このところ晴れ間と曇り空が交互に入れ替わるといった天気が続いています。気温は低目で猛暑の日本に比べると寒いくらい。そしてザルツァッハ添いの川べりを散歩するのもとても爽やかです。さて今日は21時より祝祭大劇場でジェシー・ノーマンでした。席は昨日と同じ席番のパルケット最前列でした。さすがにジェシー・ノーマンともなれば、有名な方々も聴きに来られているようで、TV報道のカメラマンが取材するなど豪華な雰囲気が漂っていました。
至近距離で聞くジェシー・ノーマン。その風格は格別で、冒頭のシューベルトを聞いた瞬間から感動の衝撃を受けつづけました。芳しいロマンを湛えながら、初めて聞くシューベルトであるかのように鮮烈。もはや美声とか歌唱上のテクニックなんかを聞くことはナンセンスであるかのように、次元を超越した凄さに驚くばかりです。選ばれたシューベルトの作品も「ミューズの息子」「自然に寄す」「湖上で」「全能の神」「偽りの愛」「糸を紡ぐグレートヒェン」「魔王」といった超名作ぞろい。「ミューズの息子」では、その繊細にして強靭な歌声を聞いた瞬間、彼女でブリュンヒルデやイゾルデを是非聞きたいと思いました。また「全能の神」におけるノーマンの神々しさと、「魔王」で聞かせた迫力は素晴らしかったです。いずれの作品も初めて聞かされたような新鮮な感覚と感動でもって触れることが出来た喜びは計り知れないものがありました。
後半はショーソンの「終わりなき歌」から。この作品はピアノに加えてアンサンブル・ウィーンが共演する編成で演奏されました。ただし当初予定されていたコントラバスのヨゼフ・ニーダーマイヤーがウィーン弦楽四重奏団のチェリスト、フリッツ・ドレシャルに変更。すなわちライナー・ホーネック、ライムント・リシー、ペーター・ゲッツェル、フリッツ・ドレシャルらウィーンフィルの柔らかく渋い弦とマーク・マーカムの端正なピアノとともに聞くノーマンはまた格別。ショーソンの詩情がひしひしと伝えつつ、そのスケールの大きさはオペラにも匹敵する深みを感じました。
そしてデュパルクの歌曲ではピアノ伴奏に戻って「旅への誘い」「フローレンスのセレナード」「前世」「悲しき歌」など哀愁と情感に満ちた作品をたっぷりと。これら選曲された作品は、ひとつの連作歌曲であるかのように統一感がありました。それゆえに一曲ごとの拍手が躊躇われるほど集中力に満ち溢れていました。圧倒的な喝采とともにアンコールも何曲も歌われ、ゴスペルなどノーマンのキャラクター満載のリサイタルとなりました。それにしても延々30分ほどアンコールが続き、まさに熱狂と化した祝祭大劇場は久しぶりのこと。一夜明けて、先ほどオーチャードに電話して、ノーマンの来日公演を予約しました。 |