LES TROYENS
Hector Berlioz (1803-1869)
Grand opera en cinq actes
Livret d'Hector Berlioz d'apres L'Eneide de Virgile


Premiere 11 Octobre 2003 a 18h30
Nouvelle production
Theatre du Chatelet

Direction musicale, Sir John Eliot Gardiner
Mise en scene, decors et costumes, Yannis Kokkos
Collaboration artistique, Anner Blancard
Lumieres, Patrice Trottier
Mouvemenets choregraphies, Richild Springer
Creation images video, Eric Duranteau
Coiffure et maquillage, Les Marandino
Assistants a la direction musicale,
Francois-Xavier Routh, Daniel Capps

Didon, Susan Graham
Cassandre, Anna Caterina Antonacci
Anna, Renata Pokupic
Enee, Gregory Kunde
Chorebe, Ludovic Tezier
Panthee Nicolas Teste
Narbal/
Le Grand Pretre (finale), Laurent Naouri
Iopas, Mark Padmore
Ascagne/
Une soprano (finale), Stephanie d'Oustrac
Hylas/ Helenus/
Un tenor (finale), Topi Lehtipuu
Le Fantome d'Hector, Fernand Bernadi
Priam/ Mercure, Rene Schirrer
Hecube, Danielle Bouthillon
Deux Sentinelles troyennes, Laurent Alvaro,
Nicolas Courjal
Un Soldant coryphee, Benjamin Davies
Un Chef grec, Robert Davies
Polyxene, Frances Jellard

Roles muets;
Andromaque, Lydia Koniordou
Astyanax, Hippolyte Lykavieris et Quentin Gac

Orchestra Revolutionnaire et Romantique
Orchetre de scene
Monteverdi Choir
Choeur du Theatre du Chatelet
Chef de choeur, Donald Palumbo

Duree du spectacle; 5h05
Acte I: 60'
Acte II: 25'
Entracte: 40'
Acte III: 45'
Acte IV: 55'
Entracte: 25'
Acte V: 55'



ドレスデン、ベルリンは曇りや小雨の天気で肌寒い日でした。今日はベルリン・ツォーからICEにてケルン・ドイツへ移動し、そこでタリスに乗換えパリに向いました。途中、かなりの高速で草原を走り抜けるスピードは快適。天気も次第に晴れに変わり始め、秋とはいえ緑が広がる風景は長閑でした。

さて今日はシャトレにてガーディナー指揮、オーケストラ・レヴォリューショナレ・ロマンティックの演奏によるベルリオーズ「トロイの人々」プレミエでした。トロイはカンブルラン指揮&ヴェルニッケ演出、メータ指揮&ヴィック演出が共に忘れらないものでしたが、ライブでは3度目となる今日のヤニス・コッコス新演出も見事なプロダクションに仕上がっていました。5時間半を要する超大作を集中力を持って見させるには、ステージ作りも慎重を要しますが、全体をシンプルに纏め上げつつも、場面に応じた多彩な変化を映像、照明効果、オブジェを使い分けたアプローチに感心するばかりでした。

第1幕と第2幕の90分間は、シャトレのステージ背景を全て傾斜した鏡の面としたアイデアがユニークでした。床に配置された人物や群集の姿が上部からステージ全面に映し出され、これに幻想的な照明が加わることで、立体感溢れる視界を作り出しているのには驚いた次第。なお床面には下部へ下りる階段が設置されており、床面が動くことで、ステージ背景にも動的な変化を与えていました。アントナッチ演じるカサンドラは第1幕では白の衣裳とし、第2幕では黒としているコントラストが鮮やかでした。アントナッチは、後半に登場するスーザン・グラハムのディドーと容姿もそっくりで、声量溢れる見事な歌に酔いしれてしまいました。ステージも第1幕と第2幕ではトロイの勝利から絶望への変化を象徴的に描いていました。ちなみにトロイの木馬はオブジェではなく、ステージ背景の鏡に映し出された馬の巨大な顔が象徴的でした。

休憩を挟んでの第3幕はカルタゴに転じて、明るいステージで、白を基調としたオブジェが林立する見事なセットでした。それにしてもモンテヴェルディ合唱団とシャトレ合唱団による群衆は圧倒的でした。ガーディナーの時に古楽風に聞こえるアンサンブルの新鮮さとあいまって、ベルリオーズのドラマチックな合唱を聴けたのは最高です。シャトレにモンテヴェルディの風が吹き注ぐといった感じで、絶妙なニュアンスが群集の心理まで描写しきっているといった素晴らしさでした。ちなみに3幕ではエネーたちの航海を象徴し、ステージ全面に海中の流れを映し出す手法が効果的でした。魚の群れが流れ行く流動感と音楽とが見事にマッチした迫力は凄いものでした。なお巨大な鏡に映し出されたステージ上の群集にも海の映像が重ね合わされ、さながら群集も海の中を彷徨うかの幻想さも大きなアクセントとなっていました。

第3幕からはスーザン・グラハムのディドーがやはり圧倒的でした。特に第4幕、嵐の後の夜の帳でクンデ演じるエネーとの愛の二重唱はトリスタンとイゾルデを彷彿とさせる陶酔感に満ちていました。ちなみにS.グラハムとガーディナーは2001年のザルツブルクでもチェコフィルと見事なベルリオーズを歌っていましたから、今日の演奏も大いに期待した通りの素晴らしさでした。シャトレでのトロイ人の計画も2001年のフェストシュピーレ・マガジンにてS.グラハムが語った通りに実現したのが何よりも嬉しい限りです。クンデも冒頭から揺ぎ無いエネーを歌い続け、ヴィラーズと並びベルリオーズ歌いとしての貫禄が一杯でした。3、4幕はステージも背景に分割した空間を設けて、ここを海として白の象徴的なデザインの帆船が幾つも浮かぶ幻想的なものでした。

さらに休憩を挟んで第5幕は天井から吊るされた大きなゴンドラ風の船首に乗った水夫の歌から開始。第1幕、第2幕と同様に巨大な傾斜鏡がステージを覆い、トロイアの艦隊はシンプルはステージ床と背面の暗く照らされた空間で演じられました。ディドーが登場する場面では、中央に白の巨大階段が登場し、さながらヴェルニッケやムスバッハの直線的な階段を連想させますが、鏡面との組み合わせで、極めて美しく見事な場面でした。ディドーの自決はブリュンヒルデの自己犠牲を既に連想させるものであり、白の衣裳をまっとったS.グラハムの圧倒的な歌唱は実に感動的でした。赤の布を長く階段に垂らした振り付けも血を象徴化していて、大作「トロイ人」を締めくくるに相応しい展開でした。

歌手達もさることながら、ガーディナーの巧みな指揮はトロイ演奏史上、輝かしく記録されるに相応しい出来栄えだったと思います。カーテンコールでの怒涛の喝采は鳴り止まず、プレミエに相応しい大成功でした。この時期、アムステルダムでもアウディ新演出のトロイが上演されておりますが、シャトレを意識してか、公演日をシャトレと同じ日に設定している日が多いようです。残念ながらAMS公演は見逃さざるを得ませんが、今日のシャトレ公演を選んだことに悔いは一切ありません。むしろ今日の時点で、ガーディナーのトロイが今年見たオペラの中で最高の1本であったことに疑う余地がありません。

今回のプロダクションはジュネーブ大劇場との共同プロダクションで、シャトレで行われる公演中、10月18日、22日、26日が、フランス2、3およびBBC,NHKによりビデオ収録されるそうです。


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