Richard Wagner, Parsifal
Sontag 31 Marz, 17.00 Uhr


Musikalische Leitung Peter Schneider
Inszenierung Peter Konwitschny
Buhne und Kostume Johannes Leiacker
Licht Peter Halbsgut
Produktionsdramaturgie Werner Hintze
Chore Udo Mehrpohl
Amfortas Alan Held
Titurel Karl Helm
Gurnemanz Kurt Moll
Parsifal John Keyes
Klingsor Tom Fox
Kundry Catherine Malfitano
Erster Gralsritter Francesco Petrozzi
Zweiter Gralsritter Rudiger Trebes
Erster Knappe Solist des Tolzer Knabenchors
Zweiter Knappe Solist des Tolzer Knabenchors
Dritter Knappe Ulrich Res
Vierter Knappe Kevin Conners
Klingsors Zaubermadchen Jennifer Trost
Margarita De Arellano
Anne Pellekoorne
Julia Rempe
Annegeer Stumphius




マーラー・ユーゲントのブルックナーは12時半ぴったりに終了し、すぐに徒歩で中央駅へ向かう。途中からはタクシーに乗って12時45分に駅に到着した。ミュンヘンへは14時半頃の列車でも十分に間に合うが、13時05分と早めの列車に乗ることが出来た。閑散とした車内はとても静かで、新緑が鮮やかな車窓をのんびりと眺めているだけでもリラックスできる。ミュンヘンに14時35分に到着し、昨年11月にも宿泊したVier Jahreszeitenに15時にチェックインした。ここは劇場から徒歩数分の近さなのが嬉しい。時間があるので街を少し歩く。さすがにイースター休みのためか通りは賑わいを見せている。そういえば未だ昼食を取っていなかったので、ビストロで遅めの食事をして、16時すぎにアーベントカッセで予約チケットを受け取った。この時、地元の美しき女性の方から、チケットが余ってますがと声を掛けられた。もしズーヘ・カルテで来ていれば、救いの手になったに違いない。

座席は平土間4列目の中央部とステージが近い。舞台には真っ白な幕が下りていて、矩形の白い紙がモザイク状に幕一面に貼り付けられている。そこには各国の言葉で「救済者」と書かれていた。具体的にはパルジファルのテキストから" ERLOSUNG DEM ERLOESER"、漢字では「救世主、解脱」、他にも"EDEMPTION"などが落書きのように散りばめられている。隣りのスイス人女性の方が、日本語では何と書いてあるのかと尋ねて来られた。ちょうど「解脱」の言葉に目が止まっていたので、ブーディズムでの救済という意味が書かれていると答えると、とても興味深く頷かれていた。ついでに中央に書かれている”OωτTIOOC τωγ Oωτ・・・”はギリシャ語で同様の意味を示すと教えてくれた。こういったこともあってか、開演前からの期待感は異常に高まってきた。



前奏の開始とともに、ステージの幕は白の照明に照らし出され、聖杯動機のピークに達したところで、最も明るくなり、上部中央が微かな赤色を帯びだす。前奏の終了とともに次第に暗くなってから、幕が開いた。ステージには白い大木が奥に向かって倒れており、枝が放射状に伸びている。右手にグルネマンツが佇み、小姓たちを起こす場面。グルネマンツは灰色のコートに身を包み、小姓たちはホテルボーイのような帽子を被っている。それにしても昨年12月のアバドBPOでのパルジファルに出演したクルト・モルは素晴らしい。シュナイダーの巧みな演奏に調和する素晴らしいグルネマンツ。早くも敬虔な朝の場面に引き込まれてしまった。

マルフィターノ演じるクンドリーの登場は奇抜な演出であった。ステージ背面が横方向に割れて、中央部に開いた間隙から溢れて出る煙とともに、巨大な大木は雪に覆われる。クンドリーは木馬の橇(そり)に跨って大木の雪面を滑り降りてくるという設定だ。シルクハットにコートを着ていて、カラフルなパターンパンツという出で立ち。この登場の場面はコミカルではあったが、敬虔な物語に違和感をもたらすものではない。アンフォルタスの登場もワーグナーのト書きとおりで、コンヴィチュニのローエングリンなどからすると、かなりオーソドックスな演出と感じた。それでもアンフォルタスはクンドリーのセクシーさの虜となっているかのように、二人は愛人関係にあるのではと見えた。さらに苦痛の叫び声の大げささからか、どこか異常な雰囲気を漂わせていた。

ステージ右側の上部空間に赤い風船のようなものが浮かんでいて、風になびいている。この瞬間これは何を意味しているのか謎であったが、どうもアンフォルタスの血が宙に舞っているのではと思った。またパルジファルの登場も意表をつく演出だった。ホルンの驚愕の響きとともに、ターザンのように、木のつるにぶら下がってステージ右上部から左へ飛び去っていく。この一瞬、不意をつかれたかのように唖然とした驚きの声が客席から聴かれた。さらにパルジファルが宙を飛んでいった瞬間に、空中に舞っている赤い凧も一緒に持ち去ってしまった。ジョン・カイズ演じるパルジファルはかなり大柄で、インデアンのようなターバンをしていて、荒くれ小僧といった感じ。このようにパルジファルにクンドリーと一筋縄では行かないキャラクター設定ではあるが、クルト・モルの威厳さが求心力になって全体をまとめていた。

