2007.05.11 『マクロプロス』アンジェラ・デノケ/パリ・バスチーユ | ||
OPERA EN TROIS ACTES OPERA BASTILLE Direction musicale Tomas Hanus Orchestre et Choeurs de l'Opera national de Paris Emilia Marty Angela Denoke 今日はオペラ・バスチーユにてヤナーチェクの「マクロプロスの秘事」を見た。昨年12月、飯森範親指揮の東京交響楽団ではセミ・ステージ形式ながらも素晴らしい上演だった。今回はタマス・ハヌス指揮、クシシュトフ・ワルリコフスキ新演出に、アンジェラ・デノケ、チャールズ・ワークマン、デイヴィッド・キューブラーといったキャストに期待が高まる。 前奏曲では、ステージ全体にモノクロ映画が映し出される。護送車が列をなして疾走する場面は只ならぬ状況を示し、見るものを捕らえて離さない。これはビリー・ワイルダー監督の「サンセット大通り」の場面で、プールに浮かぶ死体が大きく映し出される。息を呑む展開にヤナーチェクの音楽が絶妙にマッチする。そして映画は初代キング・コング、マリリン・モンローの様々な映画、報道の映像へと変化してゆく。前奏が終わると、青い幕が降ろされ、歌手達はマイクを立てた位置でスポットライトを浴びる。最初に登場したアルベルト・グレゴルはショーの司会者のような展開で歌い、これに呼応して、ヤロスラス・プルスが顔だけをカーテンから出してスポットライトで照らされる。二人の対立というよりもコメディアンのような笑いが実にパロディックである。 そして再び幕が開くと映画館の場面。オーク調の木目に覆われた重厚感漂う空間が広がり、客席が正目に向かって並べられている。デノケ演じるエミリアはマリリン・モンローであり、下から風でスカートを巻き上げながら、ステージを魅了してゆく。ミュンヘンで衝撃的なサロメを演じたデノケならではの妖艶さだ。グレゴルやプルスも仲良くポップコーンを食べながら、ステージに映し出される舞踏会の映像に興じるといった場面も。 第2幕では巨大なキング・コングの手のひらにデノケが乗り、まさに映画における美女ぶりが強調される。ちなみにコングの赤い目が空ろな悲しみを湛えているのが印象的だった。ステージにはバスルームをはじめ様々な工夫が凝らされているが、スムーズな展開がドラマへの求心力を与えていて、見るものを離さない。第3幕切れではエミリアはマリリン・モンローに戻り、何とクリスタまでもが途中で着替えを始めてモンローに変身してゆく。 斯くのようにユニークな展開であるが、テンポ運びの良い演出がヤナーチェク独特の音楽と上手く合っている。ハヌス率いるアンサンブルは実にバランスが良くて素晴らしい。何よりもデノケで引き締められてゆく展開。圧倒的な喝采となった。休憩なしの凡そ2時間、高密度な内容に魅了され尽くした。 |
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