2004/08/11
『イエフタ』スターン指揮オペラ・フオーコ/コンセルトヘボウ

ROBECO
ZOMERCONCERTEN
NATUURLIJK IN HET CONCERTGEBOUW
Maandga 11 augustus 2004
Grote Zaal, 19.30 uur

Georg Frieich Handel (1685-1759)
Jephtha, HWV70 (1751)

Opera Fuoco

David Stern, dirigent
Lisa Larsson, sopraan (Iphis)
Christine Rigaud, sopraan (Engel)
Guillemette Laurens, mezzosopraan (Storge)
Robert Expert, countertenor (Hamor)
Paul Agnew, tenor (Jephtha)
Alain Buet, bariton (Zebul)

Orkest
co-director/
viola da gamba, Jay Bernfeld
eerte viool,
Katharina Wolff/ Heide Sibley/
Leonore de Recondo/ Roberto Crisafulli
tweede viool,
Simon Heyerick/ Gavid Glidden/ Tami Troman
altviool,
Galina Zinchenko/ Marta Paramo
cello,
Hilary Metzger, Elisa Joglar
contrabas, Joe Carver
fluit, Serge Saitta
blokfluit, Patricia Lavail
hobo,
Christian Moreaux/ Susanne Regel
fagot, Nicolas Andre
hoorn en trompet,
Claude Maury/ Joel Lahens
harp, Francoise Johannel
klavecimbel, Helene Clerc
pauken, Stephan Wissmann

Koor
sopran,
Emil Elias/ Susan Miller/
Suzie Win Maung/ Veronique Chevallier
alt,
Trisha Hayward/ Rebecca Tepfer/ Muriel Ferraro
tenor,
Jose Canales/ Benoit Porcherot/ Stephane Werchowski
bas,
Bernard Causse/ James Hobson/ Edward Elias
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8月11日は天気も回復して、早くも秋の風情のように涼しい。今日はヘンデルのオラトリオ「イエフタ」を聴く。ヘンデルが最後に作曲したオラトリオは「時と悟りの勝利」であるが、実質的には「テオドーラ」に続き、「イェフタ」が最後のオラトリオと称されている。日本では滅多に演奏されることがなく、CDも少ない。それゆえ今回の公演は見逃す訳には行かない。

第1幕は、ユダヤの司令官イエフタが、勝利を得る代償として、凱旋で帰った時に最初に出あった者を生贄に捧げると誓う。そして勝利する。第2幕で、イスラエルに帰ってきたものの、最初に出会ったのはイエフタの妹イフィスであった。第3幕では、イェフタが生贄となる寸前に天使が現れ、イフィスが永遠に処女でいることを条件に、悲劇を免れる。イエフタの妻ストルゲ、兄弟ジーボル、イフィスの恋人ヘイモアとイスラエル人達の合唱が展開するドラマは地味ながらも感動的。作品は往年時代のような外向的側面よりも内的求心力を感じる。ヘンデルは目が悪い中で作曲したそうで、苦労に満ちた彼の自画像がイエフタを通して描かれているとも言われている。実際、このオラトリオにはバッハのマタイ受難曲に通じるような崇高さを感じる次第。

ちなみにコンセルトヘボウ横にあるBroekmans & Van PoppelというCDと楽譜の店で、イェフタに関する本が無いかどうか聞いてみた。早速調べて貰ったところ、RECLAMS社から出ている"Chormunsik und Oratorien Fuehrer"を勧められたので購入した。とてもコンパクトなハンドブックながらも630ページほどにゴシック期から20世紀までのオラトリオ作品が詳細に記述されている。これがたったの32ユーロと安い。「イエフタ」に関しては5ページほどの解説があり興味深い点を指摘している。ヘンデル最晩年の作品は作曲技法が深みを増して後のグルックやベートーヴェンを予見していること。ドラマ的にもイフィスはアウリスのイフィゲニと類似する点。さらには序曲は、3拍子の運命モチーフをベースとしており、ラルゴ〜アレグロ〜ラルゴの構成を取りながら、悲劇的響きを醸し出す点など、グルック作曲の「イフィゲニ」の手法を先取りしている点など実に興味深い。

さて本日の公演では小編成の古楽アンサンブルと合唱が広いコンセルトヘボウの中央部に結集したレイアウトとなっていた。ちなみにチケットは5月にコンセルトヘボウを訪れた際にゲットしていたが、やや前方の席を選んでしまった。ステージを見上げる形となってしまい、オーケストラ後方の合唱の一部まで視界は届かない。

演奏は極めて素晴らしかった。さすが古楽が盛んなオランダだけに、スターン率いる古楽アンサンブルの見事さに聴き入る。歌手ではイエフタ役のポール・アグニューを筆頭に手応え十分な展開を聞かせてくれる。アグニューはたしか6月のルフトハンザ・マガジンでも特集されていた。ウィリアム・クリスティらとの共演でも素晴らしいさは百も承知のこと。ちなみにアグニューとともにリーザ・ラルソンもヘンデルのオラトリオで頻繁に共演していることも定評あるところとなっている。

序曲のさいにはソリスト達はステージには現れておらず、楽曲進行とともに、適宜ステージ左右の扉から登場してくる。指揮者の左右で歌うこともあれば、合唱の中に入って、ドラマ展開の臨場感を高めていく。合唱は各パート3名くらいの小編成が取られた。そのため、ピュアな響きが素晴らしく、それでいて力感ある迫力も備わっている。それゆえに典雅な響きの古楽アンサンブルとの溶け合いも素晴らしく、正味3時間に及ぶ大作を時間を忘れさせて没頭させてくれる。

アグニュー演じるイエフタは彼の端正な風貌と共に全てを悟った深みに溢れていた。まるでイエフタを作曲したヘンデルの自画像にも見えないだろうか。それほどアグニューのイエフタにはヘンデル最晩年の諦念を感じさせた。ちなみにイエフタは歌う位置を余り変えずにエヴァンゲリスト的であるのに対して、ジーボル、イフィスらは自在にステージを動き、生彩ある展開を聴かせる。ドラマのシンボルとなるイエフタを「静」として、周囲の展開を「動」とした構図が終始徹底され、演奏全体が引き締まった内容となっていた。ユダス・マカベウスなどに代表される輝かしいオラトリオに比べると、イエフタは一見地味に聞こえるかも知れないが、本日のライブによって、イエフタに込められた内的世界と崇高な感動を体験することが出来た。さて明日はアムステルダムからルツェルンへ移動する。



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