Deutsches Symphonie-Oorchester Berlin, Kent Nagano

DSamstag, 10.August, 11.00 Uhr
Felsenreitschule

Wolfgang Amadeus Mozart
Requiem d-Moll KV626 in der Fragmentfassung
Requiem-Kyrie
Dies irae
Tuba mirum
Rex tremendae
Recordare, Jesu pie
Confutatis
Lacrimosa (bis inkl. Takt8)

Sopran Laura Aikin
Alt Katharina Kammerloher
Tenor Torsten Kerl
Bsss Georg Zeppenfeld

Pause

Arnord Schoenberg
Die Jakobsleiter
Oratorium

Gabriel Dietrich Henschel
Ein Berufner Hubert Delamboye
Ein Aufuehrerischer Robert Gambill
Ein Ringender Michael Volle
Der Auserwaehlte James Johnson
Der Moench Kurt Azesberger
Die Sterbende / Die Seele Laura Aikin

Dirigent Kent Nagano
Choreinstudierung Rupert Huber
Konzertvereinigung Wiener Staatsopernchor
Deutsches Symphonie-Orchester Berlin




ザルツブルク滞在は今日のマチネまで。午後はインスブルックへ移動します。当初は今夜のボロディナを聞くためにパルケット最前列ど真ん中のチケットをゲットしていましたが、これを売るべくポルツァーに依頼していました。ということでマチネの前に結果を聞きに立ち寄ったところ、売れたとのことで、額面通りの90ユーロを受け取りました。その足で昨日の魔笛と同じ会場のフェルゼンライトシューレへ。

今日のケント・ナガノ&ベルリン・ドイツ響は、一連のFragmentをテーマとして、モーツァルト「レクイエム」にシェーンベルクのオラトリオ「ヤコブの梯子」という興味深いプログラミングでした。プログラム解説によると、当初シェーンベルクは妻マチルデの死に際して、彼女へのレクイエムを作曲したかったが、結局これは成らず、後のヤコブの梯子への作曲に至ると。ちなみにマチルデの弟は一昨日のカンダウレス王を作曲したツェムリンスキーだそうです。こう考えると、今回のケント・ナガノが指揮する作品にある種の一貫性があるようで面白いです。

さてオーケストラのレイアウトは魔笛の円形舞台の上に設けたステージ段でした。円形の天井の中心には、魔笛の登場人物が顔を出したりする穴がありますが、ここにはステージの照明がが取り付けられていました。前半のモーツァルト「レクイエム」は比較的大編成のオーケストラで、ソリスト達を指揮者の左右に配して、ウィーン国立歌劇場合唱とともに熱の入った演奏でした。特にDies iraeでのテンポアップはかなりの迫力。最前列真中の席からはラウラ・アイキン、カタリーナ・カンマーローア、トルステン・ケール、ゲオルク・ツェッペンフェルトらの息づかいも克明に聞き取れました。そして演奏はラクリモザのモーツァルトが作曲した所まで演奏されました。歌詞では、Lacrimosa dies illa, Qua resurgetまでですが、実際には切りの良い、Lacrimosa dies illa, Qua resurget ex favilla Judicandus homo reus.までを演奏して終了。この時、祈りの長い沈黙の後に拍手喝采となりました。演奏時間にして30分ほどでしたが、このようにモーツァルトのオリジナルを断片(フラグメント)として聞くことで、モーツァルトの素晴らしさを再確認できたのではないでしょうか。

そして後半のシェーンベルクのオラトリオ「ヤコブの梯子」。ライブでは秋山和慶&東京交響楽団で聞いたこともありますが、滅多に接することのできない作品だけに期待が高まるばかり。そもそもシェーンベルクは2部構成の巨大オラトリオを計画したものの、第1部の最終場面と第2部への掛け橋となる大交響間奏曲までを作曲して未完に終わってしまったそうです。後にヴィンフリート・ツィリッヒ(Winfried Zillig)が補筆して形を整えたヴァージョンが一般に演奏されているとのこと。今回もこの版の演奏に従っていました。

