INNSBRUCKER FESTWOCHEN

Georg Friedrich Haendel
Rinaldo
Dramma per musica in drei Akten HWV 7a Libretto: Giacomo Rossi, basierend auf einem Szenarium von Aron Hill nach Torquato Tassos Dichtung "Gerusalemme liberata"
Samstag, 10.August 2002, 18.30 Uhr (Premiere)
Tiroler Landestheater

Rene Jacobs Musikalische Leitung und Cembalo
Nigel Lowery Regie und Ausstattung
Amir Hosseinpour Regie un Choreographie
Franz-Pter David Licht

Goffredo Lawrence Zazzo (Countertenor)
Almirena Miah Persson (Sopran)
Rinaldo Vivica Genaux (Mezzosopran)
Eustazio Christophe Dumaxu (Mezzosopran)
Argante James Rutherford (Bassbariton)
Armida Inga Kalna (Sopran)
Mago cristiano Dominique Visse (Countertenor)
Ein Herold Dominique Visse
Zwei Sirenen Inga Kalna, Miah Persson

Freiburger Barockorchester



8月10日のベルリン・ドイツ響は12時40分と比較的早く終了し、ザルツァッハ沿いを歩いてホテルへ。雨続きの天気もようやく回復。これから夏らしくなるのではないでしょうか。途中、ランチを取ってからホテルに預けてあった荷物をピックアップして中央駅へ。今回も荷物を機内持込みサイズの2個だけなので機動力がありました。ザルツ14:31発の列車は夏休みのためか意外と混んでいました。所要の2時間もあっと過ぎ、イエンバッハを越えると間もなくインスブルック。前回に訪れた時は強烈な日差しでしたが、今回は雨が降りそうな空模様で気温もかなり低目でした。ホテルは最近ホリデイ・インから変わったヒルトン。駅から歩いても5分も掛からない距離でした。今夜の会場、チロル州立劇場へも徒歩で15分ほど。劇場は、凱旋門を右折しマリア像〜黄金の屋根を経て、王宮に面した広場にあります。



さて今回のインスブルック・フェストヴォッヘンでのヘンデル歌劇「リナルド」はリンデン・オーパーとの共同プロダクションで本日がプレミエ。ORF1でライブ放送されるためピット内はマイクが林立していました。オペラのストーリーはイスラムの王アルガンテと十字軍の司令官ゴッフレード、英雄リナルドとの戦いを描いた物語で、イスラム側の魔術師アルミーダと十字軍側の魔法使いとの戦いでもありました。随所にコミカルさがが満載されていて演出家にとっては如何様にも料理できるのが面白いところです。

第1幕、序曲からルネ・ヤーコプス率いるフライブルク・バロック・オーケストラの粋の良さに耳を奪われてしまいました。ピット内は左手と中央にチェンバロを配し、ルネ・ヤーコプスは指揮と中央のチェンバロも担当。左右両サイドのバルコニ席にもブラスとパーカッションのアンサンブルを配し、その音楽もロンドン・バロック・アンサンブルを彷彿とさせる音響効果を発揮していました。面白いのは木管楽器を一列に指揮者の後に配置して、ステージに向かって吹かせていることでした。



さてステージ全面は機関銃を持った迷彩服の戦士が描かれた壁になっていました。序曲中盤、壁に四角い窓が開き、そこで人形劇が始まりました。最初にターバン姿のイスラム戦士が現れ、次に十字軍の人形がひとつ。互いに殴り合いになってイスラムがダウン。再びイスラムと十字軍がひとりづつ現れたかと思うと、イスラム側にもう一人助っ人が現れ、2対1の殴り合い。十字軍が倒れて、その次は十字軍が3人で戦うといった展開が続きました。爆笑の人形劇が行われている開口部分からリナルド、ゴッフレード、エウスターツィオが飛び出してきて、一挙に第1幕第1場へ。本日の注目はヴィヴィカ・ゲノー演じるリナルドで、CDで聴く有名なアリアを生で聞けること。彼女もアフリカ戦線を思わせる迷彩服に帽子を被っていて、顎鬚まで描いたメーキャップはとても逞しく映りました。それにしても "Cara sposa, amante cara"のアリアは絶品で、さすがゲノーと感心しました。



