Don Giovanni (Neuproduktion)
am Sonntag den 23.03.03 um 19:00
von Wolfgang Amadeus Mozart
Urauffuhrung 1787

Besetzung
Musikalische Leitung : Kirill Petrenko
Inszenierung : Peter Konwitschny
Buhnenbild : Jorg Kosdorff
Kostume : Michaela Mayer-Michnay
Lichtgestaltung : Franck Evin
Chore : Hagen Enke
Don Giovanni : Dietrich Henschel
Donna Anna : Bettina Jensen
Don Ottavio : Finnur Bjarnason
Stadtkommandant : James Moellenhoff
Donna Elvira : Anne Bolstad
Leporello : Jens Larsen
Masetto : Florian Plock
Zerlina : Sinead Mulhern
Die Chorsolisten der Komischen Oper Berlin


一昨日のベルリン・コミッシェ・オーパーはコンヴィチュニー新演出のドン・ジョバンニの初日公演でした。さすがにコンヴィチュニーのやりたい放題といった斬新・奇抜・刺激さに驚きました。開演前からステージ幕は開かれており、天井には大きな円形の照明管があり、ステージ自体は円形舞台にプラスチック張りの仕切り板が曲線を描いて立っていました。序曲の開始とともに、円形舞台が回転し、小さなモーツァルトがピアノを練習している場面が登場。かたわらに父レオポルドがレッスンしているという場面ですが、父が見ていない間にモーツァルトが悪戯をするといった演出で、ついにピアノを壊し始めるといった有様。続いてピアノの中からベッド衣裳の将来のコンスタンツェと思われる女性が登場し、小さなモーツァルトの手を引いて回転するステージ、誘惑の世界へと歩んでいきました。

ここで一度幕が降り、序曲終了とともに幕が開くといった展開でした。ディートリッヒ・ヘンシェル演じるドン・ジョバンニはとてもコミカルでユニークなキャラクターでした。騎士長を殺す場面は、ドン・ジョバンニの方から殺すと言うよりも、二人が雨傘で決闘の真似事をして、誤って騎士長に突き刺さって死んでしまうという設定でした。むしろ誰にでもドン・ジョバンニ的運命に出会う可能性があることを示唆しているように感じました。この平凡な奇人をヘンシェルが見事に演じている訳です。これに対してレポレッロは積極的な性格描写で、ドン・ジョバンニの秘書として奔走する役割を演じているのが面白いところでした。

それにしても冒頭から貪欲なセックスシーンが連続し、見るものを釘付けにしていました。ツェルリーナの結婚の場面などは、ローエングリンで見せた小学校のコンセプトのように、会社の制服姿の男女が沢山ピクニックにでも行く出で立ちで、ステージを走り回るという演出が爆笑でした。彼らも男女問わず集団で衣服を脱ぎ始めて、露骨なセックスシーンで狂乱することに。ともかく滑稽で刺激的な展開ですが、意外なほど演出とモーツァルトの音楽がマッチしてることに驚きました。音楽の躍動感、テンポの起伏に合わせながら、群集の動き回るエネルギッシュさをパロディックなドラマ展開に一致させている点は、コンヴィチュニーの天才的演出のなせる技に他なりません。





コミッシェでの公演はドイツ語で演じられますが、これに乗じてコンヴィチュニーがオリジナルとは違った台詞にすり替え、パロディ版演劇といった手法が面白いところでした。歌手が観客へ語りかけるといった趣向がとてもリアリティがありました。例えばカタログの歌でドン・ジョバンニの好色ぶりが披露される時、ドン・ジョバンニが観客席に向って美しい女性にプロポーズするような演出などは、ドラマが虚構ではなく、今現在の現実のものであることを強調する意味でも効果的でした。

