2004/05/02
『ルル』オールデン新演出&ボーダー指揮/バイエルン州立歌劇場


Bayerische Staatsoper
Nationaltheater Muenchen
Sonntag, 2. Mai 2004, 19.00 Uhr
Neuinszenierung
Lulu
Oper in drei Akten nach den Tragoedien Erdgeist und
Die Buechse der Pandora von Frank Wedekind
Orchestrieung des dritten Aktes vervollstandigt von Friedrich Cerha
Musik von Alban Berg

Musikalische Leitung, Michael Border
Inszenierung, David Alden
Buehne, Ciles Cadle
Kostueme, Brigitte Reiffenstuel
Choreographische Mitarbeit, Beate Vollack
Licht, Pat Collins

Lulu, Margarita De Arellano
Grafin Geschwitz, Katarina Kameus
Der Gymnasiast, Ulrike Helzel
Der Medizinalrat/ 1. Freier, Alfred Kuhn
Der Maler/ 2. Freier, Will Hartmann
Dr. Schoen/ Jack the Ripper, Tom Fox
Alwa, Dr. Schoen Sohn, Komponist, John Daszak
Schigolch, Franz Mazura
Der Tierbaendiger/ Der Athlet, Jacek Strauch
Der Prinz/ Der Mammerdiener/ Der Marquis, Robert Woerle
Der Theaterdirector/ Der Bankier, Alfred Kuhn
Der Polizeikommissaer, Thorsten Stepath
Eine Fuenfzehnjaehrige, Talia Or
Ihre Mutter, Jennifer Trost
Kunstgewerblenin, Anne Pellekoome
Jourmalist, Nikolay Borchev
Flughfenpersonal, Ulrike Helzel, Ruediger Trebes

Das Bayerische Staatsorchester
Die Statisterie der Bayerischen Staatsoper
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ガスタイクを出たのが午後5時過ぎ。春の陽光が燦々と降り注ぎ実に爽やかなので、マリエンプラッツまでゆっくりと散策した。通りではピンク色の大きなリップマークで描いたルルのポスターをあちらこちらで見かける。さてそのルルはオールデン新演出ということで楽しみにしていた公演。2月、ミュンヘンでのジークフリートでは美貌と美声のマルガリータ・デ・アレラーノにすっかりと魅了されてしまった為、彼女が歌うルルも見逃せない。

ミヒャエル・ボーダー指揮による演奏も実に巧みだった。先ず何よりも意表をつく幕開けから刺激的なステージが展開する。最初に登場したセットはグレゴリー・クリュードソンの写真集に登場するようなアメリカ郊外の住宅街から。空一面が夕暮の青色で、家々がシルエットに映っている。左側にヘッドライトをつけた自動車が正面を向いていて、ルルはその車の天井に登場する。実に幻想的な幕開け。

ドラマの進行とともにステージ前方に壁が下ろされ、今度はステージ左に四角いガラス窓越しに中が見える四角い小部屋。ステージ正面にも扉があって、ステージ前方の空間で室内劇が展開してゆく。アルヴァはノートPCを操り、キーボードで作曲を。アレラーノ演じるルルはその素晴らしいプロポーションから最大限のエロティシズムを放つ。演出もまた過激度を増したものとなっている。既に幕が開く前から右側2階のスコアボックス席に派手な貴婦人風のゲシュヴィッツ伯爵令嬢が観客として見ていたりと、ステージと客席の一体感も素晴らしい。

第2幕はシェーン博士がゴルフに興ずる場面から、セクシーなダンサー達が登場する場面、シゴルヒなど多数の登場人物たちとソファーで戯れるルルの場面など多彩な展開となる。特に80歳のフランツ・マツーラ演じるシゴルヒの深みとリアリティには驚かされる。彼がグルネマンツを歌うパルジファルをマンハイムで聞いたことがあるが、彼の貫禄あるイメージからは想像できないほど怪しげなキャラクターを放っていたのも鬼才のなせる技かと感心する。シェーン博士を演じるトム・フォックスは恰幅の良いビジネスマン風で、そのスキンヘッドとインテリジェントな振る舞いから、登場人物たちの中でも一際冴えていた。

第3幕も意表をつく展開だった。ステージの奥深くから矩形のトンネルが流線型カーブを描きながら正面に開口している。天井も側面も白を基調とした発光体となっており、空港の通路をイメージしている。すなわち登場する人物たちは旅客であり、スチュワーデスやパイロットたちもステージ奥から歩いてくる場面。スーツ姿のルルを始めとする一行もステージ全面に置かれた待合室の椅子に腰を降ろす。そのすぐ後にステージに左から右へとスーツケースの数々が移動していくのはジョークといった演出。こういった身近な風景でよりリアルなルルのドラマが展開していく。今回のオールデンの演出は、2月に見たジークフリートもさることながら、ある種のリアリティと奇抜な発想で、ルルというドラマを解釈していくところに新鮮さを感じる。なおルルが殺される場面は、第1幕冒頭と同じ住宅街と車が登場し、ルルが車に乗ったときに、シェーン博士に殺害されるという設定。

ツェルハ補筆版3幕仕立てを全く飽きの来ない刺激的な視点で見せてくれた事に大いに満足した次第。ボーダーの冷静沈着な演奏とキャラクターにぴったりのキャスティング、さらにはオールデンの演出が見事に合致した完成度だった。

かくして4/28から5日間、5都市にて7演目を楽しむ駆け足となったが、今回もエキサイティングな公演の数々に接することが出来た。特に刺激的だったのはやはりコンヴィチュニーの魔笛と本日のルルであったが、ホモキ新演出のタンホイザーやアウディのワルキューレも素晴らしく、ばらの騎士は地味なステージながらも音楽的に大いに高揚した。



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