2008.02.24 ヘンデル『テゼオ(テセウス)』ペーター新演出マルキ指揮/ベルリン・コーミッシェ


komische oper berlin
Sonntag, 24. Februar 2008

Theseus
Oper in fuenf Akten von Georg Friedrich Haendel
Libretto von Niccolo Francesco Haym
Deutsche Textfassung von Bettina Bartz und Werner Hintze

Musikalische Leitung Alessandro de Marchi
Inszenierung Benedikt von Peter
Buehnenbild Natascha von Steiger
Kostueme Katrin Wittig
Video superjeans (Bert Zander, Robert Lehninger)
Dramaturgie Werner Hintze
Licht Franck Evin

Theseus Elisabeth Starzinger
Agilea Marina Rebeka
Medea Stella Doufexis
Aegeus Hagen Matzeit
Clizia Karolina Andersson
Arkane David DQ Lee
Der Kameramann Andreas Deinert
Ein Buehnentechniker Rainer Boesel
Familie Fayad Familie Fayad
Zwei Kinder Joschua Bensch, Immanuel Rathke

Es spielt das Orchester der Komischen Oper Berlin

Basso continuo I
Violoncello Christoph Lamprecht
Kontrabass Joerg Lorenz
Theorbe Thomas Ihlenfeldt
Erzlaute Frank Pschichholz
Cembalo Massimiliano Toni

Basso continuo II
Violoncello Elias Grandy
Barockharfe Loredana Gintoli
Cembalo Alessandro de Marchi

Toneinspielung in 2. Akt...
Die Chorsolisten der Komischen Oper Berlin
(
Einstudierung: Robert Heimann)

Pause nacha dem 3. Akt / Spieldauer ca. 3 1/2 Stunden

---

今日は、チューリヒ14:20発のエアー・ベルリンでベルリン・テーゲル15:30頃に到着した。昨日よりもさらに快晴となり、昼間の気温は初夏を思わせる陽気。19時からコミッシェ・オーパーのヘンデル:歌劇「テセウス(テゼオ)」を見た。演奏はアレッサンドロ・デ・マルキ指揮のコミッシェ・オーパーのオーケストラに古楽奏者達が加わる。演出はベネディクト・フォン・ペーターによる新プロダクション。さてヘンデルのテセウスに関しては、ウィントン・ディーン著「ヘンデルとオペラ・セリア」に詳しい解説があり、作曲の経緯を含めて非常に興味深い。

第1に、台本はリュリのオペラ「テセー」の台本を改作したものであること。奇しくも一昨日にリュリのテセーを見たから、本日の公演を合わせてヘンデルのバージョンが楽しめる。第2に、メディア(メデー)に強いキャラクターを持たせている点。これもリュリ作品でも同じで、アンネ・ゾフィー・フォン・オッターが灰汁の強い個性を聞かせた点から、本日の演出ではどうかと期待する。また、ヘンデルのテセウスは英雄と魔法のオペラとして、沢山の機会仕掛けで当時の人々を喜ばせたとの点。ますますもって、コミッシェ・オーパーではどのような演出となるのか。第3に、アンサンブルのパートは二つに分けて、それぞれを組で演奏することで効果を上げている点。

まず今回の新演出では5幕構成は忠実に守られてはいるものの、現代の若者のドラマとして焼き直し、戦争をテーマとしつつ、爆笑パロディに仕上げられていた。第1幕冒頭では、壁が降ろされた前側左手にコーヒーマシンがあり、それぞれ4人が椅子を並べた演劇から始まる。コンテンポラリー音楽を加えつつ、突然、ヘンデルのレチタティーヴォ、オペラを歌い始めるといった具合に次第のヘンデルの多彩な音楽がそのまま現代ドラマへとオーバーラップしてくる。まるでコンヴィチュニーを彷彿とさせる手法。

幕代わりの壁があがると、巨大な暗闇空間が広がり、天井からは強雨が降っている。最前列の席にまでその水しぶきの霧が注いできて、会場の気温は急激に下がってゆく。中央にテント小屋を設けて、その外側では登場人物が泥だらけとなる。テント小屋の天井にはinsel(安全地帯)とかplast(宮殿)と表示する電光板がつけられている。ライブ・ビデオを駆使したユニークな展開もあり、ヘンデルの機会仕掛けに相当するものといえば、巨大の送風機が登場し、嵐を作り出す。むしろ演出はパロディの爆笑を誘うものの、陰惨さを湛えたものとなっている。特にテセウスはテロリストかと思う風貌の破壊的なキャラクター。プログラム冊子の冒頭に掲げられたウォルフガング・ゾフスキー「文化は自己破壊能力を生み出す」を示唆しているのかとも思ってしまう。またハイナー・ミューラー1994年、東西、南北の衝突に関する記事、同じくミューラーのメディア・マテリアルの詩なども冊子に載せられており、パロディの裏に潜むシリアスさに満ちた演出となっている。以上のように音楽はヘンデルのテセウスであっても、現実のドラマとして写像された新たな演劇としてインパクトを放つ。なおメディアのキャラクターはさすがに個性が強く、テセウスや誰に対しても中心的存在であることには変わらない。

さて演奏は指揮者自身もチェンバロを演奏するが、コンティヌオが2組のグループに分かれている点が興味深い。第1コンティヌオはチェロ、コントラバス、テオルボ、ラウテ、チェンバロ。第2はチェロ、バロックハープ、チェンバロ。さらにオーケストラピット内の左側は管楽器が占め、ピット壁際には管楽器のソリスト達をステージに向かって並び、対向面にはそれ以外の管楽器奏者達が客席に向かって演奏。同様に、右側に弦楽器奏者のソリスト達と弦合奏と対向しあうレイアウト。さらに右手外側にパーカッションと金管群が並ぶ。各パートを二組に分ける手法が随所に用いられており、その音響は非常に多彩な奥行き感を生み出す。特に歌手とソロ楽器のデュオなどでは絶妙の効果を生み出している。加えてオーケストラピットだけの演奏には留まらず、予めテープ録音したパッセージが客席のサラウンドステレオとして流されて、ライブと収録とがコントラストする場面が実に新鮮な驚き。以上、実験的要素を多分に取り入れた刺激に3時間半の「演劇」をたっぷりと楽しめた。何時もながらベルリン・コミッシェは自由な発想に満ちた奇抜な演出が期待できる!



[HOME]