また第2幕以降は音楽もオリジナルのスコアから相当に脚色されていたのが興味深いところです。当然、パロディックに改変されたドラマも奇抜で、レポレッロが群集に追われる場面ではピストルで殺されてしまうという展開でした。でもまた生き返るのが面白いところです。ドン・オッターヴィオがアリアを歌っている場面では、ドンナ・アンナがピストルで彼を撃ち殺してしまい、そこでアリアがそこでストップしてしまいました。さすがにこの時ばかりは、反コンヴィチュニー派から猛烈なブーイングが出ました。で、またドン・オッターヴィオが生き返って、会場に向って怒りの演説をするといった展開で、結局アリアの後半を続行するといった展開に。ちなみにドンナ・エルヴィーラもドンナ・アンナに殺されてしまいます。このようにドラマも即興ではと思わせるほどのリアリティと柔軟性に富んでいて、全く目が離せませんでした。

一昨日のノイエンフェルスでは音楽には一切を手入れを行わず、レチタティーヴォやアリアの時間を上手く利用して同時並行するパントマイムを主体に、強烈なノイエンフェルスのメッセージに組替えていた手法に対して、今回のコンヴィチュニー演出は積極的にドラマのストーリーも音楽も彼一流の読み替えを行っている点に注目します。



円形ステージを回転させながら幻想的な色彩感を湛えながら、時に客席の照明を明るく点滅させるなど、現実とドラマの境界が無くなっていくマジックはコンヴィチュニーならではと思いました。特に客席左右のバルコニーに居る楽士達に明るいスポットライトを当てて、客席からビューネン・オーケストラを奏でさせる演出は、客席とステージを一体とさせる効果的な手法でした。

さてドン・ジョバンニも大詰め、雨傘に隠れた騎士長がドン・ジョバンニと腕を組みながら晩餐会へ移動する場面も、回転舞台ととも効果的な設定でした。ともかく爆笑のドン・ジョバンニですが、最後は群集に囲まれステージ下に沈み込んで地獄落ちする訳ですが、最終の15場では、生き返り、再びステージに上がってくるという有様でした。今までは白のTシャツに黄色のガウンという姿だったのが、スーツ姿に変身していました。キューブリックの映画シャイニングに出てくるジャック・ニコルソンが死んだ後で、写真の中でホテルオーナーとして写っているシーンがありますが、それを想起させるかのように、ドン・ジョバンニも群集のドンとしてステージ中央の黄色い椅子に座りながら、皆から慕われながら、最後の6重唱が展開していくのは実に和やかな雰囲気で、憎めないドン・ジョバンニを強調していました。

ともかくコンヴィチュニーのドン・ジョバンニは強烈すぎるもので、日本ではとうてい上演できない代物でした。会場はブーイングとブラヴォーの応酬合戦と化し、コンヴィチュニー派が優勢のようでした。そもそもコンヴィチュニーだと分かって来ている人が大半ですから、普通のオペラを期待している人は少ないようで、大喜びしている観客が大半でした。ちなみに平土間席の大半はコンヴィチュニー派とすれば天井に近い方が反コンヴィチュニー派と分かれているようでした。

それにしてもペトレンコ指揮のアンサンブルは驚異的なまでに元気が良く、乗りのよさは最高でした。時にアルノン・クールやミンコフスキーかと思うほど音楽が生きていたのに驚くばかりです。強烈なアンサンブルとともに歌手陣も素晴らしく奇抜な演技ながら歌にリアリティを持たせているあたりはさすがです。

昨年のザルツブルク音楽祭でのクセイ演出のドン・ジョバンニも全く色褪せてしまうほど、本日のプレミエは生彩感、インパクトともに最先端を行くドン・ジョバンニに仕上がっていました。今年はコンヴィチュニー演出で5月の「ばらの騎士」再演、6月の「アイーダ」新演出を見られるのがとても楽しみになってきました。それにしても、この3月のベルリンはノイエンフェルスの破壊的なイドメネオにコンヴィチュニーの奇想天外なドン・ジョバンニと超刺激的です。




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