2004/10/17
『ポッペアの戴冠』ルネ・ヤーコプス&コンチェルト・ヴォカーレ

THEATRE DES CHAMPS-ELYSEES
Dimanche 17 octobre 2004, 17h
L'Incoronazione di Poppea
Opera en un prologue et trois actes (1642)
Musique de Claudio Monteverdi (1567-1643)
Livret de Gian Francesco Busenello, d'apres Les Annales de Tacite (Livre XIV)

Realissation et direction musicales, Rene Jacobs
Mise en scene, David McVicar
Decors, Robert Jones
Costumes, Jenny Tiramani
Lumieres, Paule Constable
Choregraphie, Andrew George

Poppea/ Fortuna, Patrizia Ciofi, soprano
Ottavia / Virtu, Anne Sofie von Otter, mezzo-soprano
Valletto / Amore, Amel Brahim-Djelloul, soprano
Ottone, Lawrence Zazzo, counter-tenor
Nerone, Anna Caterina Antonacci, soprano
Arnalta / Mercurio, Tom Allen, tenor
Nutrice / Famigliaro I, Dominque Visse, haure-contre
Seneca, Antonio Abete, basse
Damigella / Pallade, Mariana Ortiz-Frances, soprano
Drusilla, Carla di Censo, soprano
Liberto / Soldato II / Tribuno I, Enrico Facini, tenor
Lucano / Soldato I / Console / Famigliaro II, Finnur Bjarnason, tenor
Littore / Famigliaro III / Tribuno II, Rene Linnenbank, baryton-basse

Concerto Vocale

Spectacle chante en italien, surtitre en francais.
Duree de l'ouvrage: environ 3h10

Nouvelle production
Coproduction Theatre des Champs-Elysees / Opera national du Rhin /
Deutsche Staatsoper Berlin / Theatre Royal de la Monnaie, Bruxelles
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今日はシャンゼリゼにてモンテヴェルディ「ポッペア」を見る。モンテヴェルディは最も敬愛する作曲家の一人であるが、実演に接する機会は少なく、今年は2月にモネ劇場「ウリッセ」を見たのみ。さらにポッペアを見るのは1998年のパーセル・カルテット公演(紀尾井ホール)以来のこととなる。ルネ・ヤーコプスは2002年「リナルド」、2003年「オルフェオ」、今年の「エリオガバロ」と続けざまに素晴らしい指揮を聴かせているので、今回のポッペアも大いに期待するところ。定評あるヤーコプス版のオーケストレーションを、昨年のオルフェオで素晴らしかったコンチェルト・ヴォカーレで聴けるのも楽しみだ。歌手はパリで人気のアントナッチ、フォン・オッター、ドミニク・ヴィスに加えて若手のショフィなど豪華キャスト。

さて今回の新演出はデイヴィッド・マクヴィカーによるもの。彼は2003年ザルツブルクのホフマン物語で重厚なステージを見せてくれたが、今回も首尾一貫したコンセプトのもと、素晴らしい展開だった。全幕共通となるセットはバックステージ壁を天井から床まで矩形のブロックに分けて、それぞれを回転扉の構造としたもの。これにステージ前面に椅子などのオブジェをレイアウトしてセットを作り上げる手法は良く練られたもので、無駄のない展開でドラマを浮き彫りにする。

プロローグでは、靄が漂う中、ステージの矩形の壁が回転し、運命(ショフィ)と美徳(オッター)の女神が登場する(ちなみにガーディナー&イングリッシュ・バロック盤ではオッターが女神を歌っている)。ルネサンス期の衣裳をエキセントリックに誇張し、運命がゴールド、美徳はシルバーに輝いている。バロックダンスを取り入れた振付とパントマイムが冴えており、照明効果とともに豪華さが漂う。

第1幕、時代は現代に飛び、オットーネはアタッシュケースにガーメントバッグを下げて出張から帰ってきたかのような設定。ビジネス界を設定にしているのかと想像させられるが、ネローネはヘアスタイルからロック・スターにも似ており、何かはっきりとはしないが、マフィアのボスにも見える。ちなみに2人の兵士はヘッドライトを光らせながら車で登場するが、缶ビールを買って飲みながら新聞を読むなど、ポッペアの台本として面白い展開。ポッペアはショフィの美貌を最大限活かすセクシー系に設定されており、ネローネとの愛の場面はさすがに美しい。ポッペアの乳母アルナルタ役はテノールのトム・アレンで、これがまた爆笑の連続。以上のコミック系に対してオッター演じるオッターヴィアはオーソドック系の真面目な演出。彼女の長身から威厳が滲み出るような地味なファッションにまとめられている。

第2幕、カーテンが開く前から左手に液晶TVが吊り下げられて、ステージ右にTVカメラが設置されている。セネカの元に死を迫る使いが登場するシーンはセネカを囲む座談会スタジオのような設定。これをカメラマンが撮影し、ステージ上方のTVモニターに映し出される。途中、オッターヴィアの目の部分が映し出され、座談会を見守っているかのよう。セネカがピストルを自分の頭に当てたシーンはズームアップされるが、ピストルの音とともに自殺後のセネカも映される。すかさずセネカの死を祝うシーン。待女はベネズエラ出身の若手ソプラノ、オーティス・フランセ。プロポーションの良い彼女は全裸に近い下着姿でステージを戯れる。が、若干1名からブーイングが出た。それにしてもステージの短冊回転扉は便利に出来ている。早くもオッターヴィアとオットーネが登場し、彼女は彼にポッペア暗殺を命じる。以下、暗殺未遂の場面ではアルナルタがまたもや大騒ぎしてドタバタとなる。

第3幕、とばっちりで捕まったドゥルシッラは、ネローネがコカイン・パーティ(?)を開いている場に連れて行かれる。ドゥルシッラがチンピラ達の餌食になる寸前、オットーネが登場して事なきを得る。そして分の悪いオッターヴィアが潔く出て行く。ちなみに彼女の乳母役はドミニク・ヴィスで、スタイリッシュにスーツケースを転がして一緒に旅に向う。フィナーレではネローネとポッペアが共にケバケバシク輝くファッションで愛し合う。

以上のようにステージはとても滑稽な展開だがアントナッチやオッターなど歌手達の素晴らしさはさすが。その中でもショフィの見事な歌いっぷリが目立っていた。そして極上のアンサンブル。古楽器特有の典雅さと麗しさを湛えつつ、バロックギターのインパクトあるリズムの刻みにテオルボの調べが心地良く響く。現代ドラマをホットに掻き立てていたのもアンサンブルの見事さ所以と言える。古き音楽は逆説的に最もモダンでもあり、モンテヴェルディの普遍性に拠るところでもある。日曜ということで早めの17時開演、21時終演となったが、今日も時間を忘れる素晴らしさを堪能できた。



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