2004/08/07
カリタ・マッティラ/ザルツブルク音楽祭

SALZBURGER FESTSPIELE 2004, LIDERABENDE
KARITA MATTILA
MARITN KATZ
Samstga, 7. August 2004, 19.30 Uhr
Mozarteum, Grosser Saal

Hennri Duparc (1848-1933)
L'invitation au voyage (1870)
Romance de Mignon (1869)
Au pays au se fait la guerre (1869/70)
Chanson triste (1902)
Phidyle' (1882)

Kaija Saariaho (*1952)
Quatre instants (2002)
I. Attente
II. Douleur
III.Parfum de I'instant
IV. Resonances

Pause

Sergej Rachmaninow (1873-1943)
Ne poy, krasavitsa op.4 Nr.4
Sumerki op.21 Nr.3
Otrivok iz A. Myusse op.21 Nr.6
Muza op.34 Nr.1
Kakoye schast'ye op.34 Nr.12

Antonin Dvora'k (1841-1904)
Ciganske' melodie (>>Zigeunermelodien<<) op.55
I. Ma' pisen zas mi laskou zni
II. Aj! Kterak trojharanec muj prerozkosne zvoni
III.A les je tichy' kolem kol
IV. Struna naladena
V . Siroke rukavy a siroke gate
VI. Kdy' mne stara' matka zpivat ucjvala
VII.Dejte klec jestrabu ze zlata ryzeho

Soprana, Karita Mattila
Klavier, Martin Katz
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6月に素晴らしいアラベラを歌ったカリタ・マッティラ、今日はとてもユニークなプログラムを聴くことができた。前半はデュパルクとサリアホ、後半はラフマニノフ、ドヴォルザークと続く。フランス、フィンランド、ロシア、チェコの響きを斯くも見事に歌い分けたリートは圧倒的だった。

冒頭、デュパルクの「旅への誘い」で早くも異常なまでの気迫に度肝を抜かれる。ピンクのロングドレスで登場したマッティラは、既に汗まみれとなり、フィットしたコスチュームは濡れてしまっている。2曲目「ミニョンのロマンス」に移るパウゼは1曲目の極限的集中度のためか、マッティラの躊躇いの身振りが何処か体でも悪いのではと思わせる。それにしても凄い汗。ようやく気分転換が出来たのだろうか、2曲目が歌われる。マルティン・ケイツの華麗なピアノとともに抒情の極みが展開する。続く「戦いに寄せて」における激しいマッティラの迫力に釘付けとなる。「悲しき歌」「フィディレ」と進むにつれて、深い心理描写が歌うという次元を遥かに超えていることを思い知らされる。

続いてサリアホの「4つの瞬間」。マッティラが、2003年シャトレでのリサイタルの為に、サリアホに作曲依頼した作品で、彼女の広い声域を駆使する超絶技巧の難曲。サリアホとマッティラはともにフィンランド出身ということで、当初は母国語による歌詞を検討していたが、作品の特質上、思うようなテキストが見つからなかったとのこと。そこでサリアホは以前から共同でプロジェクトを組んできたアミン・マーロフにテキストを依頼して出来た作品となっている。リートは器楽として位置付けられており、断片的に聴くだけではテキストと認識し難い。時間を経て聞こえてくる連なりによってテキストが聞こえ、それはまるで時間と空間を反響しあう深い音楽。ともかくマッティラの驚異的なテクニックと声量は激しいタッチのピアノと火花を散らしあった。前半のデュパルクとサリアホで、既に1つのコンサートに匹敵する充実度で、もやはリート・リサイタルといったレベルを遥かに超えていることに驚かされた。

後半は黒のロングドレスに着替えての登場。マッティラには黒がとても良く似合い、目前に仰ぐ彼女はとても妖艶。プログラムはラフマニノフから、プーシキンの詩による「歌うな、美しい人よ」、ギヨー詩による「夕暮」、12の歌曲集から「ミュッセの断片」、プーシキン詩の「ミューズ」、フェート詩の「何と言う幸せ」。さすがラフマニノフは、ピアノ・パートの雄弁さが事のほか素晴らしく、ケイツの圧倒的な演奏が、マッティラの歌と呼応しあい、実に見事だった。

そしてドヴォルザークの有名な歌曲集「ジプシーの歌」作品55。今日は何と多彩なプログラムなのかと驚くが、マッティラの歌は冴えに冴えを見せる。全てが迫真の展開であったが、ドヴォルザークではメロディーに乗って踊る場面もあり、ボヘミアの味わいを堪能させてくれた。本日のプログラムは全てが妥協を許さぬ集中力を要求する内容で、会場を怒涛の熱狂へと導いた。アンコールで歌われたタンゴでは、マッティラもイヤリングを外してステージに投げ捨てて踊る場面も。2時間30分に及ぶ内容はオペラにも匹敵する密度の高さだった。まさに超絶という表現が相応しい。



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