4月中旬でも雪が降ったというウィーンはもはや夏の様相で日なたは30度を越える
暑さ。もっとも木陰に入れば風がとても爽やか。朝はホテルでゆっくりとし、昼食後
はケルントナー通りからグラーベン通りを経て、リンクを歩いて散歩をする。モーツ
ァルト像の花壇も綺麗に咲き誇り、街路の緑もとても鮮やかだった。
さて今日のオペラはグルベローヴァ、アルヴァレス、ヴァルガスと歌手が揃ったドニ
ゼッティの「ロベルト・デヴリュ」。エリザベス女王にまつわる物語でグルベローヴ
ァが女王エリザベッタとして歌う。演出家プルカレーテによる舞台セットがまた奇抜
で全面、ロジェの小部屋で仕切られている。縦に5段、横に7段ほどに区画されてい
て、一番下の層は黒いカーテンが吊るされ、カーテンの移動とともに人物を登場させ
るなどの流れのある演出を見せる。意外とこのオペラの音楽は流麗さと躍動感に充ち
ているので、カーテンの流れる動きとあっていた。
第1幕第2幕とこの舞台の基本形が維持されるが、何と行っても舞台よりも歌手達と
オーケストラが素晴らしかった。筆頭はグルベローヴァで、第1幕のアリアでは会場
は騒然とした拍手が飛んだ。とにかく彼女の素晴らしさといったら、つい先頃のフィ
レンツェ日本公演での椿姫や、ウィーン日本公演のシャモニのリンダの比ではない。
今日の彼女は遥かに奇跡的というほかない。おおよそ5分以上、拍手と叫び声の嵐に
オペラは止まった。とにかく凄い。
こうなると他の歌手たちも燃え上がらざるを得ない。シュコーサ演じるサーラも素晴
らしかったし、男性陣ではタイトルロールのヴァルガスに、アルヴァレス演じるノッ
ティンガム公爵ともに俄然素晴らしい歌を聞かせる。特に第2幕における主役3人に
よる三重唱は信じがたいほどに燃え上がった。こんなに凄い歌の饗宴は稀有というほ
かなく、この場に居合わせたことへ感謝するのみ。ヴィオッティ率いるアンサンブル
も歌手陣の出来と相乗効果を発揮するように盛り上げていく。
ナイチンゲール・レーベルから出ているグルベローヴァのCDも素晴らしいが、やは
りこのオペラをライブで聞くと、微妙なニュアンスと空間のパースペクティブさも加
わり、彼女の素晴らしさを200%に聴くことができた。フィナーレでは巨大なエリ
ザベッタ像を背景に彼女の絶唱に暫し我を忘れてしまった。壮絶な熱狂で会場は再び
20分以上の嵐となった。さすがにウィーンのオペラは熱狂した時の興奮は覚めやら
ぬ。昨日のパリアッチは沈没したが、今日のロベルト・デヴリュ1本だけでもウィー
ンに来た甲斐は報われて有り余る。 |