2005/05/28
『カリスト』オールデン新演出マウルズ指揮/バイエルン州立歌劇場


Bayerische Staatsoper
Samstag, 28. Mai 2005 18.30 Uhr
Neuinszenierung
Muenchner Erstauffuehrung
La Calisto
in italienischer Sprache mit deutschen Uebertiteln
Dramma per musica
Libretto von Giovanni Faustini
Musik von Francesco Cavalli

Musikalische Leitung: Christopher Moulds
Inszenierung: David Alden
Buehne: Paul Steinberg
Kostueme: Buki Shiff
Choreographische Mitarbeit: Beate Vollack
Licht: Pat Collins

La Natura: Dominuque Visse
L'Eternita: Veronique Gens
Il Destino: Monica Bacelli
Giove: Umberto Chiummo
Mercurio: Martin Gantner
Calisto: Sally Matthews
Endimione: Lawrence Zazzo
Diana: Monica Bacelli
Linfea: Guy de Mey
Satrino: Dominique Visse
Pane: Lobie van Rensburg
Silvano: Clive Bayley
Giunone: Veronique Gens
Le Furie: Monica Bacelli, Dominique Visse
Coro di Menti Celesti: Veronique Gens, Dominique Visse, Guy de Mey,
Clive Bayley
Mitglieder des Bayerischen Staatsorchesters und des Continuo-
Ensembles der Bayerischen Staatsoper
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今日はベルリンからミュンヘンまでICEのバーン・コンフォートでのんびりと移動した。先頭車両からの眺めは良好だったが、強烈な日差しにエアコンの効きが悪い。車内オーディオではフィッシャー・ディースカウの特集とティーレマン&ミュンヘン・フィルのブルックナー5番に聴き入る。

さて本日はヴェネチアの大作曲家カヴァッリの歌劇「カリスト」新演出を見る。カヴァッリのオペラを見るのは昨年インスブルックでのエリオガバッロ以来のこととなるが、名作をオールデンがどのように料理するのか興味深い。指揮はイヴォール・ボルトンとチェンバロ出身のクリストファー・マウルズが組んでおり、本日はマウルズが指揮した。また当初は、マグダレーナ・コジェナーがカリスト役を演じる予定であったが、出産の話が出てから、キャストはN.N.となり、最終的にはサリー・マシューズに決まった。

冒頭、「自然」「永遠」「運命」の女神が登場する場面から爆笑の演技が続いた。開演とともに、腹に大きな時計を埋め込んだ女神の一人がステージ右袖で雑誌を読み始める。続いて、ドミニク・ヴィス演じる自然の女神は太ったご婦人姿で長いキセルを噴かせながら登場。ステージ左からは、キューピッドのぬいぐるみの女神が登場して、自然の女神に映画のフィルムを手渡す。そしてヴィス演じる「自然」が得意げにフィルムを映写機に掛ける。するとアルプスが描かれた赤のカーテンにマリリン・モンロー風のカリストが映し出されるという趣向で、多分にハリウッド・バビロンにヒントを得たパロディックな展開となる。

第一幕に転じると、超モダンでポップな空間が現れる。ステージ左にはL’EMPIREO(天空)と記載されたネオンサインが光り輝き、ステージ左右は曲面で屈折している。曲面の天井には丸いランプが無数に広がっていて、星座、宇宙を抽象化したデザインならがらも、登場人物たちのファッションとともに極めてアバンギャルドな仕上がりで、パルケット最前列からの眺めは大変パノラマチックだ。

ジョーヴェ(ジュピター)は軍服にマシンガンという姿であるが、遠くからやって来るカリストの美しさに悩殺される。ともかくマシューズの美貌とセクシーさに会場もうっとりとしてしまった。ジョーヴェは早速、軍服を脱ぎ捨てるとタキシード姿に変身し、髪型を揃えて、お洒落をいそしむ。そしてカリストに執拗に迫る。弓矢をもったカリストは激しく抵抗し、弓矢をジョーヴェに突き刺す。それでも諦めぬジョーヴェは、前身黄金色のメルクーリオ(マーキュリー)の助言で、処女神のディアーナに変身して、カリストを上手くものとする。ちなみにディアーナが歌う場面では、オーケストラピットの中央でモニカ・バチェリが黒装束で歌うが、その面白さは大変なもので、爆笑が続く。

