Hector Berlioz, Les Troyens




Freitag, 30. November 2001, Uhrzeit 17.00 - ca. 23.00 Uhr
Musikalische Leitung Zubin Mehta
Inszenierung Graham Vick
Buhne und Kostume Tobias Hoheisel
Kostume Ingeborg Bernerth
Choreographie Ron Howell
Licht Matthew Richardson
Chore Udo Mehrpohl
Un Soldat / 2ieme Sentinelle Taras Konoshchenko
Cassandre / L'ombre de Cassandre Deborah Polaski
Chorebe / L'ombre de Chorebe Gino Quilico
Enee Jon Villars
Ascagne Stella Doufexis
Hecube Marisa Altmann-Althausen
Helenus Francesco Petrozzi
Panthee Tigran Martirossian
Priam / Mercure / L'ombre de Priam Carlo Cigni
L'ombre d'Hector Andreas Kohn
Un chef grec / 1ier Sentinelle Gerhard Auer
Didon Waltraud Meier
Anna Helene Perraguin
Iopas Carlo Allemano
Narbal Jan-Hendrik Rootering
Hylas Kevin Conners




昨日のチューリヒは雨でしたが今日のミュンヘンも雨でした。宿は劇場から徒歩数分のケンピンスキーです。インターネット予約ではスタンダードよりもデラックスのほうが安かったので、そちらにしましたが、広大で超豪華な部屋でした。ただし電話プラグはドイツ式しか装備されていなかった為、マリエンプラッツのKAUFHOFで変換コードを買ってきて繋ぐことが出来ました。

開演前に劇場の売店に寄ってみると、今日のトロイの写真などが売られていて期待が益々高まってきました。来年のオペルン・フェストシュピーレのプログラムも置いてありましたが、魅力的な公演が目白押しなのはさすがミュンヘンですね。マイヤー、シュナウト、リポヴシェクが出るワルキューレ、ターフェルのファルスタッフと道楽者、カサロヴァのティト等など。


さて昨年のザルツブルク音楽祭のトロイはポラスキがカサンドラとディドンを通しで歌いきるという凄さに圧倒されましたが、今年のミュンヘンではポラスキとマイヤーが歌い分けると言う豪華さ。その為か、グルベローヴァ清教徒のチケットは簡単にゲットできたものの、トロイの入手は困難を極めました。運良くゲットできたシートは平土間11列目で音響も抜群でした。

夕方5時から始まって夜23時近くまで掛かったトロイは時間を忘れるほど素晴らしい公演で大感激でした。第1幕では凱旋門が倒れて、半分が地中に埋まったセット。中央の門のところが地上に口を開いているといった感じで、凱旋門の廃墟がトロイの城壁をイメージしていました。ギリシャ軍が去って、歓びの群集が凱旋門の外で歌うという場面からオペラは始まる訳で、これに混じって登場するポラスキのカサンドラがひときわ威容を放っていました。そのドラマチック・ソプラノはさすがのもので、男まさりというよりも女性的でした。エネーはヴィラーズ病気のためキャンセルとなったのが残念ですが、冒頭のアナウンスが聞き取れず誰が代役なのか不明。それでもかなり伸びのあるテノールで、ポラスキと渡り合う場面は迫力満点でした。

第1幕のクライマックス、木馬を城壁内に引き入れる場面の行進は、実際に演出するのではなく、群集達が凱旋門の上からオペラハウスの客席方向に向かって木馬を見守るといった手法が用いられました。この時は夕日のようにステージが照らされ、木馬が通過するときに日食のように一旦は繰らなくなり、再び夕日の赤い光に戻るといった演出で、以外と迫力がありました。そして何と言っても、アンサンブルの盛り上がりと合唱の高揚が素晴らしく、トロイの魅力を早くも堪能できました。

