2007.01.19 『聖母マリアの夕べの祈り』『タンクレディとクロリンダ』
ペルセヴァル新演出ヤーコプス&ベルリン古楽アカデミ


staatsoper unter den linden
CADENZA BAROCKTAGE PREMIERE FREITAG /19/01/2007

marienvesper
combattimento di tancredi e clorinda

Musik von Claudio Monteverdi

in lateinischer und italienischer Sprache

MUSIKALISCHE LEITUNG Rene Jacobs
INSZENIERUNG Luk Perceval
BUEHNENBILD Annette Kurz
KOSTUEME Ursula Renzenbrink
LICHT Mark van Denesse
DRAMATURGIE Francis Huesers

Keine Pause

Auffuehrung im Rahmen der CADENZA BAROCKTAGE
an der Staatsoper Unter den Linden
Auffuehrungsfassung von Rene Jacobs

SOPRAN 1 Sunhae Im
Sylvia Schwartz
SOPRAN 2 Maria Cristina Kiehr
Marie-Claude Chappuis
ALT David Hansen
TENOR1 Johannes Chum
TENOR2 Michael Slattery
TENOR3 Stephane Degout
BASS Sergio Foresti
Antonio Abete
TESTO Stephane Degout
TANCREDI Johannes Chum
CLORINDA Sylvia Schwartz

DIE FRAU in WEISS Nathalie Huenermund

akademie fuer alte musik berlin
VIOLINE Bernhard Forck / Doerte Wetzel
Kerstin Erben / Barbara Halfter
VIOLA Sabine Fehlandt / Stephan Sieben
Lothar Haass / Klaus Bundies
VIOLONCELLO Inka Doering
KONTRABASS Michael Neuhaus / Roberto Fernandes
BLOCKFLOETEN 1
RENAISSANCETRVERSFLOETE Christoph Huntgeburth / Martin Ripper
DULCIAN Christian Beuse

concert vocale

CEMBALO / ORGEL Andrea Marchiol / Massimiliano Toni
ERZLAUTE Shizuko Noiri
THEORBE Doris Benmaman
BAROCKHARFE Mara Galassi
VIOLA DA GAMBA 1
LIRA DA GAMBA Imke David / Juan Manuel Quintana
ZINK William Dongois / Eva Godard
POSAUNE Pascal Conzales / Fabien Dornic
Christiane Bopp / Franck Poitrineau

vocalconsort berlin

SOPRAN
Ulrike Barth / Claudia Bertz / Alexandra Lachmann
Marie Schuppan / Viola Wiemker / Susanne Wilsdorf
MEZZOSOPRAN
Wiebke Kretzschmar / Anne-Kristin Zschunke
ALT
Uwe Czyborra-Schroeder / Dorothee Merkel
TENOR
Klaus-Martin Bresgott / Sebastian Lipp
Markus Schuck / Joao Pedro L. Sebastiao
BARITON
Matthias Jahrmaerker / Hans Wijers
BASS
Martin Backhaus / Stefan Drexlmeier
Frank Schwemmer / Rene Steur

komparserie
Barbara Eggert / Rosemarie Fiedrich / Kertin Gebhardt
Antonia Labs / Alina Niborski / Friederike Noehring
Liane Osswald / Sylvia Rimpler / Uta Roessler
Galina Scholtz / Friederike Schroeter / Angela Stoebener
Patricia Stoebener / Wolfgang Gywinski, Thomas Funke
Nikolaus Groebe / Christoph Kirsch / Joerg Lucas
Gustavo Potenciano / Hans Werner Sander / Norbert Schallau
Mario Schloss / Jan Schmidt / Klaus Weiss

LEITUNG KOMPARSERIE Eveline Galler-Unganz

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今日のヴェネチアは昨日以上に霧がかかり冷え込んだ。昼前にALILAGUNAブルーラインで空港に向かい、13:05発のHLX便にてベルリンに向かう。ボルツァーノ、インスブルック上空を経て1時間40分ほどでベルリンに到着した。今日はシュターツオーパーにてルック・ペルセヴァル新演出として舞台上演されるモンテヴェルディ『聖母マリアの夕べの祈り』を見る。ルネ・ヤーコプスの指揮、ベルリン古楽アカデミーとコンチェルト・ヴォカーレによるアンサンブル、さらにヴォーカル・コンソート・ベルリンが加わった演奏となれば見逃す訳には行かない。加えて今日が初日プレミエで古楽週間を飾る。なおペルセヴァルはシャウビューネ・ベルリンに所属し、オペラではシュトゥットガルトで「トリスタンとイゾルデ」、ハノーファーで「マクロプロス」を演出している。

プログラムはヴェスプロ(晩課)とマドリガーレ第8巻「タンクレディとクロリンダの戦い」の2本立てに見えるが、それぞれを分けて演奏するのではなく、以下のようにミックスした形式で演奏された。

