RING DES NIBELUNGEN, ZWEITER TAG
Siegfried
Richard Wagner
29.November 2001, 18.Uhr
Opernhaus Zurich


Musikalische Leitung Franz Welser-Most
Inszenierung und Buhnenbild Robert Wilson
Kostume Frida Parmeggiani
Lichtgestaltung Robert Wilson, Andreas Fuchs
Siegfried Stephen O'Mara*
Mime Volker Vogel*
Der Wanderer Jukka Rasilainen
Alberich Rolf Haunstein*
Fafner Matti Salminen
Bruennhilde Stephanie Friede*
Erda Stefania Kaluza*
Stimme eines Waldvogels Martina Jankova*
* Rollendebut
Orchester der Oper Zurich

この週末は二日の休暇を取って、チューリヒのジークフリートとミュンヘンのトロイにアバドのパルジファル演奏会形式を聴きに行くことにしました。アバドのパルジファルは今年5月の旅行中、ウィーンからインターネットで申し込んだもので、6月始めには取れたと回答が来ていました。実は、ミュンヘンのグルベローヴァ清教徒のランク1かぶりつきのチケットも手元にあるのですが、短期間では両方を見る訳に行かないため、清教徒は捨てることしました。

さて出発前夜はアルバン・ベルクのコンサートがあり、このところの多忙により帰宅後も朝3まで仕事を。にも関わらず、起床は5時頃なので、かなりの寝不足で出発することになりました。出発前のラウンジでも昨晩仕上げた文書をメールしたり、チューリヒにFAXしたりしていると瞬く間に搭乗時間となりました。

LH711便では、オペラ・ハウスというオーディオを聞いたり、PCに取り込んだパルジファルやジークフリートを聴いたりしている内に熟睡しました。フランクフルト到着はやや遅れて14:40頃。ここからは予定通りチューリヒに飛び、タクシーに乗ったのが夕方5時でした。しかしトンネルあたりから渋滞していた為、ホテル・オペラに着いたのが17:30頃。ここから劇場までは徒歩2分くらいなので余裕で18時の開演に間に合いました。



R.ウィルソンとメストが描くジークフリートはとてもピュアなワーグナーでした。背景は無地のスクリーンになっていて、淡い照明が水平線上に濃淡を作るというシンプルさ。このカンバスに登場人物を浮かび上がらせて、ドラマに集中させるのがウィルソン流の極意。ライト・モチーフに応じて、背景の照明が多彩に変化し、幻想の美に誘ってくれるのも彼の演出の魅力でしょうか。

さてそのステージは、第1幕では右側に四角い枠でミーメの家を象徴しただけで、あとは大きなカナトコが下から上がったり下がったりと。ここで大きな金槌を構えた姿勢のジークフリートが立ちはだかったときの迫力。音楽とともに見事な符合を見せるあたりに秘訣があるようです。同様に第2幕は森をイメージしたシルエットの木々がゆらゆらと林立していているだけで、第3幕は荒野が広がり、ブリュンヒルデの場面では炎が象徴的に燃えていました。


しかしこの抑圧的とも思えるほどに無駄を省いた演出は、逆説的な意味で、ドラマを雄弁に語りかけていると感じました。ステファン・オマラ演じるジークフリートは随分と大人のイメージで、元気一杯の少年のイメージとは全く逆でした。この逆説的描写が実はジークフリートの心理状態をピュアにシンボライズしていて、ミーメに対する嫌悪感や、ブリュンヒルデに対する目覚めをビジュアル化しているように思えるのです。

ミーメも動きの少ないシンボルとして登場しますが、彼の場合は手の動きのパントマイムが巧みでした。これはワーグナー・ドラマに特有な回想描写を手話のように語るあたりが面白いところでした。

ステージが静かな分、音楽やドラマへの求心力は凄いものがあって、特にメストの描く壮大な音楽は圧巻。コンパクトで響きのよい空間にフルオーケストラが咆哮する訳ですから、普通でもその迫力は素晴らしいものです。が、メストの描くワーグナーはさらに追い討ちを掛けるかのような鮮烈なものでした。と同時に、透明感の純度も高く、各パートのモチーフがモザイクのように絡まりあいながら、過不足なく浮かび上がってくる感じ。これが清楚なウィルソンのステージに上手くマッチングしていて、歌手達の描くドラマと三位一体になっている素晴らしさです。

第3幕3場、ジークフリートとブリュンヒルデの出会いの時に、上昇音形で鳴り響くハープはピット両サイドのロジェに配置されていて、壮麗な効果を上げていました。そしてステファニ・フリーデのブリュンヒルデの登場。まさに凍りつくほどに衝撃を受けました。彼女の歌声の素晴らしさに金縛りとなってしまった訳です。素晴らしく伸びるドラマチック・ソプラノでリリックな面もあって、容姿の素晴らしさはまさにブリュンヒルデそのものを感じさせてくれました。ジークフリートやや押され気味となりましたが、フィナーレでの二重唱で二人が歓喜を歌い上げる時の高揚は最高でした。このときのウィルソンの振付は冷静で、決して抱き合ったりはさせません。二人の手と腕が絡み合っているように見えても、極限の距離でお互い体を触れ合っていませんでした。これはザルツでのペレアスとメリザンドでも見られて振付で、ジークフリートとブリュンヒルデが引力のように惹かれつつも、その後のドラマを暗示するかのように遠心力が見えるのです。

ラシライネンのさすらい人も朗々とした歌で、サルミネンのファフナーも迫力満点でした。そしてフォーゲルのミーメ、ウィルソンの難しい演出にもかからず、抑制された振り付けで見事ミーメの本質を描ききる演技力と歌に感心しました。

インターネットで予約した今日の座席はランク1の平土間14列目。音響バランスも素晴らしく、オペラグラスなしに表情が良く見えるベストシートでした。こんな贅沢な空間でウィルソンのリング・チクルスを通しで見られるなら、最高に素晴らしいワーグナー体験となるでしょう。