Wintertraume / Musikverein
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Beethoven-Zyklus / 6.Konzert
Samstag.24.Februar 2001, 19.30 Uhr
Grosser Musikvereinssaal

Berliner Philharmonisches Orchester
Arnold Schoenberg Chor
Kunstlerische Leitung: Erwin Ortner

Dirigent
Claudio Abbado
Solist
Angela Denoke, Sopran
Larissa Diadkova, Alt
Rainer Trost, Tenor
Albert Dohmen, Bass

Ludwig van Beethoven:Symphonie Nr.9 d-Moll, op.125

●演奏会編

いよいよベートーヴェン・チクルスも大詰めを迎えた。当然ながら会場は凄い熱気を
感じる。今日の座席は2階バルコン・ミッテでオペラシティのコンサートホールほど
の距離は感じさせない。ちょうとシューボックスにおいてステージと対面するので、
上に湧き上がってくるサウンドが期待できそうだ。コンサートマスターは昨日と同様、
シュタープラヴに安永と並ぶ。

第一楽章冒頭、ピアニッシモの混沌から神が降りてくるかのような絶対的な第一主題
が鳴り響くが、強靭なアンサンブルが展開されるのは、まさに昨年のヨーロッパコン
サートを思い起こさせた。とはいうものの、アバドの演奏は必ずしも何時も同じでは
ない。

ヨーロッパコンサートの時は、絶対的な力というよりも、ハイテンポで畳み込む演奏
で、圧倒的迫力と爽快感に驚嘆したものだった。あれはベルリンフィルの壮絶なまで
のテクニックとフィルハーモニーの音響空間があってなし得る演奏という感を抱いた
のであるが、ここムジークフェラインでは、空間の違いがある為か、演奏のアプロー
チは若干異なっている。もしここでフィルハーモニーと同じような音作りを行ったと
したら、ホール全体が共振し、クリップしてしまうかも知れない。器に相応しい音作
りが緻密になされていると感じる。

そしてアンサンブルの凄さは微塵も誇示することなく、実に古典的に第九を響かせる。
あえていえば昨年聞いたラトル&ウィーンフィルのようにある種のオーソドックスさ
を感じた。もちろん、両者の演奏は単にオーソドックスさに集約できるものでもなく、
内面から湧き上がる興奮を覚えさせる絶対音楽だ。ヨーロッパコンサートではやや荒
削りに吹き上がる凄さを感じたが、むしろ今日の演奏はさらに悟りの境地にも似た包
容力を感じる。これはアバドが強靭な意志と精神力で病気を克服し、まさにベートー
ヴェンの意思と二重写しになっているのではと感じるほどだ。それほどに高い次元を
感じさせる。

特に第3楽章の神々しさはそのことを痛いまでに見せてくれる。単に美しいを通り越
した内容だったと思う。ベートーヴェンの人生において、このアダージョへの到達で
きた過程を共有できると表現すると大げさかも知れないが、それほど3楽章は内面の
深いものだった。第2楽章も強烈なアンサンブルというよりかは、内的リズムを喚起
させる。そのスケルツォはブルックナーの粗野さとは違っても原始のリズムを内面か
らに目覚めさせる意味では合い通じるものがある。

フィナーレの歓喜の合唱、第3楽章までの道のりを乗り越えて達することが出来る喜
び。それがそのままに自然と吹き上がった。もうここからは、大海原のような壮大さ
に誘ってくれる。ひたすら圧倒されるという言葉はもはや相応しくない。喜びを共有
させるという意味において、これほど大きな演奏は無いだろう。アバドの指揮ぶりも
今までは、激しく勢力的なものだったが、むしろ合唱が加わってからは、大きく腕を
あげて、時折静止するかのように、空を舞う。これに呼応して合唱から壮大な響きが
沸き出すのだ。それにしてもシェーンベルク合唱は素晴らしい。決して絶叫しないの
は当たり前としても、それは一味もふた味もちがう。透明かつクリアーな響きが黄金
のホールを包み込むとき、その次元を超えるようなハーモニーに宇宙が揺るがんとす
るばかり。

ソリストも素晴らしい。いずれもアバドお気に入りの歌手達で、オーケストラ後方に
デノケ、ディアドコーヴァ、トロスト、ドーメンと並ぶ。面白いことに左のデノケと
右のドーメンはザルツブルク音楽祭でのアバドの「ヴォツェック」の主役達だ。それ
からトロストは同じくザルツの「カーチャ・カバノヴァ」でデノケと共演しているの
が面白い。なおソリスト達は第1楽章から登場し、合唱と同じく終楽章まで出番を待
っていた。

さて終楽章も大詰め、合唱が一旦休止し、オーケストラが早い展開を見せるパートで
はアバドのタクトが再び激しく空を切る。そしてアンサンブルに俄然と緊張感が高ま
り、いよいよフィナーレへの昂揚だ。ソリスト、合唱、オーケストラがムジークフェ
ラインを揺るがすかのように歓喜した。

延々と15分以上のスタンディング・オベイションが続く。今日はオーケストラも座
り込み、アバドが何度も呼び戻される。オーケストラが去ったあとも、ソリスト、ア
バド、そしてアバドだけが・・・というパターンが何度も何度も繰り返され。そして
花束はもちろんのこと、2階バルコンから花が沢山投げ込まれる。今日は単に第九だ
けでなく、ベートーヴェン・チクルスを締めくくる喝采なのだ。これほどの熱狂、日
本ではまず体験できないのでは。とにかくアバドもとても元気。チクルス2回をこな
し、全く疲れが見受けられない。凄い体力と精神力だと驚かされた。

ようやく収まった喝采の後、ムジークフェラインからホテルまでは数分の距離なので、
一度ホテルに戻ることにした。何だかロビーが混んでいる模様。何と着替えを終えた
BPOメンバー達だった。なんだ同じホテルに滞在だったとは・・・そういえば朝食
の時に土屋さんが居られたのを思い出した。それにしても2回のアバド&ベルリンフ
ィルだけでも凄い密度だった。これは来年のイースターは何としても行かねばという
念が募るばかり・・・

Die Berliner in Wien :MUSIKFREUNDE Februar 2001