Grand Theatre de Geneve
Siegfried
Richard Wagner
Drama en trois actes
Deuxieme journee du Ring des Niebelungen
Nouvelle production, mercredi 2 mai 2001, 19h

Distribution
Direction musicale Armin Jordan
Mise en scene Patrice Caurier, Moshe Leiser
Decors Christian Fenouillat
Costumes Agostino Cavalca
Lumieres Christophe Forey
Bruenhilde Susan Anthony
Erad Jadwiga Rappe
Waldvogel Brigitte Fournier
Siegfried Stig Andersen
Mime Thomas Harper
Der Wanderer Albert Dohmen
Arberich Franz-Josef Kapellmann
Fafner Alfred Reiter
Orchestre de la Suisse Romanded


このところの快晴にすっかり春となった様子だが、今日はやや曇っている。さてハン
ブルクからジュネーブは結構な距離があり、フランクフルト経由のルフトハンザで行
くことになる。ハンブルク発の飛行機が30分ほど遅れた為、乗り継ぎ便に間に合う
か心配したが、待ってくれていたので助かった。ジュネーブへのフライトはそれほど
頻繁には無いので、これを逃すと夜の公演に間に合わない。それにしても同じEU内
の移動にフランクフルト内の長いトンネルとパスポートコントロールは勘弁して欲し
い。

ジュネーブの空港から街まではとても近い。ほどなくレマン湖畔の宿ボー・リヴァー
ジュに到着した。正面に有名な噴水があって、天気が良ければモン・ブランが見える
はずだが今日は曇りで見えない。反対側のジュラ山系は残雪姿で連なりを見せている。

さてジュネーブの今年のリングは新演出のジークフリートが7回上演される。今日は
その5回目にあたり、全てシングルキャストでスティーク・アナセンのジークフリー
ト、スーザン・アンソニーのブリュンヒルデ、アルベルト・ドーメンのさすらい人と
なっている。ハープナーのミーメにカペルマンのアルベリヒも期待できそうだ。

ボックスオフィスにてメールにて予約したチケットを受け取る。平土間3列目のとて
も見やすい座席だった。劇場の作りは風格のある石作りの建物だが、劇場内部は近代
的ですっきりとしている。1階のCD売り場の横と地下にカフェ、2階の広間にもカ
フェがある。特に2階は豪華な装飾が施された鏡の間になっていて、外の景色の緑を
眺めるのもとても気持ちが良い。

夜19時が近づくとファンファーレが鳴り響きオペラの開始が間じかであることを告
げる。実に感じが良い始まりだ。そして席につく。ジークフリート新演出はたしてど
んな舞台なのか期待が高まったが、第1幕、ミーメの家はごく普通の一般的なセット
だった。右がわに大きな竈があって、左側はベッドやミーメの仕事場といった感じに
なっている。そこに大きな書斎があって本がぎっしりと詰まっている。おそらくミー
メは読書家なのだろうかと思わせるほどだ。アナセンのジークフリートもジーパンに
シャツという出で立ちだが、彼の振る舞いがジークフリートらしさを表現していた。
第1幕の見せ場はやはりノートゥングを鍛え上げる場面で、真っ赤に燃えるふいごと
ともに盛り上がりを見せる。それにしても書斎の上に飛び乗ったりと身軽に動き回る
ハープナーのミーメの演技に熟練の技を感じる。

第2幕は大きな垂直に延びた木の象徴的オブジェが立ち並ぶ。まず圧巻はカペルマン
のアルベリヒとドーメンのさすらい人のやりとり。特にドーメンの深い味のあるさす
らい人には痺れてしまいそうだ。風貌もジャック・ニコルソンに似ていて野性味に溢
れている。そしてオーケストラが掻きたてるドラマのテンポも快調に流れ、実にドラ
マチックな下りにのめり込んでしまった。

第2幕ではファフナーも登場するが、木のシルエットが割れて、左右に開いた箇所か
ら恐竜のような大蛇が出てきた。極めてト書きに忠実な舞台再現で、オーソドックス
すぎるのではと思ったが、全体にシンプルにまとめられていた。ジークフリートがフ
ァフナーを倒す場面では恐竜から吹き上げる炎がすこぶる強烈で、何度もその炎が燃
え盛った。それも半端な燃え方ではなく、舞台奥から客席真正面に向かって火炎放射
器のように豪快に燃え上がるのだから驚いた。その度に熱放射が客席を襲うといった
感じだった。小鳥の歌はスピーカーを通して流れたが、美しい舞台とともにあっとい
う間に第2幕が終了。

第3幕は一切の具象を取り払い、真四角な空間が広がるだけのシンプルさで開始され
た。ここでもドーメンのさすらい人がことのほか素晴らしさを発揮した。ドーメンは
アバドのパルジファルではアンフォルタスを歌う予定とかだが、ヴォータンなんかも
素晴らしく上手いと感じた。シンプルで広大なキュービック空間が赤く染まり始め、
濃霧の発生とともに、ブリュンヒルデが眠る巨大な傾斜地形へと変貌してゆく。燃え
盛る炎が回らないところには草の緑が生え、中央の小高いところにアンソニーのブリ
ュンヒルデ。これもまったくオーソドックスな演出でブリュンヒルデの目覚めの場面
へと進む。さすがスーザン・アンソニーのブリュンヒルデは絶叫ではなくリリカルさ
とドラマチックさを両立させるかのように、ジークフリートと輝かしい愛を誓い合っ
た。音楽もピークを迎えるが、この場面は文句なしに素晴らしかった。ジョルダンは
既に巨匠の風格だし、スイス・ロマンド管弦楽団もとても上手い。アンサンブルはと
ても緻密で特に木管楽器の美しさは格別だった。簡素で幻想的な舞台に相応しいかの
ようにオーケストラの演奏もとてもすっきりと贅肉を落として、しかも充実したワー
グナーサウンドを堪能できた。さすがに19時開演では終演はカーテンコールを含め
て24時を回ってしまった。