2005/08/05 『ミトリダーテ』ミンコフスキ&ルーブル宮/ザルツブルク音楽祭


SALZBURGER FESTSPIELE 2005

Freitag 5. August 20.30 Uhr
Residenzhof

Wolfgang Amadeus Mozart(1756-1791)
MITRIDATE, RE DI PONTO
Opera seria in drei Akten KV 87 (74a)
Text von Vittoria Amedeo Cigna-Santi nach dem Drama Mithridate
von Jean Racine in der italienischen Uebersetzung von Giuseppe Parini
Salzburger Fassung von Marc Minkowski, Guenter Kraemer und Jory Vinkour
Neuinszenierung
Koproduktion mit dem Musikfest Bremen

Dirigent, Marc Mikowski
Inszenierung, Guenter Kraemer
Buehne, Juergen Baeckmann
Kostueme, Falk Bauer
Licht, Manfred Voss
Choreographie, Otto Pichler
Regiemitarbeit, Uwe Hergenroeder
Dramaturgie, Jens Neundorf von Enzberg

Mitridate, Richard Croft
Aspasia, Netta Or
Sifare, Miah Persson
Farnace, Jejun Mehta
Ismene, Ingela Bohlin
Marzio, Anddrew Tortise
Arbate, Pascal Bertin

Les Musiciens du Louvre-Grenoble





今日は、フィラッハ10:11発のECでザルツブルク12:55着で移動した。再び、ピッターにチェックインし、ゆっくりと寛ぐ。さて20時30分からはレジデンツホーフにてギュンター・クレーマー新演出のモーツァルト「ポント王ミトリダーテ」を見る。このプロダクションは、ブレーメン音楽祭との共同製作によるもので、ザルツブルク・ヴァージョンで上演される。

演奏はマルク・ミンコフスキの指揮によるルーブル宮音楽隊。昨年10月パリにおける「ジェロルシュタイン大公夫人」が圧倒的な盛り上がりを見せたように、今回のモーツァルトもまた最高の演奏を繰り広げた。ちなみにレジデンツホーフでは、ミンコフスキ&モーツァルテウムによる「後宮からの逃走」も素晴らしかったが、今回は、主兵ルーブル宮との息の合ったアンサンブルが、アグレッシブさ、柔軟性、躍動と生命力でもってドラマチックな展開を克明に描写していく。古楽アンサンブルは、レジデンツホーフとしては驚くほど響き、最新鋭のマシンではないかと耳を疑うほどだ。まさにこれは、未だ聴いたことの無いようなモーツァルト演奏であり、驚嘆するばかり。かつてザルツブルクに登場したラトル&エイジ・オブ・エンライトメントの古楽演奏をも上回るのでないかという刺激である。果たして14歳のモーツァルトはこのような響きを想像できたのであろうか。おそらくこの演奏を、モーツァルトが聞いたとしたら、卒倒するに違いない。天才ミンコフスキ、まさに恐るべし。

ステージは、狭いレジデンツホーフの空間の制約にも係わらず、アイデア豊かに多彩な場面を見せてくれる。ステージ上部に天井床を設営して、その上部に大きな鏡が張られている。これは2層になっていて、上部はオーケストラピットを写し、下部は天井床の様子を映し出す。ちなみに天井床では、キャストとは直接には関係しないキャラクター達がパフォーマンスを繰り広げる。彼らは皆、モーツァルト時代の赤い服装し、カツラをかぶって、大きな眼をしている。まるで少年モーツァルトの大人ヴァージョンが大勢ひしめき合っているとう感じ。ちなみに天井床は黒い砂で埋め尽くされているが、キャラクター達が、その傾斜した床を次々に滑り、黒の砂が落とされていく。ステージ正面は、電光板を組み合わせた矩形の回転体構造で面を成し、血が滴るような筆跡で、Mitridate, re di Pontoと書かれている。前記、鏡の上部の層にはアラビア語(?)で文字が掛れているが、プログラム冊子の記述によると、「ミトリダーテは勝利者であり、制服された者ではない」と推察される。

以上のステージを基本形として、ポント王(リチャード・クロフト)の2人の息子、兄ファルナーチェ(ベジュン・メータ)と弟シファーレ(ミア・パーソン)が実に分かり易い人物描写が演出されていく。兄よりも弟の方が出来が良く、積極的な性格。兄のほうはフラフラとした落ち着きの無さを感じる。ポント王は独裁者としての粗暴さをベースに、どこか異常で執拗な性格と見受けられ、それでいて滑稽な面を多いにもつ。さらにアスパージアとイズメネの2人の女性がドラマの横糸として、演劇的、映画的な面白さを描く。ちなみにキャスト達の歌は、ミンコフスキ&ルーブルの演奏と一糸乱れぬ室内的アンサンブルを展開する。この刺激的なアンサンブルがドラマ展開と一体となって興奮を生み出して行く。クレーマー演出とミンコフスキの指揮が火花を飛ばしあっている様は見事である。それゆえ、比較的長く繰り返されるレチタティーボやアリアは、決して冗長さを感じさせずに、面白いほどの集中力となる。シファーレのアリアでは立って演奏するホルンとのデュオが絶品だったし、随所に聴き所が満載。ポント王が怒る場面でのオーケストラはまるで嵐の如く怒り狂う。常に最高のテンションで盛り上げながら、演劇的面白さにのめりこむばかりである。席は最前列中央で、目前のミンコフスキからストレートなインパクトが放たれていた。2幕の後に30分の休憩を入れ、終演は23:30を回ったが、時間を全く感じさせないで、隅々まで納得させられる素晴らしさだった。まさに今年一番の興奮となった次第。




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