2007.03.17 『モーゼとアロン』ガッティ指揮/ウィーン国立歌劇場 | ||
Moses und Aron Dirigent Daniele
Gatti Moses Franz
Grundheber Orchester der Wiener Staatsoper Koproduktion mit dem Teatro Real,
Madrid 今日はTXL10:50発のLH便でウィーンに移動した。19時半からはシュターツオーパーにてシェーンベルク「モーゼとアロン」を見た。昨年6月にプレミエ上演されたプロダクションの再演である。レト・ニックラーの演出とダニエレ・ガッティの指揮はこれを機会に是非体験しておきたい。フランツ・グルントヘーバーのモーゼとトーマス・モーザーのアロンはプレミエ時と同じキャストで、若い女はイルディコ・ライモンディからカロリーネ・ヴェンボルネに替わっている。 開演前の防火カーテンにはブエノス・アイレス出身のリクリット・ティラヴァニヤのデザインによって、テレビのテストパターンのカラーコードが描かれ、ANGST ESSEN SEELE AUFの巨大な文字が異彩を放っていた。「精神、魂を食する(壊す)ことの怖さ」とは本日のオペラにも暗示的でもある。 さて、第1幕冒頭は、黒の壁に囲まれた閉鎖空間に黒い衣装と帽子のユダヤ人達がトランクケースを持ってうごめく。それはモーゼとは斥力をもったかのように、モーゼには近づこうとはしない。群集達が信じる多神教は彼ら一人ひとりが手にもつポートレートの偶像崇拝として描かれる。第1幕での見せ場はアロンが起こす三つの奇跡となるが、これらはいずれもステージ床から浮上してくる縦に連ねられたビデオディスプレイによって示された。第1の奇跡はモーゼの杖を蛇に変える場面で、1匹のコブラが3匹となり、互いに絡み合う様が効果的に描かれる。第2の奇跡はライ病女の手が綺麗に治癒してゆく様。そして第3の奇跡はナイルの水が湛えられた水槽が血に変わって行く。音楽的にもクライマックスとなり、シェーンベルクの複雑なスコアが絶妙のアンサンブルで展開した。このあたりから、群集は異常な狂気を感じさせ集団心理の恐怖とモーゼの葛藤が早くも示唆されている。 休憩を挟んで第2幕は金の牛が登場する有名な場面となるが、アロンが取り出した金のスカーフとジャケットを象徴として、群集達も金のスカーフに衣装といった展開で描かれる。特にICHの3文字が大きな金のオブジェで登場し、アロンがその上に立ち群集達を率いる展開となる。さらに10人の群集がそれぞれ10文字のオブジェをステージに運び、横一列に並んで「ICH BIN GOTT」となる。そして列を並び替えて「GOTT BIN ICH」という凝りよう。この時ステージ背面には無数のポートレートが取り囲み、群衆一人ひとりが神という多神教を強烈アピールする。そして群集達の前にスピーディに運ばれてきた無数のトランクケース。彼らはここから衣装を取り出して着替える。そして狂乱が始まる。中央に現れたモザイク状のディスプレイにはナイフや斧によるグロテスクな殺戮シーンが展開し、ピストルによる殺人ゲームが始まった。 狂気が絶頂に達したところで、ステージ背面に埋め尽くされた無数の多神教ポートレートがそれぞれ裏返しとなり、そこには巨大なモーゼが怒ったイラストが現れる。モーゼのシナイからの下山を象徴しており、十戒の石を二つに割ったモーゼが登場する。以上のような刺激的でインパクトあるステージ運びとともに、ものすごい数の群衆と強烈な合唱とアンサンブルにも驚嘆した。19時半の開演から21時45分まで圧倒の連続だった。なお本プロダクションのDVDはARTHAUSより発売される。 またプログラム冊子には、モーゼとアロンの歴代のステージ写真の数々が掲載されており、初演から5年を経たゼルナー演出をはじめ、ホール、クプファー、ポネル、コンヴィチュニ、ヴィラーズや3年前のムスバッハ演出など多彩。中でもコンヴィチュニのはコカコーラの自販機が面白そう。 |
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