Hamburgische Staatsoper
Mittwoch, 1.May 2001, 18.Uhr
LOHENGRIN
Romantische Oper in drei Aufzuegen
Text und Musik von Richard Wagner


Musikalische Leitung Ingo Metzmacher
Inszenierung Peter Konwitschny
Buehnenbild und Kosueme Helmut Brade
Kostuem-mitarbeit Inga von Bredow
Licht Manfred Voss
Chor Juergen Schulz
Spielleitung Wolfgang Buecker
Koenig Heinrich Harald Stamm
Lohengirn Thomas Moser
Elsa Inga Nielsen
Telramund Hartmut Welker
Ortrud Ildiko Szoenyi
Heerrufer Wolfgang Rauch
Vier Edle Juergen Sacher, Frieder Stricker
Jan Buchwald, Joern Schuemann
Vier Edeldamen Heike Limmer, Gui-Xian Cheng
Eleonora Wen, Ingird Venter
Gottfried Dustin-Marc Polay
Vier Koenigstrompeter Berdhard Gediga, Pter Kallensee
Isao Hibasaki, Gernot Suellberg


昨年の5月はここでコンヴィチニ−演出メッツマッハー指揮のヴォツェックを見て、
その迫力に圧倒されてしまった。今回は小学校の教室に舞台を読み直したローエング
リンということで一度は見ておきたいということでハンブルクにやってきた。

ここの劇場はどの席からでも見やすくなっているが、今日の座席は昨日のサウルと同
様、平土間最前列の中央であった。舞台は白くて四角いスクリーンの幕になっていて、
まるで映画館の雰囲気が漂う。透明なローエングリンの前奏が始まり、ほどなくして
からスクリーンに四角い教室の輪郭と、生徒たちが机に向かっている情景がシルエッ
トのように浮かび上がってきた。厳粛な序曲とともに何か祈りでも捧げているような
雰囲気にさせてくれる。

幕があがると雰囲気は一変し小学生たちの騒がしさに転じた。学生たちは半ズボン姿
の制服。黒の制服の学生達は椅子に最初から座っていたが、緑の制服の学生達が後か
ら教室に流れ込んできた。ランドセルを壁に吊り下げて席につくが、黒の学生達と2
つのグループに分かれているようで、紙を丸めたボールを互いに投げあい、授業前か
ら乱闘状態が繰り広げられる。伝令の役はクラスを代表する生徒が勤めるが、小学生
たちは全く聞く耳をもたないかのよう騒ぐ。で、国王ハインリッヒの登場となるが、
紙の王冠を頭に頂く教師に読み替えられている。棒で机の上を鞭のように叩きながら
騒ぎを静めようとするが、なかなか収まらない。不思議とワーグナーの音楽との違和
感がない。棒で机を叩く音の強烈さが刺激となって何事かと目はドラマに吸い寄せら
れてしまう。なお序曲の時に開始されたスクリーン映像は映画的でドラマに没頭させ
る効果は抜群だった。こういった点にもコンヴィチニ−の上手さを感じるが、メッツ
マッハーの音楽も舞台に負けるものかと、大いに煽り立てるように刺激的だ。

さて学生たちの何人かはトランペットを携え、国王登場の場面などではファンファー
レを吹くが、これも教室の雰囲気と違和感がない。さてさて教室の一番後ろにアバズ
レそのものの女学生ひとり座っている。彼女がオルトルートだ。男子学生たちに物を
投げて一緒に騒いでいる。その隣りがテルラムントだがオルトルートとの悪友達とい
う設定になっている。オルトルートひとりだけ男子生徒の教室にいるもの変だが、別
の教室に女性とだけが居る様子。ちなみに数日前の公演ではエヴァ・マルトンが出演
したようだが、今日は病気のためにSzoenyiという歌手が代わりに出ていた。マルト
ンよりも若いが、その顔に秘められたせせら笑いとともに、振る舞いは女番長といっ
たところか。

エルザは別の女生徒だけの教室にいるようで、テルラムントの演説のあと、そこから
呼び出されることになった。右奥の扉からちらっと顔を見せては扉を閉めて隠れてし
まうという滑稽さとともに、登場した彼女はインガ・ニールセンが演じる。とても元
気一杯の可愛さが印象的だ。ことの成り行きに他の女生徒たちも教室に流れ込み、再
び大きな騒ぎとなったが、ドラマはローエングリンの登場を願う場面へと進む。

教室の床から上がってきたローエングリンは白衣を着ていて生徒なのか先生なのか判
別つき難い出で立ち。白鳥姿ではないゴットフリート自身がローエングリンの前で手
を白鳥のように羽ばたいている。生徒たちにはその姿が見えないのだろうか、全く気
にすることなくドラマが進む。この登場の場面では教室は夕日のように一度暗くなっ
てから明るく輝く。教室に読み替えたとはいえ、ローエングリン登場の劇的効果は損
なわれてはいない。モーザー扮するローエングリンも全くのノー・メイク状態で、出
っ張ったお腹と髭図らの彼にはローエングリンの高貴さは見る影もないのがまた面白
い。