続いて羊飼いのエンディミオーネと本物のディアーナにニンファのリンフェーアが登場。カリストとディアーナの行き違いの場面を経て、これまたドミニク・ヴィスの当たり役サティリーノ(サテュロス)が突然現れる。特にリンフェーアに迫る場面は、言葉を失うほどの爆笑もので、会場も大いに沸き立った。ヴィスの名演技とオールデンの演出が生み出す活き活きとしたドラマトゥルギーもさすがのもの。

休憩を挟み、第2幕は様々なステージが次々と展開した。ディアーナとカリストの第1場は、曲線模様の広大な空間にウェディング姿のカリストが一際美しく、星空の円形ランプの点灯が動的に変化していく。そしてジョーヴェの妻、ジュノーネが登場する第2場では、2人の孔雀模様のダンサーを手綱で控えさせながら、超ファッションのセクシーなニンファ達とともに権勢を振るう。羊飼いの神パーネと森の神シルヴァーノの場面では、ステージはサティリーノが経営するバーに転じ、L’EMPIREOのネオンサインが光り輝き、魑魅魍魎達が集まってくるのが滑稽だ。エンディミオーネがジョーヴェが変装したディアーナに抱きついて来る場面も爆笑が飛び交った。そして彼らが踊る場面でもカヴァッリの音楽が絶妙に盛り上げていく。オールデンの天才的なステージは古楽の調べをも超ポップな音楽に仕立て上げる。正に、カヴァッリの古楽は超先端の音楽でもあることを知らされた。

さて第3場ではカリストが「熊」に変身させられてしまうが、ジュノーネの従者2人が運んできたショッピングの4箱がカリストにプレゼントされる。最初の箱には毛皮のコート、次の箱に毛皮の靴、さらに次の箱に毛皮の手袋、最後の箱に熊の頭の縫ぐるみが出てくる。カリストはこれらを順に身に付けることで「熊」に変身する。そしてフィナーレの美しいステージで大熊座として天井のランプの輝きが素晴らしいステージとなった。

以上のドラマを躍動漲るものとしていたのは、バイエル州立歌劇場のメンバーから構成されたバロック・アンサンブルとコンティヌオ・アンサンブルの巧みさ。特にバロック弦楽器はクロ・ヒロサキのコーチによるもので、著名な古楽器アンサンブルにも引けを取らぬ出来栄え。ピット左側はバロック・ヴァイオリン、ヴィオラのアンサンブルが広がり、指揮者はチェンバロも奏しながら、全体を率いる。チェンバロはさらにピット正面奥にも配置され、右手にバロック・ハープ、テオルボは3本が分散し、中央にバロック・チェロとヴィオラ・ダ・ガンバを持ち替えて演奏を行う女性奏者、さらに右手にバロック・ギター、リュート、トラヴェルソ、コルネット、さらに様々はパーカッションに、ウィンド・マシンが配置。ピット右端にはオルガネットも据えつけられていた。ちなみにバック・ステージ左手には金管群も配置され、張りのある太鼓とともに、パンチの効いた響きも効果的だった。

歌劇場サイトには映像も紹介されており、DVDも出るかも知れないが、やはりこのプロダクションはライブが必見で、今まで見たオペラの中でもトップレベルの出来栄えだ。特に乗りの良さは最高。以前、インスブルックでみた「リナルド」をも彷彿とするその内容は、極上のエンターテイメント・ショーとして見るものを圧倒する。ともかくキャスト達も我を忘れて役柄になり切り、楽しくてしょうがないといった感じだから、見る方も最高に楽しいのに決まっている。超エキサイティングな公演に対して、最近では珍しい程、長いカーテンコールが続いた。

さて明日は11時からウィーンフィルを聞く為、今日はホテルには泊らず、23:44ミュンヘン発のユーロ・ナイトでウィーンへ向う。ゆったりと移動する為に個室を早めに予約しておいた。サービスに出されたハンガリー産シャンパンの美味とともに先ほどの余韻に浸った。



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