BERLINER PHILHARMONIKER
Joseph Haydn "Die Jahreszeiten"

Sir Simon Rattle DIRGENT
Christiane Oelze
SOPRAN
Ian Bostridge
TENOR
Thomas Quasthoff
BARITON
RIAS-Kammerchor
Morten Schuldt-Jensen
EINSTUDIERUNG


PHILHARMONIE GROSSER SAAL

Sa 22. Maerz 2003 20 Uhr Sonderkonzert
Joseph Haydn
Die Jahreszeiten
Oratorium fuer drei Solostimmen,
Chor und Orchester Hob. XXI;3
Text: Gottfried van Swieten nach
>> The Seasons << von James Thomason
Simon, ein Paechter Thomas Quasthoff
Hanne, seine Tochter Christiane Oelze
Lukas, ein junger Bauer Ian Bostridge
Landvolk, Jaeger RIAS-Kammerchor


ハイドンのオラトリオ四季は大好きな演目のひとつで、CDではドラティ盤、ベーム盤を愛聴しています。今回、ラトルとベルリンフィルが取り組むとあっては見逃すことが出来ませんでした。ラトルのハイドンは、ザルツブルク音楽祭でチェチーリア・バルトリとの共演でも圧倒的にエキサイティングなものだっただけに、大いに期待するところです。チケットは昨年4月にベルリンの郵便局から申込んだので早々と良い席を確保できました。Aブロック9列目のちょうど真正面、左右のブロックのラインが交差する席で、視認性も音響も格別のポジションでした。



さてステージレイアウトは、ポーディアムを客席として、オーケストラ後方の中央から右手にかけて2列編成で少人数のRIAS室内合唱を配列し、ソリストは合唱の前、右よりにクヴァストホフ、ボストリッジ、エルツェの順に並びました。合唱が正面に来ないのは不自然と思いましたが、聴くうちにその謎が解けました。「春」も大詰めの第8番「Ferundelied, 喜びの歌」において177小節目のMaestosoにて、ブラス群と合唱が交互に呼応しあう箇所がありますが、ラトルはあたかも合唱も器楽であるかのように、合唱と管弦楽の対比を左右の空間を通して盛り上げていました。すなわち、左手のブラスとティンパニの炸裂と右手の圧倒的な合唱が空間的な呼応を作りだし、フィルハーモニーの大きな空間を揺るがさんばかりの興奮をハイドンのスコアから描き出していたのです。ともかく凄くエキサイティングな演奏でした。

オーケストラのレイアウトは、左から第1ヴァイオリン、チェロ、チェンバロ、ヴィオラ、第2ヴァイオリンと、ヴァイオリンを左右に振り分けていたのが実に効果的でした。冒頭の序奏から、緊迫感あふれる音楽が続きますが、第2ヴァイオリンは第1ヴァイオリンとコントラストを成す箇所も多く、32小節目のスフォルツァンドとシンコペーションでの重なり、41小節では第1に追随して同じ音形を繰り返す第2ヴァイオリンなど。第1、第2ヴァイオリンの音の流れが左右の空間を動く様が空間的広がりを上手く表出されていました。ちょうどラトルの指揮も体を左から右へと素早く切り返し、観客から見ていても、視覚的迫力と音響的迫力が見事に一致していました。

指揮者の前のチェンバロのすぐ左手にチェロを配置しているのも、トップのゲオルク・ファウストが通奏低音を受け持つのにちょうど都合が良いといった感じで、レチタティーヴォにて歌手の方を向くのに適していました。ちなみにコンサートマスターはガイ・ブラウンシュタイン、その左はダニエル・シュタブラヴァ、ヴィオラには清水直子さんもおられました。

なおレイアウトという面では第26番、秋の狩における合唱で、左右の上手に、それぞれ2本づつ立たせて、狩の臨場感を壮大に歌い上げていたのがとても効果的でした。交互に呼び合う角笛も72小節目にて一斉に響きを上げる躍動感、合唱と相乗効果を生みだすかのように、スペクタクルさを聞かせてくれました。合唱も "Ta-jo!", "Ho, ho, ho!" から " Halali "に展開する様はまさに圧巻でした。それにしてもRIAS合唱のパワフルさとラトルも煽りも凄いものがありました。

ハイドンの四季では合唱によるフーガが随所に聞かれますが、「冬」の大詰め第39番の二重合唱は、合唱の2列目がそのまま左手に移動し、2重フーガを左右に分離して聞かせてくれました。ともかく柔軟な発想のレイアウトと、演奏の見事さは完璧といって良いものです。

演奏上注目すべき点のひとつは、「夏」第9番の序奏において、27小節の休符まで第1、第2ヴァイオリンをカットしたこと。すなわち第1ヴァイオリンのフレーズをヴィオラが受け持ち、第2ヴァイオリンのフレーズをチェロが演奏するといった奇抜さで、これが夏の夜明け前の静けさ、時に夏の気だるさを上手く表現したいたのが面白いところです。ヴァイオリンをスコア通りに元に戻すのは28小節目からで、それまで抑圧されていた神妙さが一転し、第1Vnの分散和音とオーボエの小鳥の鳴き声がとても新鮮に際立ちました。ラトルが狙った効果通りの展開に、続く10番シモンのアリアとレチタティーヴォも、ホルンの牧歌的な調べが鮮やかに冴え渡るといった感じでした。他にも第1ヴァイオリンのパッセージにオリジナルには無い音形を加えるなど、ラトルの積極的な音楽作りを感じる取ることが出来ました。

演奏上のディフォルメでいえば、開始早々の春の前奏において、強烈なフォルテに対して55小節のピアノをかなり押さえ気味にするなどのコントラスト作りが上手いと感じさせました。再び盛り上がる時の加速感も素晴らしく、特に「秋」第28番、ワインで祝う農民達の合唱、練習番号Dからの踊りの場面のスピードにびっくりました。驚異的に早いAllegro assaiでオーボエのソロが見事に決まり、合唱も縺れないで歌い続け、第1ヴァイオリンもスラスラと超快速テンポ。ラトルの面白いほどのドライヴにしっかりと応えるベルリンフィルの超絶的性能に驚くばかりです。それにしても目まぐるしく走り行く踊りのテンポは本当に凄いものがありました。夏の嵐の場面も同様に、早く激しい展開を聞かせくれたのが印象的です。

クヴァストホフの朗々と響くシモン、ボストリッジの瑞々しいルーカスにエルツェの麗しいハンネと実に素晴らしいソリストともに、ラトルの描くハイドンは魅力一杯の素晴らしさでした。まずは今年最大に良かった演目のひとつと言えるでしょう。ステージには沢山マイクが林立していましたから、CDになって欲しいところです。ちなみにイースターでも演奏されるとのことですから、いずれCDになるのではと期待しています。ともかく最高の演奏でした。開演20時で終演したのが23時40分頃でしたが、全く時間を感じさせない密度の高さに驚嘆するばかりです。終演後ポツダマー・プラッツに向う道は熱中した熱気を冷ますかのように心地良かったです。





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