ステージレイアウトは先ほどのレクイエムとはそれほど変わっていなくともかなりの大編成に。ガブリエル役のみ指揮者の右に立ち、あとの登場人物たちは左側の奥まったステージ段に並んでの演奏。キャスティングではガブリエルをディートリッヒ・ヘンシェルが要でした。彼は5月のナンシー・オペラで素晴らしいヴォルフラム・フォン・エッシェンバッハを聞かせたばかりなので、今回のザルツ公演も大いに楽しみでした。順次登場するキャストも、指名された男はヒューベルト・デランボイエ、扇動的な男はロバート・ギャンビル、奮闘する男はミヒャエル・フォレ、選ばれた男はジェイムス・ジョンソン、修道士はクルト・アツェスベルガー、瀕死の男(女声)および魂はラウラ・アイキンという豪華さでした。

Sehr raschで開始される前奏部分はチェロの逞しい推進力が素晴らしく、ホルン、トランペットが音を重ねながら高音域へ上昇していくパッセージで既に聞くもののテンションを一挙に高める効果がありました。既に地上から天上への梯子を昇っていく、オラトリオのテーマを暗示しているかのようです。そしてガブリエルの語りで一挙に引き締められるような気合。20小節目から2部合唱の9声部が唸り始めたかと思うと、25小節目で12声部まで拡大し、ポリフォニックな音の層が聴くものを圧倒しました。オーケストレーションを含めると30のパートの重なりとなっていて、きわめて複雑。演奏も難しさ極める箇所ですが、ナガノ&ドイツ響によるパッセージの描き分けが巧みで、極めて透明感が高くて流れを感じました。

各人物がガブリエルと語り合う場面ではソロ楽器によるアクセントも印象的でした。ガブリエルが奮闘する男に対して2度目の受け答えにて、Gegen seinenudn euren Willen ist einer da, euch zu fuehren.の後に続く独奏チェロが絶妙。この時、CDでは余り気づかなかったですが、バックに流れる合唱がリゲティの宇宙を思わせるかのようでいて、シェーンベルクの音楽語法の多様性が聞き取れる演奏でした。また選ばれた男の、der ihr Herr ist und Diener, ihr Weiser und Naar Glaenzt aut im Umkreis...のパッセージにて、独奏ヴァイオリンの美しさは絶品でした。オラトリオが進むにつれ、こういったソロ楽器によるアクセントはデュオの形を取ってくるのが面白いところでした。特に修道士が語る時のソロ・ヴァイオリンとソロ・ヴィオラのパッセージはソロ楽器同士が語り合うかのように緻密な演奏を聞かせてくれました。

515小節目から始まる瀕死の男(アイキン)のHerr, maein ganzes Leben 以下からは求心力が次第に満ち溢れ、オーケストラの緻密なアンサンブルに釘つけ状態に。550小節からのハープ、ピアノ、木管、ホルンの細やかなパッセージがさらに美しさを増し、ぞくぞくとするほど。これにガブリエルの語りと瀕死の男と合唱のヴォカリーズが加わり神秘の極致かとおもうほどのアンサンブルでした。さらに印象的なのは563小節のLangsameにて、Vnの細波にハープ上昇の繰り返しと、トランペットが笙のように上昇していく高揚感でした。アイキンは引き続き魂を歌いましたが、ちょうどレイアウトが、左に魂(アイキン)〜中央がガブリエル〜右手にヴィオラとバスとなっていて、音響に空間的広がりを持つためか、広大なフェルゼンライトシューレに音楽が益々冴え渡るような感じ。

最後の大交響的間奏ではオーケストラと魂(ソプラノ)がともに昇華していくかのようでした。特に天空からヴァイオリン・ソロが聞こえてくるかのように、おそらく後方の上部スピーカーからテープ収録をミックスさせているのではと察します。ちょうどその直前にケント・ナガノが指揮台右にあったイヤホンを耳につけて、右手でリモコンを操作しているように見えました。テープ収録とオーケストラが溶け合っていく様はとても神秘的で空間に舞い上がるかのような臨場感でした。ヤコブの梯子が光の柱として目に見えるようでした。長い沈黙とともに次第に高まる喝采。シェーンベルクは第2部を一体どのような構想と考えていたのか興味深いところですが、本日の素晴らしい演奏を聴くと、とりあえずこれで完結といった充実感がありました。


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