聖杯儀式への場面転換では、舞台に倒れていた大木がゆっくりと起き上がってきて、ステージ中央にその威容を現す。さらにせり出し舞台が上昇してきて、地下と地上の2層構造を形成する。大木は地下から地上に達し天空に伸びている。地下が聖堂であり、アンフォルタスはじめ騎士達が聖杯儀式に集まっている。まるでそれは地下に隠れ潜む組織のようでもある。アンフォルタスが聖杯を掲げる演出は、まず彼自身が大木に併行して懸かっている梯子を上っていく場面から始まる。地上を出て大木の中腹に達したところで、木に扉があって、それが開く。中から聖母マリアかと思しき聖女が天使達を従えて出てきた。その聖女が聖杯を抱えていたのであった。そういう意味においてアンフォルタスの嘆き苦しむ場面は真に迫るというよりも、ユートピアを願うメルヘンさに転化されてしまったように感じた。しかしこの時のシュナイダーの音楽は実に素晴らしい。とてもユニークな第1幕ではあったが、しっかりとパルジファルの手応えを感じさせてくれた。



第2幕もユニークな展開であった。基本構造は第1幕の大木が倒れている設定で、放射状に伸びる枝にはポプラのような黄色い大きな葉っぱが沢山ついている。沙幕にカラフルな色彩が鮮やかに照らし出され、官能の花園が現れる。セクシーでキュートな歌手やダンサー達が舞い踊り、客席から溜息が沸き起こる。幾つかのパルジファルを見てきた中でも、これほど見事な舞台を見たことがないほど素晴らしい。クリングゾールは裸に簡単な衣装をまとっているだけで、黒のガウンを羽織っている。そういえばアンフォルタスは白のガウンであったが、それ以外はとても良く似ている。例えば二人ともセクシーさを漂わせているし、表面的に見ただけでもアンフォルタスとクリングゾールは裏表の関係、対の関係であることを強調しているようだ。

第2幕でのクンドリーは、例えばマイヤーなどが演じると、その存在感の強さに圧倒されてしまうが、マルフィターノは地味ながらも、そのセクシーさと独特のキャラクタでもってパルジファルに迫る。そしてパルジファルがクリングゾールから槍を奪い返す場面では、自ら槍に向かって、彼のわき腹に槍を受けてしまった。おそらくパルジファル自身が傷の痛みを体験し、奪い戻した聖槍で自らの傷を癒したのち、アンフォルタスへの救済へ向かうものと予想した。

第3幕はステージ前面が白のコンクリート壁のような設定で、大木のシルエットが黒く開口面を広げている。壁は矩形のブロックが積まれたかのように格子模様が入っている。「時間が空間に変わる」というテキストから、この格子パターンは空間に示された重力波の等高線ではないかと勝手に想像したが、ドラマの展開とともに壁はステージ奥に下がり、さきほどの大木状のシルエットは燃えて朽ち果てた木炭のような大木となって現れた。

それにしても第3幕のクルト・モルは最高だった。見るからに老齢ながらも、これほど見事なグルネマンツはそうざらには聴けない。昨年12月のアバドBOPでの出来栄えを大きく上回っていた。カイズのパルジファルも堂々としていて輝かしい。聖金曜日の奇跡では客席のシャンデリアが客席内を白く照らし出されたが、シュナイダーの素晴らしい指揮のためか、身動きもできない。

聖杯場面での演出では、クンドリーが第1幕で出てきた赤い凧のようなスカーフのようなアンフォルタスの血をパルジファルに渡す。さらにクリングゾールから奪い戻した聖槍をパルジファルがクンドリーに渡す。クンドリーはアンフォルタスに傷に聖槍を宛がって、救済は達成される。さすがにコンヴィチュニの演出は一風変わっているが、基本は極めて厳粛な舞台神聖祝典劇ではないかと感じた。

オーケストラもメータ率いる日本公演よりも格段に素晴らしくて、モノトーン的に揃った音色が一糸乱れぬアンサンブルを展開した。この透明感と適度の重厚さはとても自然で誇張は一切感じられない。それにシュナイダーのテンポ運びが大きな流れを作っているという感じで、終始、集中力が途切れることなく神聖劇にのめり込んでしまう。明日4/1にアバドBPOのパルジファルを見ることになるが、今日これほどの質の高いパルジファルを見てしまったからには、明日も心して望まなくてはという気持ちにさせられてしまった。カーテンコールの拍手喝采はモルを頂点として、シュナイダーにも大きな拍手が寄せられた。コンヴィチュニーも一緒に出てきたが、さすがに盛大なブーイングを浴びていたのが面白い。


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