さて今日はベルリンを朝7:50のLHで飛びウィーンに9時頃到着しました。ホテルにチェックインし、11時開演のムジークフェラインへは余裕でした。ここでウィーンフィルを聴くのはブーレーズのマーラー3番以来となりますが、今回もブーレーズということで大いに期待しました。プログラムはワーグナー「パルジファル」前奏曲、シェーンベルク室内交響曲2番、マーラー「さすらう若人の歌」にバルトークのチェレスタと弦、打楽器とチェレスタのための音楽と実に多彩な内容でした。多彩な内容を楽しむというだけでなく、それぞれの完成度が極めて高いもので、はっきりいって、これほど充実したコンサートは近年稀に見る出来栄えではないでしょうか。
特にパルジファル前奏曲の敬虔に満ちた美しさは圧倒的でした。ムジークフェラインならではの響きの良さが重厚な弦の響きを際立ったものにしていて、しかもブーレーズが、楽劇を目の当たりにさせるようなアプローチには驚嘆しました。それに聖餐の動機が弦から金管楽器に受け継がれる箇所の見事な呼吸の素晴らしさ。席はパルケット2列目の右端とオーケストラに近いにも関わらず、音の粗さなどは全く聞こえず、実に緻密なアンサンブルであることに驚嘆しました。本来ならこれほどの至近距離では音がバラバラになるところが、全てに調和した響きは奇跡としか言いようがありません。とにかく、この前奏曲で自己完結した楽劇のコンセプトが全て盛り込まれているといえるほど密度の高さを見せました。
続く、シェーンベルクの室内交響曲2番ははパルジファルの崇高な響きの後では、また格別にロマンチシズムの濃厚さを湛えていることが浮き彫りにされたように感じます。まるでペレアスとメリザンドにも共通するかのような世界が20分強の交響曲に描かれているのです。そして前半の最大のクライマックスはトーマス・クヴァストホフの「さすらう若人の歌」でした。まさにムジークフェラインでウィーンフィルを聞く醍醐味がクヴァストホフの透明で力強い歌声とともに味わうことが出来ました。その陰影に満ちた歌にウィーンフィルの葦笛が寄り添うハーモニーの見事さ。まさに黄金ホールはこのために存在していると言わんばかりに、オーケストラ、歌手、ムジークフェラインが三位一体となる瞬間でした。第1曲、失恋の気持ちの起伏がごく自然にひしひしと伝わり、第2曲、自然の中の美しさ。特にホーネックのソロ・ヴァイオリンが小鳥の如くクヴァストホフに語りかけあう場面は絶品でした。第3曲、クヴァストホフのO
weh!の叫びにオーケストラの壮絶な嵐。第4曲、Die zwei blauen Augenはまさに「さすらい人」の心境でした。クヴァストホフの端正で抒情豊かな歌は本当に感動的で最大限の喝采が浴びせられました。もうこれ一曲でマーラーのシンフォニーに匹敵する密度です。
前半は曲を追うごとに色彩感が増すように感じられたのも、ブーレーズのプログラミング意図と推察されます。後半はさらにリズムの次元が加わり、バルトークの弦、打、チェレスタの音楽でピークを迎えました。アンダンテで開始される序奏部では奇しくも本日の冒頭のパルジファル開始に呼応するかのように厳粛なピアニッシモで始まったので、一瞬、パルジファルに回帰したかのように錯覚しました。展開するに従い、バルトーク独特のパワフル感が満ち溢れインパクト度満点です。チェレスタをはじめとするパーカッションとハープが指揮者の前に並べられたレイアウトも効果的で、ヴァイオリンは左右に振り分けられました。ちなみに前半はヴァイオリンは第1、第2は左からのレイアウト。そしてフィナーレはパーカッションが炸裂しまくるといった展開でエキサイトしました。
2時間強のコンサートで、ワーグナーからバルトークに至る全てのエッセンスがこれほど凝縮されているとは驚きです。それに微妙なニュアンスや臨場感はCDに録音することは先ず不可能で、やはりウィーンフィルはムジークフェラインで聴くに限ることを証明しているようでした。最近まで聴いたコンサートで今年のベストはラトル&BPOの「四季」と「フィデリオ」でしたが、やはり今日のブーレーズ&ウィーンフィルをベストにしたいと思いました。それほど素晴らしかったです。なお本日は女性4人の奏者も登場していました。ヴィオラ1名、ハープ1名、第2ヴァイオリン1名、クラリネットに1名でした。特に開演前はシュミードルが若き美人クラリネット奏者にいろいろアドバイスされている様子でした。 |