このような読み替えを行ってはいるもののローエングリンの剣や教師の王冠、生徒た
ちの木をハーケンクロイツ状にして作った剣は象徴として用いられいた。リングがい
かに読み替えられようが、ヴォータンの剣が何時までも無くならないのに似ていて面
白い。それでもってローエングリンとテルラムントが戦う場面となるのだが、これも
教室内での出来事として全く違和感なく進む。黒板にハートが描かれ、その中にエル
ザのEとびっくりマーク(!)が書き加えられる。すなわちローエングリンは!で扱
われ、みんなの驚きを示す。負けたテルラムントとオルトルートは生徒たちから袋た
たき状態にあってしまうが、ついには机に縛られてしまう。

第2幕も1幕の幕切れ状態のままオルトルートとテルラムントが縛られたままの状態
で開始される。夕日の薄暗い中、オルトルートの毒舌が始まるが、さすがに怖い。別
段縛られていることも気にすることなくテルラムントをいたぶる。教室は右の壁がや
や左にシフトし、右側に教室外の階段の舞台となっていた。オリジナルではエルザの
部屋とその外という設定であるが、これが実に上手い対比に解釈されている。階段か
らはエルザとローエングリンの愛の歓びを告げる音楽が響き、よろこびいさんだエル
ザが階段を下りてくるところを、オルトルートがドア越しに語りかける。これ以降の
下りは全くコミックを感じさせるが、二人の心理状態が上手く描かれている。既にテ
ルラムントは自分で縄を解いたが、オルトルートは自分で衣服を破り顔に赤で血のよ
うなマーキングをして、いかに生徒たちからいじめられたかを演出し、エルザの情け
心を掻き立てる演出だ。で物語はどんどん進み、ローエングリンに込められた心理状
態が深く描かれる。

第2幕のクライマックスはオルトルートによって仕掛けられた疑いの場面。黒板に書
かれたハート記号に進み出たオルトルートはびっくりマーク(!)のうち上の縦棒の
みを消して、下のドット・マークの上に?記号の上部分を書きたす。すなわちローエ
ングリンが?だと強調し、エルザに疑念を植え付けてしまった。こんな細かなところ
まで上手く解釈するコンヴィチニ−には驚くが、教室内の出来事が何と自然に進んで
しまうのだろうか。

第3幕では生徒たちが教室を新婚の部屋に飾りつけする場面で開始する。前奏曲の威
勢のよさが皆の歓びと活気を表現するが、舞台から放たれるエネルギーに圧倒されぎ
みだ。中央にマットとシーツが敷かれ、エルザとローエングリンのベッドインへとス
トレートに進む。とてもスピード感がある。ローエングリンは男性の欲望を剥き出し
のままエルザに迫り、素性を聞くなとはいうものの、エルザの衣服を脱がしてしまう。
自分も裸になろうとするが、このあたりにコンヴィチニ−演出のパターンを見せ付け
るようだ。いわゆる奇麗事の高貴なローエングリンではなくて、ありのままの現実社
会、しかも小学校の教室においてもローエングリンの構図の存在を見せ付ける当たり
にコンヴィチ−の凄さを感じた。ここにいたりローエングリンの物語がいかに普遍性
に富んだものであるか再認識させてくれたように思う。

さて物語はローエングリンの素性の公表から去り行く場面へと進む。それまでも滑稽
な演出の数々だが、やはりエルザが黒板にハートマークにEと?を沢山書いてしまう
のには衝撃が走った。これでローエングリンが去っていくこととなるが、第1幕と同
様に床からゴットフリートが現れる。なんとその頭にはナチのヘルメットを被り、機
関銃の銃口を真正面に向けている。で、オルトルートの笑いで幕となった。

以上のようにTVか映画を見ているようなリラックスさと笑いで物語が進んだが、な
んと活き活きとしたドラマだったことだろうか。神話性や神秘性は影を潜め、現実を
見つめた演出は、ローエングリンの核心を今の社会に完璧に当てはめている。当然、
舞台の強烈さに音楽を忘れてしまいそうだが、そこはメッツマッハーの素晴らしいと
ころ、ちゃんと音楽で盛り上げて、むしろ一般的なローエングリン演奏よりも、高貴
さ透明さに溢れて、しかもドロドロとした暗黒もたっぷりと描く。これほど迫力ある
オーケストラサウンドも斬新な感じがするが、演出と音楽がぶつかりあった内容に興
奮してしまった。

細かな演出では、合唱中にパイプオルガンも鳴り響くが、オルトルートにミニチュア
のオルガンで疑いの動機を弾かせるなど、随所に計算されつくした解釈が見え隠れす
る。舞台設定からしてユニークだが、ここまで徹底した読み替えは、ドラマがより新
鮮に捉えているようでとても面白い。もうこんな演出を見せられると、斬新というわ
れる演出も余程のことでない限り凡庸だ。もうクプファーのワーグナーなんてのは時
代遅れに見えてしまうが、ローエングリンでコンヴィチニ−を超える演出は不可能で
はないかとすら思えてくる。歌手陣も演技と歌ともに素晴らしかった。特にニールセ
ンのエルザは最高だった。

(PS)
ハンブルクも昨日に引き続き超快晴で初夏を思わせる。ただベルリンより北に位置す
るためなのか、とても涼しい風が爽やかだった。なおホテルは劇場近くのマリオット
に泊まる。ここはルフトハンザのマイルが500チャージできる。部屋にはモデムの
ポートもあってインターネットへの接続も簡単だった。