第2幕もユニークな展開であった。基本構造は第1幕の大木が倒れている設定で、放射状に伸びる枝にはポプラのような黄色い大きな葉っぱが沢山ついている。沙幕にカラフルな色彩が鮮やかに照らし出され、官能の花園が現れる。セクシーでキュートな歌手やダンサー達が舞い踊り、客席から溜息が沸き起こる。幾つかのパルジファルを見てきた中でも、これほど見事な舞台を見たことがないほど素晴らしい。クリングゾールは裸に簡単な衣装をまとっているだけで、黒のガウンを羽織っている。そういえばアンフォルタスは白のガウンであったが、それ以外はとても良く似ている。例えば二人ともセクシーさを漂わせているし、表面的に見ただけでもアンフォルタスとクリングゾールは裏表の関係、対の関係であることを強調しているようだ。
第2幕でのクンドリーは、例えばマイヤーなどが演じると、その存在感の強さに圧倒されてしまうが、マルフィターノは地味ながらも、そのセクシーさと独特のキャラクタでもってパルジファルに迫る。そしてパルジファルがクリングゾールから槍を奪い返す場面では、自ら槍に向かって、彼のわき腹に槍を受けてしまった。おそらくパルジファル自身が傷の痛みを体験し、奪い戻した聖槍で自らの傷を癒したのち、アンフォルタスへの救済へ向かうものと予想した。
第3幕はステージ前面が白のコンクリート壁のような設定で、大木のシルエットが黒く開口面を広げている。壁は矩形のブロックが積まれたかのように格子模様が入っている。「時間が空間に変わる」というテキストから、この格子パターンは空間に示された重力波の等高線ではないかと勝手に想像したが、ドラマの展開とともに壁はステージ奥に下がり、さきほどの大木状のシルエットは燃えて朽ち果てた木炭のような大木となって現れた。
それにしても第3幕のクルト・モルは最高だった。見るからに老齢ながらも、これほど見事なグルネマンツはそうざらには聴けない。昨年12月のアバドBOPでの出来栄えを大きく上回っていた。カイズのパルジファルも堂々としていて輝かしい。聖金曜日の奇跡では客席のシャンデリアが客席内を白く照らし出されたが、シュナイダーの素晴らしい指揮のためか、身動きもできない。
聖杯場面での演出では、クンドリーが第1幕で出てきた赤い凧のようなスカーフのようなアンフォルタスの血をパルジファルに渡す。さらにクリングゾールから奪い戻した聖槍をパルジファルがクンドリーに渡す。クンドリーはアンフォルタスに傷に聖槍を宛がって、救済は達成される。さすがにコンヴィチュニの演出は一風変わっているが、基本は極めて厳粛な舞台神聖祝典劇ではないかと感じた。
オーケストラもメータ率いる日本公演よりも格段に素晴らしくて、モノトーン的に揃った音色が一糸乱れぬアンサンブルを展開した。この透明感と適度の重厚さはとても自然で誇張は一切感じられない。それにシュナイダーのテンポ運びが大きな流れを作っているという感じで、終始、集中力が途切れることなく神聖劇にのめり込んでしまう。明日4/1にアバドBPOのパルジファルを見ることになるが、今日これほどの質の高いパルジファルを見てしまったからには、明日も心して望まなくてはという気持ちにさせられてしまった。カーテンコールの拍手喝采はモルを頂点として、シュナイダーにも大きな拍手が寄せられた。コンヴィチュニーも一緒に出てきたが、さすがに盛大なブーイングを浴びていたのが面白い。 |