2005/03/18
『マタイ受難曲』ハーディング&ウィーンフィル/ムジークフェライン

OSTER KLANG WIEN 2005
Freitag 18. Maerz, 19.00 Uhr
Musikverein Wien, Grosser Saal

Wiener Phiharmoniker
Daniel Harding, Dirigent

Arnold Schoenberg Chor
Erwin Ortner, Einstudierung

Amadeus Knabenchor Wien
Peter Lang, Einstudierung

Evangelist, Mark Padmore Tenor
Jesus, Olaf Baer Bariton

Arien Soprano, Ancilla I, Uxor Pilati,Christine Schaefer Sopran
Arien Alto, Ancilla II, Tetis I, Anne Sofie von Otter Mezzosopran
Arien Tenore, Testis II, James Taylor Tenor
Arien Basso, Judas, Petrus, Pilatus, Neil Davies Bass

Pontifex I, Jordi Casals Bass
Pontifex II, Michal Kucharko Bass

Viola da gamba, Richard Campbell
Orgel Chorus I, Anton Holzapfel
Orgel Chorus II & Cembalo, Thomas Schmoegner
Violoncello-Continuo, Tamas Varga

Johann Sebastian Bach (1685-1750)
Passio Domini nostri J. C. secundum Evangelistam Matthaeum
"Matthaeus-Passion", BWV 244
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今日はウィーンのムジークフェラインにてダニエル・ハーディング指揮ウィーンフィルによるJ.S.バッハ「マタイ受難曲」を聴く。ハーディングは日本公演のドン・ジョバンニでの指揮が鮮烈な印象と残っているが、ウィーンフィルとのマタイ受難曲は非常に興味がある。マタイといえば、バッハ・イヤーの時に10回程ライブに足を運んだが、演奏のそれぞれに思い出が残っている。それほどこの作品が奥深いものであることを実感する次第。最近ではコルボ&ローザンヌの名演も忘れ難い。

さてハーディングによる演奏は冒頭から渋い音色が漂う、悲壮に満ちた神妙さで開始された。左右に分離した第1、第2オーケストラのコンサートマスターはそれぞれキュッヒルとヒンクが固め、緻密なアンサンブルをベースに、シェーンベルク合唱が透明な響きを重ねていく。ハーディングの指揮は、これら2つのオーケストラが呼応しあう音の流れを空間を飛び交う姿として具現化していく。それはちょうど上昇音形が第1から第2に流れていく様子をタクトを左から右へすくい上げる動作で、全体を引き締める。アマデウス少年合唱団はオルガンバルコニー中央に整列し、まるで天上から左右2つのオーケストラを統率するかのように、響き渡る。席はパルケット前方の中央だったから、その響きの立体構造がひしひしと伝わってくる。いわゆる三位一体が、左右2つの合唱を含めたアンサンブルと、天上の少年合唱が、空間的な因果関係として提示されているかのようである。さらにはオーケストラ、合唱、少年合唱の三層構造が地上から天に向ってムジークフェラインに響き渡る。

斯くのように冒頭部から細部に至るまでの演奏がとても自然に見えてくる素晴らしさだが、エヴァンゲリストが登場してからは、さらに迫真に満ちた内容となってくる。エヴァンゲリストは、2003年秋のシャトレ「トロイの人々」で素晴らしいイオパスを歌った、マーク・パドモア。彼の、ムジークフェラインに響く端正で歯切れの良い、語り口には身が引き締まるほど感動的だった。さらにイエス役のオアフ・ベアの深みと慈愛に満ちた歌。女声陣ではアバドのマタイ受難曲で同じコンビを組んだクリスチーネ・シェーファーとアンネ・ゾフィー・フォン・オッターが何時もながら素晴らしすぎる。特にキュッヒルのソロで歌うオッターのアリアは絶品だった。なおヒンクのコンチェルト風ソロもメリハリのある内容で、アリアと溶け合う様が素晴らしい。なおヴィオラ・ダ・ガンバやチェンバロ・コンティヌオなども絶妙だった。

第1部、第2部ともに常に新鮮な息吹を感じる演奏であったが、やはり冒頭部に示された見事な指揮が、歌手達を、合唱を、融和させる魅力を持っており、ごく自然にまとめ上げていく才能には驚かされた。なお演奏の素晴らしさは単に豪華な演奏家、キャストだけに拠るものではなく、ムジークフェラインの極上の音響効果が、克明に展開する臨場感とともに、演奏家達にインスピレーションを与えている点が大きい。

チューリヒからウィーンへフライトでは、雪のアルプスが迫力で望めたが、ウィーンも汗ばむほどの陽気となっている。週末から寒くなるとの予想が出ている。さてベルティーニの訃報を聞いた。4月のナポリ・サン・カルロでベルリオーズ「ロメオとジュリエット」を聴くべく、既にチケットは購入済みであるが、このニュースは非常に残念だ。



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