2007.10.13 『テルドモンテ川のヘラクレス』ビオンディ&エウローパ・ガランテ/ヴェネチア・テアトロ・マリブラン


Fondazione Teatro La Fenice di Venezia
Teatro Malibran
sabato 13 ottobre 2007 ore 15.30 fuori abb.

ERCOLE SUL TERMODONTE
dramma per musica in tre atti RV 710
libretto di Antonio Salvi
erroneamento attribuito a Giacomo Francesco Bussani
musica di Antonio Vivaldi
revisione critica di Fabio Biondi
coordinamento musicale di Simone Giordano
prima rappresentazione integrale in tempi moderni

personaggi e interpreti
Antiope Romina Basso
Ippolita Roberta Invernizzi
Orizia Emanuela Galli
Martesia Stefanie Iranyi
Ercole Carlo Al;lemano
Teseo Jordi Domenech
Alceste Laura Polverelli
Telamone Mark Milhofer

maestro concertatore e direttore
Fabio Biondi

regia, scene e costumi
Facolta di Design e Arti IUAV di Venezia
Laboratorio intergrato diretto da Carlo Majer
coordinamento Vera Morzot, Tiziano Santi, Walter Le Moli,
Karina Arutyunyan, Claudio Coloretti, Barbara Delle Vedove
Anja Rudak (regia), Lucia Ceccoli (scene),
Caterina Lucchiari (costumi), Alessandra Premoli (stagista)

orchestra
Europa Galante

con sopratitoli
nuovo allestimento in forma semiscenica
collaborazione artistica Fondazione Teatro Due
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今日は15時半からテアトロ・マリブランにてファビオ・ビオンディ指揮のエウローパ・ガランテによるヴィヴァルディの歌劇「テルモドンテのヘラクレス」を見た。昨日のバヤゼットと同様にテアトロ・ラ・フェニーチェの今シーズン7本目となるプロダクションで、アニア・ルダックによる新演出。この珍しい作品は紛失していた作品であったが、最近の研究により復元されたもの。オリジナルは1678年、ヴェネチアのサン・サルヴァトーレ劇場にてジャコモ・フランチェスコ・ブッサーニの台本で初演され、その後、1723年ローマのテアトロ・カプラニカでの上演では台本の一部が変更された版が用いられている。今般、ビオンディによるバージョンで上演されるが、台本はアントニオ・サルヴィによるもので全3幕のあらすじは以下の通り。

第1幕
テミスクリアを都とするカッパドキア、アマゾン達の国、テルモドン川のほとりで物語が始まる。冒頭、アンティオペがアマゾン女性戦士たちが怠惰とならないように戦いに掻きたてている。彼女の娘マルテシアも宿敵と戦うことを望んでいるため、家庭生活にはうんざりしている。とかくするうち、ヘラクレスに導かれたギリシャの英雄たちテセオ、テラモネ、アルチェステがやってきた。彼らはエウリステウス王にアマゾン女王軍を征服すするよう命じられている。テセオはマルテシアを捕らえたが、彼らは以前から共に恋していた。恋に震えおののきテセオは彼女を逃がす。アンティオペは恐れを知らない妹オリツィアとともにギリシャ軍と戦うことに合意。そこにマルテシアが捕らえられた知らせが来る。一方、ギリシャ軍キャンプではテラモネとアルチェステがマルテシアを得ようと競い合う。そこにヘラクレスが仲介に入り、彼女は最も勇敢と証明できた者に与えられると言う。アマゾンはギリシャ人を捕らえギリシャの船を燃やしてしまう。戦いは白熱する。

第2幕
宮廷の廊下にて。イッポリタは彼女の最愛の人テセオへの想いを止められない。女王アンティオペはテセオを含めてギリシャ人捕虜たちへ復讐しようとするが、彼女の妹イッポリタはこれを思い留めさせる。イッポリタはテセオに逃げるよう勧めるが、彼が彼女に再び会えなくなるのを恐れて、逃亡を拒否する。テミスクリア近くのギリシャ・キャンプでは、友テセオが捕虜となたことにヘラクレスがやっけになっている。そしてテセオとマルテシアの捕虜交換を思いつく。そこで、アルチェステは彼が女王アンティオペの妹オリツィアを捕虜にしたことを伝える。テラモネはオリツィアをテセオと捕虜交換することを提案する。ギリシャ人たちはナイーヴなマルテシアに夢うつつの状態。テラモネとアルチェステは夫婦愛の節操をマルテシアに教え、彼女と結婚したくてしょうがないが、彼女は理解できない。その頃、テミスクリアのディアナ寺院にてテセオが処刑されようとしている時、突然イッポリタが間に入り、これを阻止。テラモネの取り成しでオリツィアが帰ってきて、テセオは本人の意思とは別に、自由の身でギリシャへ帰ることになった為である。