1. Domine ad adiuvandum
2. Dixit Dominus
3. Combattimento di Tancredi e Clorinda, erster Teil
4. Nigra sum
5. Laudate pueri
6. Combattimento di Tancredi e Clorinda, zweiter Teil
7. Pulchara es
8. Lauetautus sum
9. Duo Seraphim
10. Nisi Dominus
11. Combattimento di Tancredi e Clorinda, dritter Teil
12. Audi coelum
13. Lauda Jerusalem
14. Sonata sopra "Sancta Maria, ora pro nobis".
15. Ave maris stella
16. Combattimento di Tancredi e Clorinda, vierter Teil
17. Magnificat
18. Combattimento di Tancredi e Clorinda, fuenfer Teil

すなわち「タンクレディとクロリンダ」は3,6,11,16,18曲の5つに分割されており、それらを「聖母マリアの夕べの祈り」が挟み込み、全体を1つのドラマとして構成する。上記の曲順からも分かるように、ヴェスプロとしては順序通りに並べられ、マドリガーレを上手くミックスしている点が興味深い。ヴェスプロとマドリガーレは互いに融和しあうことで全く違和感が無い。むしろヴェスプロがドラマチックなオペラにスケールアップしたと考えれば、ステージ上演にも納得させられる。

ステージは床から天井近くまで左右に伸びた5つの層に分割される。その各層にアンサンブルと合唱をレイアウトするため、壁全体を音源とドラマのステージとする大胆な発想だ。さらにそれぞれの層は傾斜した階段が設けられていて、各層を歩いて順次上下できる構造となっている。従ってアンサンブルと声楽のメンバーが登場する際には、一番下の層から順番に登ってゆくことになる。合唱と古楽器奏者達が複数のグループに分かれ、各層が多彩なアンサンブル編成となる。例えば一番下の層には、左側からコントラバス、オルガン、ハープ、声楽、チェンバロが並ぶ。なおメンバーたちはカラフルな私服姿であり、演奏に加えてパントマイム的な演技も行う。演技のみ行うメンバーも多数加えられ、ドラマを演じて行く。音楽的にも高まりを見せる場面では、演奏者達を含めて各層を走りぬける場面もあった。

以上のユニークさから、ステージ壁全体が鳴り響くため、圧倒的なモンテヴェルディが展開する。それはまさに言葉を失うほどの衝撃。冒頭、短いアンティフォナの掛け声から、オルフェオのファンファーレが音楽の開始を告げる。続いて6声の合唱が壁全体のランダムな位置から聞こえてくるためか、ポリフォニックな展開も空間という次元を伴って立体的に聞こえてくる。まさにモザイク模様といった感覚である。

ヒポフリギア旋法によるドミヌスに続いて「タンクレディとクロリンダ」の第1パートが歌われる。タンクレディがクロリンダを兵士と間違え、互いが死を覚悟して戦う場面である。続く"Nigra sum"のソロモン雅歌がドラマチックさを高めてゆく。"Laudate pueri"のグレゴリ定旋律が神々しさを聞かせる。そして第2パートでは、彼らの死闘は激烈さを増し、遂には息をつくための休止となる。以上のようにヴェスプロとマドリガーレの組み合わせがテンションを高める。第3パートでは、タンクレディがクロリンダに名前を聞くもののクロリンダが拒絶。再び戦闘開始の場面が描かれる。第4パートでは、タンクレディがクロリンダの胸に剣を突き刺して彼女が地に伏す。瀕死のクロリンダは友への許しと彼女の洗礼を請う。第5パートでは、タンクレディが洗礼のためクロリンダの兜を外す。何とタンクレディが想いを寄せていた女性であることに驚愕する。タンクレディは死にゆくクロリンダから平和になったと聴く。

第3と第4パートの間に挟まれた"Sancta Maria, ora pro nobis"と"Ave Maria stella"は音楽的にもひとつのピークを構成する。ソプラノによる聖母マリア、ヴェネチア風合唱のドリア旋法による「めでたし海の星」は巧みなアンサンブルと透明な合唱が感動の極みを生み出す。フィナーレの7声のマニフィカトも特異なレイアウトとあいまって、そのパノラマ展開が劇場全体を荘厳な大聖堂と化す。

ソリストではインスブルック古楽フェスティバルでも活躍しているスンハエ・イムを始め、タンクレディ役のヨハネス・クム、クロリンダ役のシルヴィア・シュヴァルツが素晴らしい。全体を通して空間を活用したステージは、大きな展開を見せるというよりも、むしろオラトリオ的。これがまたモンテヴェルディの大規模作品に想像力と求心力をもたらしている。ちなみにモンテヴェルディはヴェスプロ作曲当時、既にヴェネチア・サン・マルコへの道に想いを馳せていたとも言われている。奇しくも昨日から見てきたサン・マルコ大聖堂の威容を重ね合わせると壮麗な音楽がより感慨深く聞こえた。19時開演、休憩無しの1時間50分は、ヤーコプス快心の指揮のもと、ひときわ密度が高く、手応え十分だった。

終演後、Dussmannに立ち寄った。モーツァルト・オペラ22のDVDセットは399.99ユーロ。今のレートでも日本での価格よりも安い。なおベルリンフィル往年の名演奏を集めたCDセットは129.99ユーロ。このゴールドボックス、日本では見かけないので購入した。



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