台の幅一杯に整列した6列編成で、第
1列目は少年合唱、第2、3列は女性合唱、第4〜6列は混声合唱です。
これだけ合唱が並ぶと実に壮観!

背景には大きなリングがあり、薄い光を帯びています。神々しい合唱がクライマッ
クスを迎えると、上がり舞台でさらに合唱が舞台奥上方に出現。これは本物の合唱
ではなくレプリカ人形で、壮大さを演出する駄目押しの仕掛けです。しかしこれは
過剰演出ぎみ。

いよいよメフィストフェレが登場。合唱の中央部から突然、姿を現しました。
とてもひょうきんです。ラメイのメフィスト、長身で身のこなしが軽く、悪魔に
ぴったりですね。歯切れの良いバスはとてもパワフル。軽く歌っていても、すみず
みまで響く声量には驚きました。CD録音ではダイナミックレンジが狭い為でしょ
うか、ライブで聞くラメイの歌は本当に凄いです。

壮大な音楽と合唱が高揚するに従い、背景のリングに取りつられたカクテルランプ
が光出します。さらにリングに囲まれた部分はプロジェクターのスクリーンになっ
ており、ダイヤモンドような光輝く物体が映し出されます。これが回転し、音楽が
クライマックスに到達するとビックバンの如く、閃光を放射。最大限に光り輝いた
リングは、客席をも光で埋め尽くしました。この荘厳な感動はマーラーの「復活」
と同じ、いやその数倍以上の感動ではないでしょうか。舞台の荘厳な輝きの中で合
唱とオーケストラがフルパワーで炸裂した音楽は全てを圧倒しました。
実にプロローグ終了までたったの30分しか経過していません。こんなに早くクラ
イマックスがあって、後が続くのだろうかと心配になりました。

◆第1幕フランクフルトの街角では、先ほどの円形スクリーンに教会の尖塔が映っ
ています。舞台中央奥から手前に向かって幅の広い階段があり、復活祭の踊りが繰
り広げられています。ここでバレエがあるとは知りませんでしたが、音楽と見事に
一致。ミラノ・コレクションとは関係ないとは思いますが、バレエの衣装斬新で舞
台と調和しています。

さてイカイヤープルディのファウストが登場。昨年イカイヤープルディ聴いたので
すが、それほど上手いとは思いませんでした。が、今回は抜群の出来栄え。
「止まれ、お前は美しい」の契約場面では声の艶・張り・輝かしさに聞き惚れてし
まいました。最初の出だしから調子が良いので、これからじっくり楽しめるなと、
実に幸せ。

メフィストと二人で享楽の旅に向かう場面も円形スクリーンを上手く使っていまし
た。スクリーンには宇宙が映し出され、星が飛び交っています。ト書では魔法のマ
ントに乗ることになっていますが、ここでは宇宙船らしき円錐形の物体がスクリー
ンに登場。これが次第にズームアップされ、スクリーン手前でメフィストとファウ
ストが手をつなぎ、下り舞台で沈んでいくところで第1幕終了。ハイテク映像とシ
ンプルで美しい舞台の効果、驚くほど音楽と融合していました。

◆第2幕にはガウチが歌うマルゲリータが登場。ガウチ聞くのは初めてですが、美
女で熟練した歌を楽しませてくれました。なぜか主役の3人とも歌が上手いので、
聞いている方は本当に嬉しくなります。それとも舞台に気を取られて、誰が歌って
も上手に聞こえるのか?と自分が疑わしくもなります...しかし冷静に聴くと本
当に素晴らしいのです。

舞台には大きな円形の環が3つ置かれ、中央にはやはり円形スクリーンに幻想的な
模様が映されています。この3つの円環はマルタの庭の木を象徴していると思うの
ですが、全幕共通の円形デザインという一貫性に支配されているようです。輪廻と
いう円環に、青年エンリーコが、再び年老いたファウストに回帰することを暗示し
ているのかもしれません。

場面は変わってハルツ山中。ファウストとメフィストは舞台を左右に動き回ってい
ます。歩いている訳ではなく、舞台の一部に動く歩道のようなものがあり、これに
乗っているのです。舞台の両サイドに行くと、舞台下に沈み、また浮かび上がると
いう手の凝った仕掛けです。不気味な音楽に合わせて、ファウストとメフィストが
別々の方向にかなりのスピードで彷徨っています。しばらくして二人は、ブロッケ
ンの先鋒で囲まれたハルツ山を登って行きます。