第3幕
テミスクリア郊外、ヘラクレスはテラモネがオリツィアを逃がしたことに激怒している。しかしテセオが帰ってきたため、テラモネを許す。テセオは死から彼を救ったイッポリタに同情するよう皆に説得する。一方、若いマルテシアはアルチェステが彼女の街に攻め入る事を訴える。イッポリタはアンティオペにヘラクレスに包囲された軍を放棄するよう説得する。オリツィアが戻り、テミスクリアが陥落したことを告げる。アンティオペは剣で自決しようとするが、マルテシアがこれに驚き、オリツィアが剣を折って阻止する。ヘラクレスはアンティオペの命ではなく、彼女の剣とベルトを欲する。アンティオペは敗北を悟るが、武器は既にディアナ神に授けたと主張する。従ってヘラクレスらは女神から武器を奪い取らねばならない。オリツィアはヘラクレスの超人的な素性を悟り、彼にアンティオペの剣を与えたいと考える。ついにディアナが現れ戦争の終結と引き換えにヘラクレスに武器を譲ることを認める。そしてテセオとイッポリタ、アルチェステとマルテシアの二組のカップルの成立とともにハッピーエンドで終わる。

以上のようにギリシャ神話のドラマティックさを特徴とするものの、オペラはユーモラスさと人間味溢れる内容。ステージは昨日のバヤゼットのステージ、すなわち矩形の空間に正面側に3つの扉、左右に二つの扉といったシンプルなもの。第1幕ではステージ前面に四角い衝立状の壁が下ろされており、登場人物はその前面で演じる。第2幕から衝立壁が上げられ、広大な空間にテルモドン川をイメージした水色のオブジェが横たわる。そしてシンプルで淡い照明が幻想的な情景を作り出す。登場人物達の衣装、特にアマゾン達はロココ調の優美さで戦士の姿ではない。オリツィアのみがウィリアム・テル風の戦士姿か。ヘラクレス以下英雄達は17世紀の騎士といったいでたち。

音楽はバヤゼットと同様、独特のメロディとテンポに彩られ、多彩さではバヤゼット以上に豊かな楽想に満ち溢れ、ティンパニとホルンが鳴り響く勇壮さはヘンリー・パーセルやヘンデルの英雄ドラマを彷彿とさせる。さらにはアンティオペをはじめとするアマゾン達が美しい歌声でエコーを奏でるような展開はR.シュトラウスの「ナクソス島のアリアドネ」をも連想させる素晴らしさ。このオペラを見るとヴィヴァルディの先進性に驚かされる。

歌手では目白バ・ロックに出演したラ・ヴェネシアーナのメンバーの一人、エマヌエラ・ガッリがオリツィア役で登場。特にアンティオペ役のロミーナ・バッソは魅力的で実に素晴らしい。キャストはいずれも役柄に合った個性的なもの。そして何よりもビオンディ率いるエウローパ・ガランテの素晴らしさ。古楽アンサンブルならではの繊細さからテンションを自在に操って、シンフォニックな展開まで実に鮮やかである。ヴィヴァルディの幻のオペラがこれほど素晴らしく、斬新なものだったのかと驚かされるばかり。20分の休憩2回を含めて3時間強は目まぐるしく展開する面白さに時間を忘れた。テアトロ・マリブランの音響の良さとエウローパ・ガランテのアグレッシブなアンサンブル、ビオンディの極上のソロなど音楽としても聴き所満載だった。

ヴェネチア二日目の今日も朝から快晴だった。昼と夜はともに運河沿いのテラスで魚介スープやスカンピなどヴェネチアの美味を楽しんだ。昼は夏の日差しが眩しく、夜は明かりを灯したゴンドラが幻想的だった。



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