2004/08/01
『キング・アーサー』アーノンクール&フリム/ザルツブルク音楽祭

SALZBURGER FESTSPIELE 2004
Sonntag, 1.August 2004, 19.00 Uhr
Felsenreitschule

Hennry Purcell (1659-1695)
KING ARTHUR
Dramatick Opera
Text von John Dryden, Deutsche von Renate und Wolfgang Wiens
Spielfassung von Nikolaus Harnoncourt und Juergen Flimm
Sprechszenen in deutscher, Gesangsszenen in englishcer Sprache

Neuinszenierung

Dirigent, Nikolaus Harnoncourt
Inszenierung, Juergen Flimm
Buehne und Video, Klaus Kretschmer
Kostueme, Birgit Hutter
Licht, Manfred Voss
Choreographie, Catharina Luehr
Choreinstudierung, Rupert Hubber
Dramaturgie, Suanne Staehr

Koening Arthur, Michael Maertens
Oswald, Dietmar Koenig
Conon, Peter Maertens
Merlin, Christoph Bantzer
Osmond, Roland Renner
Aurelius, Christoph Kail
Emmeline, Sylvie Rohrer
Matilda, Ulli Maier
Philidel, Alexandra Henkel
Grimbald, Werner Woelbern
Sopran, Isabel Rey,
Barbara Bonney
Alt, Birgit Remmert
Tenor, Michael Schade
Bariton, Oliver Widmer

Konzertvereinigung Wiener Staatsopernchor
Concentus Musicus Wien

Laute/Barockguitarre/Chitarrone, Luca Pianca,
Martin Held
Cembalo, Florian Birsak
Orgel, Hebert Tachezi

Die Kuenstler wurden mit Produkten der
Firma LANCASTER geschminkt
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今回のフェスティバルにて久しぶりのバロック・オペラ、パーセル「キング・アーサー」が取り上げられるのは大変嬉しい。ラトルのボレアドも素晴らしかっただけに、演奏がアーノンクール&コンツェントゥス・ムジクス・ウィーンとなればさらに期待が高まるところ。キング・アーサーの実演自体に接する機会が少ないものの、2001年に来日したバロック・アンサンブル・ロンドンでは、序曲、カンツォーナ、歌曲「汝の故郷に」、行進曲、シンフォニー、コンソート、聖ジョージなどの名曲が印象に残るところで、古楽ファンとしても見逃すことが出来ない。

さて今回のプロダクションは単なるバロック・オペラに留まらなかった。アーノンクールとユルゲン・フリムによる演劇が同時進行するし、パーセルが作曲した箇所は英語、演劇はドイツ語という展開がユニークだった。さらにコンピューター・グラフィックなどのマルチメディアを駆使して、ジャズバンドも加えたり、ボクシングやエンタテイメント・ショーもコラボレートした総合芸術に仕上がっているのに驚かされた。まさにパロディ満載の祝典劇で爆笑の連続。意外にも古楽アンサンブルが古の響きから超モダンな息吹が聴かれたのもアーノンクールとフリムによって導かれた新しい発見。

会場はフェルゼンライトシューレ。ここではベリオの「クロナカ・ルオーゴ」やノイエンフェルス版「こうもり」などのように超パノラマ空間を駆使した作品が演じられてきただけに、今回のプロダクションでも何か仕掛があるのではと思わざるを得ない。

ステージは円形をベースに客席近くまで円弧が花道のように迫っている。フェルゼンライトシューレの生壁は一応覆いを被せて、右側の背面にオリジナルのフェルゼンライトシューレの壁の穴をデザインし、青色をベースにして多彩なカラフルさに彩られている。

ピットは比較的浅めに設定されている。コンサートマスターはエーリッヒ・ヘーバルト。その後のピットにアンドレア・ビショッフが。2人はモザイク・カルテットのヴァイオリン奏者であるのは言うに及ばず。5月の王子ホールで素晴らしい演奏を聞かせてくれた。ちなみにヴィオラのアニタ・ミッテラー、チェロのクリスフ・コワンは姿が見えなかった。

この一見変哲のないシンプルなステージをベースにして、超ワイドパノラマの空間に超マルチなストーリーを展開させる。序曲の時は、映画のクレジットのようにビデオ画像で登場人物の紹介が行われる。同時にステージのあちらこちらに魑魅魍魎たちが演技を行っている。特に冒頭は重要な登場人物のひとり、フィリーデルが背中の羽根を羽ばたかせながらステージから客席に向って飛ぼうとする。何度か挑戦して果敢に飛んでステージと客席の間に墜落するのであるが、体をはった演技に驚く。ちなみにフィリーデル役はアレキサンドラ・ヘンケルで、身のこなしの軽さからか、いろんな演技を演出家からやらせられているといった感じ。時にはパルケットの通路側の席に飛びついてお客に抱きつくといった場面も。

またグリムバルトの間抜けな滑稽さもユニーク。第4幕にて大きなリップマークの形をしたソファに横たわる美しいエメリーンにキング・アーサーが抱きついたところ、醜いグリムバルトが化けていたという展開が爆笑。魔術師マリーンはメッセンジャーとしての役割も兼ねていて、客席から登場した時は、モルティエやハンブルクでのヴォツェックの話題も織り交ぜながら、どさくさにまぎれて言いたいことを言ってしまうといった展開も。

またステージ天上には雲があって、これがビデオのディスプレイとなっており、天からのお達しや、ステージのビデオインタビューとしても用いられたりする。左右に取り囲む空間のあちらこちらでドラマが多元的に同時進行。ステージ背面を巨大スクリーンとした映像も含めてその情報量たるや驚くばかり。とても文章で記載することは無理。これは実演を拝見いただくしかない。ちなみにビデオ収録されたとしてもライブの臨場感と情報量はとても記録できないに違いない。

斯くのように古楽オペラが空前絶後のドラマに変貌したもの、14世紀に端を発するイギリス文学史上のアーサー伝説からドライデンが書いた台本を経て、パーセルがパロディックに仕上げてくれたおかげ。音楽面では1幕フィナーレにおける"Come if you dare"のテノールと合唱が呼応しあうダイナミックなリズムや、第2幕でグリムバルトが歌う"Hurry, hurry hurry"がユーモラスなドラマ音楽としてポップな展開を見せる。第2幕冒頭の"this way, this way "のリズムはコミカルな乗りの良さが心地良い。バーバラ・ボニーやイザベル・レイの絶妙な歌として魅了させてくれた。一方、ボニーがテオルボの伴奏に合わせて歌う場面は古の雅さに夢心地となった。

パーセルの音楽に合わせて当時のバロック・ダンスも組み込まれていて、これがモダン・ダンスに変貌する様も見事。むしろバロックオペラの中に最先端でホットな要素があったことを啓示させているかのよう。

以上のようにドタバタ喜劇ながらも、古楽オペラの魅力は全く損なわれおらず、同時にパーセルのユーモラスなドラマが増幅されて、一大絵巻となっていることに感心するばかり。パルケット中央一列目の席からは2m以内に歌手達を目の当たりにするため、その迫力ある演技と歌に圧倒されまくった。バロックヴァイオリンの艶やかさ、輝かしいバロック・ブラスの炸裂、迫力の太鼓、リュートやテオルボの繊細さ、豪華キャストの美しい歌声、迫真の演劇役者たちなど、全てが融和した見事さだった。



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