08/08 ザルツブルク音楽祭『ナガノ&ウィーンフィル』
●WIENER PHILHARMONIKER
Sonntag, 8. August 1999, 11.00 Uhr, Grosses Festspielhaus
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Claude Debussy
Aus "Trois Nocturnes";
1. Nuages
2. Fetes
Gustav Mahler
Das Lied von der Erde
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Solisten Michael Schade, Tenor
Simon Keenlyside, Bariton
Dirigent Kent Nagao
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フランチェスカナーレから祝祭劇場前に来ると、もうかなりの観客が集まっていて、外はさながらの社交の場となっていた。今日も快晴で青空にホーエンザルツブルクが輝いている。当初はブーレーズが指揮することになっていたが、キャンセルとなり、ケント・ナガノに変更。「大地の歌」は歌手を含めて変更はないが、前半のベルクはドビュッシーに変更されていた。曲目は「トロイ・ノクターン」から2曲。初めて聴くが、とても短い曲だった。ドビュッシー特有のソフトな幻想性を湛えている。時折、管楽器と弦が大きくうねり、オーケストラ全体から包み込むようなサウンドが押し寄せてくる。ウィーンフィルの甘く、愁いを帯びた木管がドビュッシーに美しい彩りを与えている。前半は静かな盛り上がりといったところで、すぐに休憩となった。

後半は、待望のマーラー「大地の歌」。そういえば、旅の前夜に奏楽堂にてオリジナル・ピアノ版の演奏を聴いてた。今回の旅は「大地の歌」で締めくくるので、ちょうど前回の「大地の歌」と対をなしているようにも感じた。

今回の「大地の歌」ではテノールとバリトンという珍しい組合せで演奏される。ミヒャエル・シェーデは今回の音楽祭で「魔笛」に出演していて、なかなか素晴らしいテノールだ。サイモン・キーンリサイドはアバドと良く共演しており、BPO定期の「マタイ受難曲」ではイエス役で聴いたことがある。端正な声量豊かなバリトンだ。テノールとバリトンが交互に歌われて行きくが、何時も聞きなれているテノールとソプラノによる演奏との違和感はない。全て男声というのではコントラストやメリハリが地味になるのではと思っていたが、これがなかなか味わいがあって、オーケストラの色彩感とも上手くマッチしていた。特に、終楽章の深い表現はバリトンならではのもので、告別への寂寥感は身にしみるものがある。

ケント・ナガノ氏はゆったりとしたテンポを守り過剰な表現を避けた演奏。的確な構築力を感じる指揮で、透明な響きをオーケストラから引き出していたのが印象的だ。ピアニッシモでも質感を保ったサウンドは魅力的で、歌とともに大きく盛り上がる場面は圧巻である。それにキュッヒル氏のソロ・ヴァイオリンが素晴らしくて、祝祭大劇場の隅々まで染み渡った。前半はやたら短かったせいか、この「大地の歌」は実に壮大だった。カーテン・コールの拍手も勿論、盛大なもので、ケント・ナガノ氏とウィーン・フィルのコンビの素晴らしさを反映していた。13時15分前に終了し、丘に聳えるホーエンザルツの城をあとに感慨無量の心境で帰国の旅についた。

●音楽祭のまとめ

今回は、音楽祭公式プログラムを12本、ミサを2本、その他室内楽を4本の合計18本を聴くことができた。9日間にわたり一日平均2本のペースは、さすがに充実感満点。特に今回の演目の質の高さには目を見張るものがあった。

オペラは5本。ベスト1はラトル指揮の「ボレアド」。忘れ去られたオペラに光りを照らし、一級の演奏と舞台で蘇ったラモーがきわめてエキサイティングだった。物珍しさだけでなく、本物の良さを世間に知らしめたという意味でも貴重な公演だ。

ベスト2は「ドクター・ファウスト」「ドン・ジョバンニ」に「クロナカ・デル・ルオーゴ」の3本。いずれも甲乙付け難い出来映えと思う。ザルツブルクならではのパノラマ舞台を使い切った迫力で、見るものを釘付けにしたし、何よりも演奏が素晴らしい。マゼール、ナガノ、カンブルランもそれぞれの個性豊かな指揮を披露し、充実の歌手陣に合唱であった。これにベスト3の「魔笛」が続く。ベスト2陣営が素晴らしすぎるので、一歩譲るのはやむを得ないところか。

コンサートでは、ラトル&啓蒙時代が傑出してたし、ムーティ&ウィーンフィルのブラームスは忘れがたい名演奏だった。ナガノ&ウィーンフィルの「大地の歌」も心に残る演奏。プロゲット・ポリーニの多彩なプログラムも魅力的で、ポリーニが弾くシューマンには圧倒された。こうして見ると、今年の音楽祭もユニークなものからオーソドックスなものまで、実に変化に富んだ内容で楽しませてくれた。