アルガンテ王の場面では、バロック・トランペットにティンパニの堂々とした壮麗な演奏とともに、ステージ壁が上がり、中央に現れたイスラムの教会からの登場でした。彼はアラファト議長のような衣裳にサングラスという姿で、モーツァルトの後宮に登場するオスミン的描写でした。ゴッフレードとの交渉の次に現れたのは天井から降りてくる魔女のアルミーダ。黒ずくめの衣裳で、アルガンテ王はさながら彼女の奴隷といった感じ。強がっていたアルガンテも彼女には弱く、首輪をはめられて犬のように餌を与えられる場面は滑稽でした。そのまま犬の散歩で教会の中に消え、次に出てきた時には本物の白い犬に変わっていて会場は爆笑。芸の細かい演出が続きますが音楽との一体感は見事で上手くまとまっていました。







第2場はアルミレーナが横たわる美しい野原から。小鳥が随所からさえずる演出が取られていて、ステージ横上段からピッコロが奏でる鳥のさえずりはとても楽しいものでした。さてミア・パーソン演じるアルミレーナは凄く美人で可愛いソプラノ。声も透き通っていて伸びがありました。ほとんど下着姿という衣裳で、彼女の魅力をさらに高めるためかのように、彼女の分身として8人の女性ダンサーたちも踊りながらの演技でした。そしてアルミーダがアルミレーナを誘拐する場面では、アルミーダの妖術によって巨大な雛(ひよこ)の縫ぐるみがリナルドを妨害してアルミレーナを連れ去りました。次の瞬間、ミニチュアの雛がアルミレーナの人形を抱きかかえて、空を飛んでいくといった演出で、これまた会場が爆笑となりました。





第2幕1場は大きなアルミレーナ人形がピストルを構えたイラスト壁で始まりました。この壁にも四角い開口部分があって、これが開くと、海と島のスライドが映し出され、リナルドを誘惑する人魚たちのイラスト映像が。ついに本物の人魚達にリナルドはスライド窓に引き込まれてしまうという演出。第2幕2場、アルガンテはアルミレーナに恋しはじめ、これにアルミーダが怒り出すといったドタバタが続くことになりますが、そのステージはビーチを背景に2台のベンツが左右に並んだセットで行われました。アルミーダが車に入ってアルミレーナに化けたりするのに上手い演出でした。





第3幕は最初の機関銃の戦士のイラスト壁からの開始。やはり中央の四角い窓が開き、こんどはコミック画のイラスト映像が。連なる山を十字軍が上っていく場面で、そこをアルガンテ側の軍隊が面白おかしく追いかけていき、自爆テロで十字軍を壊滅させるスライドでした。こういったところにさりげない風刺を感じますが、オペラはヘンデルが意図したようにイスラム対十字軍を対等に扱っているのが面白いところ。さてドミニク・ヴィス扮する十字軍側の魔法使いは中国の仙人といった出で立ちでした。さすがヴィスは登場時間が短くてもそのキャラクター作りは巧みで、その存在感も大したものでした。演出では本物のロバもステージに登場。このロバ未だ鳴れていないのか、引っ張っても動こうとしない情景がとても滑稽でした。次の場面に進んでいても未だロバが居て爆笑でした。十字軍とアルガンテ王の戦いの後、アルガンテもアルミーダもキリスト教へ改宗する下りへと一挙にドラマが完結へ。





元々面白い物語にローヴェリの風刺の利いた演出が面白さを倍増させていて、キャストと演奏が上手く噛み合っていたのが何とも素晴らしい限りでした。特にルネ・ヤーコプスのチェンバロも巧みで、各種楽器、ウィンドマシンによる嵐の場面、ソロ楽器の雅な響きなどなど。それにしてもザルツブルク音楽祭の隣りで、これだけ楽しいヘンデルを見られるとは予想外でした。自由奔放やりたい放題の演出と極上の演奏のリナルドは必見です!



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