そこは妖怪達の饗宴の場面。骸骨と蜘蛛の2種類の妖怪達の薄気味悪い合唱と踊り
はとてもグロですが 躍動感があって異様な迫力で迫ります。ここでメフィストフェ
レが圧倒的な存在感を示します。ひときわ長身なメフィストが左右に体を振ると、
それに呼応して無数の妖怪達が左右に体を振ります。まさに悪魔メフィストの支配
された魔の世界は圧巻でした。

◆妖怪の饗宴と見事な対比を示したのが、第4幕「古代ギリシャの饗宴」でした。
この舞台はイオニア様式の大きな半円形の柱が林立するとても美しい情景。
ペネイオス河畔でトロイの美女ヘレナが舟遊びしている場面です。とても美しい妖
精達のバレエも十分楽しませて頂きました。均整のとれた振り付け、ハルツ山の妖
怪とのコントラストが強烈です。

ガウチの演じるマルゲリータは第3幕で息絶えますが、ヘレナとして再び登場。ス
カラ座ではクライダーが出演したそうですが、ここは美貌のガウチの方が絵になり
そうです。パンタリスとの二重唱もとても心地好い響き。第4幕後半はファウスト
が加わり、ヘレナ、ニンフの合唱による情熱的な音楽が繰り広げられます。短い場
面ですが、舞台の美しさ、歌手達と合唱の素晴らしさに目と耳が放せません。(こ
の場面の舞台写真がアルカディアのショーウィンドウを飾っていました。非売品
だったのが残念)

◆エピローグでは、再び第1幕2場のファウストの書斎。教会を思わせるようなス
テンドグラスの窓が舞台正面にあり、円形スクリーンは有りません。メフィストと
ファウストの最後の場面でもあります。ファウスト老人に戻っても若々しい歌が多
少違和感を感じましたが、ラメイの歌にはとても深みが感じられました。
プロローグと同じ天使達の壮大な大合唱で幕となりました。

聞き終わって、このオペラは見せ場と聞かせどころが実に盛り沢山に詰まっていた
ことに驚きます。各場面をバラバラな舞台装置や衣装でオペラ作りしていたので
は、本当に見ていて混乱しそうです。舞台を担当したピエラッリの偉いところは、
各場面の舞台をシンプルにしてコンセプトが良く見えるようにしていることです。
さらに各場面に統一性を持たせています。統一性のひとつは曲線美です。ある場面
では円形、ある場面では半円、円弧などの舞台美術が現れます。また衣装も丸みを
帯びたとても美しいものです。このように舞台と衣装とについても細かな整合が図
られています。この統一性により各場面がバラバラにならず、一貫してドラマの進
行もスムーズなのです。これに円形スクリーンとハイテク映像を組み合わせて、よ
りリアルかつ幻想的な効果、圧倒的な舞台効果などを作り出しています。見てい
て、これは天才だと本当に思いました。

やはりこれだけの感動の源泉はムーティの指揮にあります。ウィーンのオーケスト
ラも完全に掌握しているムーティのことですから、期待はしていました。やはり予
想通り、素晴らしい演奏、良かったです。大音響で劇場を揺るがす演奏はシンフォ
ニックですらありました。

実はこの2月25日の同じ時間にバレンボイム/ウィーンフィルのブルックナーが
楽友協会で演奏されているのです。ということは本日のオペラ、ウィーンフィル不
在ということで心配はしていました。しかしオーケストラピットにはキュッヒルさ
んを筆頭とするムジークフェライン・カルテットのみなさんが居ます。ムーティに
「お前達は残れ」とでも言われたのでしょうか、良く見ると所々ウィーンフィルの
人達もかなり残っていました。

観客のみなさんも圧倒されたようで、ブラボーの連発でした。今日のオペラ本当に
良かった。もう一度見たい。ウィーンでの次の公演は6月ですが、行けそうにない
ので、日本にもいずれ持ってきて欲しいと期待しています。以上、初めてメフィス
トフェレみて感激したレポートでした。
                                     tujimoto

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