Musikalische Leitung Stefan Blunier
Inszenierung nach Hans Schueler
Buehne Paul Walter
Kostueme Gerda Schulte
Chor Wolfgang Balzer

Amfortas, Gralskoenig

Peteris Eglitis
Titurel, ehemaliger Gralskoenig Pawel Czekala
Parsifal, zukuenftiger Gralskoenig Stefan Vinke
Gurnemanz, Gralsritter James Moellenhoff /Franz Mazura
1.Gralsritter Martin Geissler
2.Gralsritter Winfried Sakai
Knappen Claudia Luecking, Daniela Denschlag
Uwe Eikoetter, Oskar Puergastller
Klingsor Thomas Jesatko
Kundry Lioba Braun
Blumenmaedchen Elsbeth Reuter, Majken Bjemo,
Marina Ivanova, Claudia Luecking,
Nicola Beller Carbone, Daniela Denschlag
Altstimme aus der Hoehe Daniela Denschlag
Chor, Statisterie und Bewegungschor des Nationaltheaters Mannheim
Nationaltheater-Orchester Mannheim


昨日のトリスタンはビシュコフの素晴らしい指揮とマイヤーの圧倒的なイゾルデと大
いにウィーンを唸らせた上演であった。そして今日、5月6日はウィーンに留まりビ
リーバッドを見る予定にしていた。しかしオペルン・ヴェルト誌3月号のワーグナー
特集『マンハイムからバイロイトへの道』を読むに付け、マンハイムに行ってみたい
衝動に駈られた。で、ちょうどうまい具合に5/6はパルジファルが上演される。滅
多に上演されないビリー・バッドをパスするのは忍びないが、正直いってパルジファ
ルの方に惹かれてしまう。ナチオナル・テアターのサイトを見るとオンラインでチケ
ットも予約できるようなので、早速ボタンを押してしまった。以上がマンハイムに詣
でのきっかけとなった。

ウィーンからマンハイムへはフランクフルトまで飛んで後は電車か車かバスとなる。
実際フランクフルトからマンハイムまでは1時間も掛からないのでウィーンを昼前く
らいに飛ぶフライトが便利だ。ちょうどこの日は夜明け前に雨が降ったようで、フラ
ンクフルトも雨が降り出しそうな曇り空となっている。それに昨日まで夏のような陽
気が一転して初冬に戻ったかのように肌寒い。


それにしてもマンハイムは静かな街だ。緑がとても鮮やかで、広々とした街路に立派
な建物が林立している。ちょうどこのあたりは大学の街という感じでアカデミックな
雰囲気にも包まれている。ホテルはホリデイ・イン・マンハイム・シティ・センター
というところ。建物自体は古いようだが2000年に改装されていてとても綺麗だ。
なおここでもルフトハンザのマイルを500チャージできた。

さて初めて訪れた街で始めての劇場に足を運ぶのはとても嬉々とした気分になる。あ
せる気持ちを押さえ、ワーグナーの大作パルジファルに備えて部屋で一休みしてから
出かけるとする。劇場へは環状道路にそって10分ほどだ。途中、チューリップが咲
いた街角を通り、路面電車の線路を横断しながら行く。劇場は白に彩られた近代的な
たてもので、入り口に向かって全面ガラス張りの劇場カフェが連結している。ここは
劇場の売店にもなっていて、いろんなオペラ書籍や雑誌がおかれている。珍しいCD
もあり音楽監督アダム・フィッシャーのCDもあった。昨日のウィーンではまだ入荷
されていなかったオペルン・ヴェルト5月号はここでゲットできた。で、インターネ
ットで予約したチケットをボックス・オフィスで受け取る。なんと平土間1列目の真
正面、ちょうど指揮者の後ろの席だった。いろいろ置いてあるパンフレットを見ると、
さすがに斬新な演出のオペラやバレエを積極的に上演しているようだ。今シーズンの
ワーグナーはリングとパルジファルが再演される。