第2幕では倒れた凱旋門を縦に切り開いたセットでした。そこには格子状の棺が詰まっていて、中央にはヘクトールらしきミイラが。白い布で包まれた体からら血が滲み出す演出はとても不気味でした。トロイの女達が祈る場面では、凱旋門の開かれた中腹にプリアモス王の財宝らしき黄金が掲げられており、途中から入り乱れてきたギリシャ軍はシチリア・マフィアのような設定でもありました。それにしても第2幕でのポラスキは一段とスケールアップした感じで、すごい迫力でした。ここで第1部のトロイの陥落が終了となり、40分の休憩が入りました。それにしても第1、2幕だけで100分近くあって、ヴォツェックかサロメを見終わったような充実感でした。

第3幕は左右の壁でV字の構造となったカルタゴの宮殿。群集は黄色いユニフォームを着ていて、マイヤー演じる女王ディドンも同じユニフォームを。いわゆる宮殿というイメージではなく、高度に民主化された王国カルタゴを描写しているようでした。第17番の合唱の壮麗さとオーケストラが一大スペクタクルを聞かせる当たりは大いに高揚しました。続く大工、水夫、農夫達の行進では、黄色いユニフォームの群衆がパントマイムでそれぞれを演じ分けるという手法でスピーディに舞台が進行しました。そしてトロイ人たちの登場からカルタゴと連合を組むまでの下りは実にドラマチックな演奏とともにクライマックスを。合唱のパワフルさが大いに威力を発揮した幕でもありました。


第4幕、王の狩と嵐の場面では緑一色の草原に白い大きな花が咲いていて、遠くに地中海を望む楽園がセットでした。森のニンフ達のバレエがとても美しく、動物的な動きの振り付けが自然の営みを象徴的に描写し、オーケストラの美しさに忘我するといった感じでした。ホルンの奥深い響きと弦が醸し出す躍動感はまさに生命力溢れる音絵巻というところでしょうか。ここで一旦幕が降りて、再び幕が上がると第30番のアンナとナルバルが語る場面。ここでロータリングが歌うナルバルはとても味わい深くドラマチックでした。

続いて女王の入場から有名なバレエの場面。バレエは3つのパートから成り立っていて、カットなしに演じられました。美しいワルツの調べがことのほか素晴らしくて、美しいダンサー達の官能的な踊りとともに至福を楽しむことが出来ました。

そして最大のクライマックスはディドンのエネーの愛の二重唱。マイヤーの美しいディドンは情熱的で、エネーの甘く輝かしい歌とともに、聴くものを恍惚の世界に誘うのでした。幻想的な楽園の背景には夜のとばりが降りてきて、黒の闇が次第に下へと広がってきました。中央に輝く月も金色に光り始め、その情景は言葉を失うほどの別世界。明るい楽園の水平線と夜のとばりがパノラマ画各を描き、ディドンとエネーが浮き彫りとなる情景は素晴らしいの一言でした。そしてメリクリウス神がイタリアへと叫ぶ場面では月が赤色に染まり、続いてやってくる悲劇を予感させました。


第5幕は第3幕のV字の左側の壁を左右反転させたような構造でした。その反対側は船の帆に見立てたように見えました。ヒュラスの悲しげな歌が心に沁みる場面から始り、トロイの出発に、ディドンの死の決意まで実にドラマチックな展開が最終幕に用意されている訳で、オーケストラも合唱もソリスト達も圧倒的な展開を聞かせてくれました。やはりマイヤーの壮絶なドラマチック・ソプラノが凄い迫力で、壮大なオペラを締めくくるに相応しいフィナーレでした。

メータの指揮も随分と冴えていました。昨年のザルツでのカンブランに比べると、もっと大きく盛り上げても良いのではと思う箇所もありましたが、歌、合唱とのバランス感覚は素晴らしく、総じて精度の高いアンサンブルとともに高揚させられる演奏でした。パワフルで壮麗な合唱は今年秋の日本公演に比べてさらに圧倒的でした。やはりバイエルンのオペラは本拠地の劇場で聴くに限ることを実感した次第です。それにしても第1部トロイの陥落をポラスキで、第2部カルタゴのトロイをマイヤーで聴いたことになり、重量級オペラを2本見たのに匹敵する充実度でした。全体の集中力も素晴らしく、意外にもあっという間にオペラ全体が終わってしまった感じです。もっと長くオペラが続いて欲しいと思うのでありました。