2004/08/03
シュタットラーカルテット&フィッシャーディスカウ/ザルツブルク

SALZBURGER FESTSPIELE 2004
STADLER QUARTETT
DIETRICH FISCHER-DIESKAU
Dienstag, 3. August 2004, 19.30 Uhr
Mozarteum, Grosser Saal

Viktor Ullmann (1898-1944)
Die Weise von Liebe und Tode des Cornets
Christoph Rilke
12 Stuecke aus der Dichtung Rainer Maria
Rilkes fuer Sprecher und Klavier

Pause

Ludwig van Beethoven (1770-1827)
Grosse Fuge B-Dur op.133

Arnold Schoenberg (1874-1951)
Ode an Napoleon Buonaparte op.41
fuer Sprecher, Streichquartett und Klavier

Rezitation, Dietrich Fischer-Dieskau
Klavier (Ullmann), Hartmut Hoell
Klavier (Schoenberg), Peter Rundberg
Stadller Quartett des oenm

Hartmut Hoell und Per Rundberg spielen einem Konzertfluegel
E-272 der Klaviermanufaktur Steingraeber & Soehne Bayreuth
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ザルツブルク三日目は室内楽の1本。のんびりとザルツで過ごす中、室内楽だけに専念できるのもまた格別な趣を感じるところ。シュタットラー・カルテットとフィッシャーディスカウと題された内容は、前半にヴィクトール・ウルマンの「クリストフ・リルケの愛と死の歌」、後半にベートーヴェンの大フーガを経て、シェーンベルクの「ナポレオン・ボナパルトへの頌歌」という渋い構成となっている。ともに作曲家の晩年の三作品は、その演奏意図を含めて極めて厳粛かつ深遠さを予感させる。

そもそもプログラム見開きにはエゴン・シーレの「預言者/死と男」のカットが掲載されており、見るだけで陰惨さが漂うものであるが、アウシュビッツのガス室で死んだウルマンの作品となれば、なおさらのこと。さてモーツァルテウムにはピアノとその前に机が置かれ、フィッシャーディスカウが台本を朗読しながら、ハルトムート・ヘルのピアノでリルケによる12の詩が演じられていく。1663年11月24日のオットー・フォン・リルケの下りで始まる朗読が次第に荒々しさを伴いながら、フィッシャーディスカウの巧みな抑揚によって、テキストがまるで音楽の息吹の如く展開する。これに呼応すべく、ピアノが激しいパッセージを織りまぜながら、時に叙情的にドビュッシーを思わせるような淡い色彩感も湛えている。この作品にはかなりの超絶技巧を要するようにウルマンが意図したとのことで、語りと音楽のコラボレーションの巧みさに感心するばかり。50分に及ぶ大作がまるでドラマの如くに語れたという感じで、既に前半の喝采は鳴り止まぬ大反響。

後半はシュタットラー・カルテットによるベートーヴェンの大フーガから。このカルテットは1992年に結成されたとのことで、2003年のザルツブルクではカールハインツ・シュトックハウゼンのヘリコプター・カルテットを結成し、主にコンテンポラリーに長けたアンサンブル。さて大フーガは20分足らずの演奏とはいえ、前半のウルマンの重さを受けてか、極めて深遠な響きが展開。

続くシェーンベルクでは、シュタットラー・カルテットにペル・ルントベルクのピアノが加わってピアノ五重奏曲のアンサンブルとなり、フィッシャーディスカウの朗読を加えながら「ナポレオン・ボナパルトへの頌歌」が。この作品は大分前にハレー弦楽四重奏団がベースとなったJYACMSのライブで一度聴いている。あの時はカザルスホールに響き渡るテノールの朗読が極めて強い口調だったのが印象的であったが、フィッシャーディスカウのそれは、前半のリルケの詩と呼応するかのように、極めて厳しい響きであった。イギリスの詩人バイロンによるテキストをベースにした内容はナポレオン批判から新たなナポレオンの出現を予言するもの。本日前半のウルマンと後半のシェーンベルクを通してナチズム批判を感じつつも、これからの問題としても考えさせることを示唆しているようであった。とはいえ前半のウルマンの音楽では極めて美しいパッセージもあり、どこか魅了されるものを感じた次第。ともかく本日の演奏は大きな反響を呼び喝采が鳴り止まなかった。



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