前記オペルン・ヴェルト3月号に特集されたトーマス・ロートケーゲル氏の記事によ
れば、このマンハイムはバイロイトへ沢山の人材を送り込んできた由緒ある劇場のよ
うだ。そもそも世界で最初にワーグナー協会が設立されたのはマンハイムであり、バ
イロイトでニーベルングの指輪上演を実現するための資金調達がその目的だったとか。
ワーグナー信奉者のエミル・ヘッケルの呼びかけでマンハイムがその拠点になった訳
だが、ワーグナー自身もナチオナル・テアターで自作を指揮するなどマンハイムとの
結びつきを強めていったという。バイロイト音楽祭の実現後もワーグナーの楽劇が特
別にマンハイムで上演されるようになったのはこのような歴史が物語るところらしい。

資金面だけでなく人材面でもマンハイムはバイロイトをサポートしてきたそうで、指
揮者ではカール・エルメンドルフ、ウィルヘルム・フルトヴェングラー、ホルスト・
シュタイン、ハンス・ヴァラート、ペーター・シュナイダー、ドナルド・ランニクル
ズが名を連ねている。なおジュン・メルクルもバイロイトではレヴァインのアシスタ
ントを務めたそうだ。現音楽監督のアダム・フィッシャーが急遽バイロイトのリング
を任されたのも、マンハイムがバイロイトの接点となっていることを伺えるようだ。

歌手ではゲオルグ・ウンガーのバイロイト最初のジークフリート、ヘルデン・テナー
のエルンスト・クラウス、パウラ・ビュヒナーのイゾルデ、マルガレテ・クローゼ、
マルタ・メードル、フレッド・ダルベルクらの活躍が有名だ。戦後はジーン・コック
ス、フランツ・マツーラ、ハンネローレ・ボーデ、ガブリエレ・シュナウト、デボラ
・ポラスキ、ワルトラウテ・マイヤー、リオバ・ブラウンらがマンハイムからバイロ
イトへの道を辿っている。歌手以外に合唱やオーケストラのメンバーもバイロイトを
支えてきた人が多いそうで、今もマンハイムには熱いワーグナー伝統が息づいている。


ということで今日のパルジファルへの期待も当然高まってくる。劇場に入ると1階と
2階にカフェがある。2階のカフェは壁全体がガラス張りのとても明るく開放的な空
間。テーブルも沢山置かれていて広々としている。劇場内部は完全な段々畑のレイア
ウトになっていて客席数は比較的少ない。その分音響は充実していてそうだ。クロー
クも広々としているが、1階のロビー左右の通路に縦長の鍵付き無料ロッカーが壁の
ように並んでいるのも面白い。オーケストラピットはとても深く大きいため、余裕の
レイアウトとなっていた。開演前のオケメンバーによる音ならしではパルジファルの
モチーフの断片が聞こえてきてぞくぞくとする。特に重低音に響くゴングは気持ちを
聖堂へと誘うようだ。

指揮者ブルニエルはかなりの若手でどこかメッツマッハ−に似ている。若いといって
も実に堂々としたワーグナーを聞かせてくれる。オーケストラのサウンドも重心がし
っかりとした飾り気の無い重厚さ。如何にもドイツの響きが息づいているようだ。深
遠な前奏曲にすっかりと神聖な世界に引きずり込まれた。幕が開くと、舞台の中央が
丸く隆起した丘になっていて、何層もの薄い幕に映し出されたスライド映像が夜明け
の朝の情景を描写する。この時の木管も格別だった。


グルネマンツはモエレンホーフという若手。しかしながら年齢からは想像できないく
らいに深々とした歌声に敬虔な祈りの世界を感じる。クンドリーはバイロイトでブラ
ンゲーネを歌い、来年のフェストターゲ2002のトリスタンでもブランゲーネを歌
うリオバ・ブラウンだ。彼女の特集もオペルン・ヴェルト3月号で組まれているが、
さすがに素晴らしいクンドリーを演じる。若手フィンケが扮するパルジファルも活き
の良さがあるし、なかなかのヘルデン・テナーだ。幕を追うごとに白熱してくる様に、
こんな素晴らしい歌手がいたのかと驚く。昨日のヴィンベリよりもずっと輝きと迫力
を感じた。


第1幕の場面転換もスライド映像をうまく利用して、実際に歩きながら場面が変貌し
ていく演出は鮮やかだった。荘厳に響くブラスと強烈なティンパニ。ゴングとともに
大いに気持ちを掻き立ててくれる。恐ろしいほどに雄弁なオーケストラだ。合唱もす
こぶる素晴らしい。エグリティスのアンフォルタスも朗々と嘆きを歌う。かくして第
1幕を荘重に終えた。さすがにパルジファルともなれば拍手しないのか、ここの劇場
ではほとんど拍手が無かった。

30分の休憩の後、第2幕のクリングゾルの城。第1幕と同様に中央の小高い山の頂
点にイザーコが演じるクリングゾルが槍を持って登場する。槍はクリスタル製で青白
く光る仕組みになっている。無気味な音楽とともに妖怪さながらの迫力だ。クンドリ
も魔女のような色気を放つ。パルジファルが登場する場面では幻想的で美しい花園が
映し出された。舞台前面のスリット幕に大きなアゲハチョウと花が。花からは大きな
花弁が伸びていて官能の世界を描写するようだ。舞台奥のスクリーンにも花園をあし
らった描写が行われている。この時、オーケストラピットに女性合唱が入ってきた。
なんと乙女たちの合唱はピットから歌われるのである。舞台上には乙女たちのソリス
ト立ちも歌うが、セクシーな出で立ちのバレリーナが乙女として舞う。余りに美しい
情景に我を忘れてしまいそうだ。そしてクンドリの誘惑から第2幕のクライマックス
まで完全に金縛り状態になった。素晴らしい第2幕にマンハイムまでやってきた甲斐
を大いに感じ取った。


2回目の休憩のときにリフレッシュするため外に出てみた。外はまだ明るく、曇って
はいるものの、新緑の街路樹が美しい。マンハイムの人々は本当にワーグナーが好き
だという感じで、とても熱心にご覧になれている。飾り気がない素朴さ、マナーの良
さがとても気持ちいい。本当に良い街だと実感できた。

第3幕の開始前に女性の方が舞台に出てきてアナウンスを始めた。グルネマンツ役の
モエレンホーフが不調のため第3幕からはフランツ・マツーラが歌うとのこと。ここ
で一瞬どよめきが起こったが、盛大は拍手と喝采が沸き起こった。バイロイトでもグ
ルネマンツやクリングゾルなんかを歌ってきたマンハイム生え抜きの歌手だから拍手
が出るのは当然のこと。とても楽しみだ。そして聖金曜日の夜明けの場面。神聖な前
奏に引き続き、第1幕と同様に小高い山が中央にあり、グルネマンツ、クンドリーと
佇んでいる。森の緑がスクリーンに映し出され、マツーラの敬虔な歌が心に沁みる。
声量は第1幕で歌ったモエレンホーフより小さいが、さすがにキャリアがものを言う
のか、突然の代役にも関わらず、歌を感じさせずに、身振りのひとつひとつに至るま
で、グルネマンツそのものだ。容姿もしかりで、彫りの深い厳しい顔、しわのひとつ
ひとつまでが老境のグルネマンツそのものに見える。歌としては一線を退いた感もな
くはないが、グルネマンツの心境、祈りが滲み出ている。素晴らしい歌手だと驚いて
しまった。


フィンケのパルジファルも実に立派。第1幕からの成長ぶりが上手く表現できている
し、自身に充ちたヘルデンさに圧倒されてしまった。久しぶりに聞くパルジファルの
素晴らしさ。やはり昨日のヴィンベリを遥かに超している。またたくまに聖杯の場面
に進行し、神聖な儀式が眼前に繰り広げられるリアルさにどっぷりと吸い込まれてし
まった。まだこの素晴らしい音楽に浸りきりたい名残惜しさを残しながら、クライマ
ックスを迎えた。長い楽劇が時間を忘れさせてくれるほどの幸せはない。23時前に
は終了し帰途についた。マンハイムは独特の雰囲気があってオーケストラもメジャー
な劇場ほど洗練はされていなくても不思議な魅力を感じてしまう。それに若手層を中
心にワーグナー歌手の層が厚いのも特徴と感じた。特にフィンケなどの良い歌手達に
世界へ羽ばたいてくれることを期待したい。そして機会があればここでもっとワーグ
ナーを聞きたいところだ・・・