08/06 ザルツブルク音楽祭『プロゲット・ポリーニ』
●PROGETTO MAURIZIO PLLINI U
 Freitag, 6.August 1999, 19.30 Uhr, Grosser Saal des Mozarteum

 Jasquin Desprez
  "Missa L'homme arme exti toni"
  Arnold Schoenberg Chor
  Dirigent Erwin Ortner

 Franco Donatoni
  "Poll" fuer 13 Instrumente(1998) Urauffuehrung
  Klangforum Wien
  Dirigent Johannes Kalitzke

Pause

Arnold Schoenberg
Fuenf Klavierstuecke op.23
Sher langsam
Sehr rasch
Langsam
Schwungvoll
Walzer

Robert Schumann
"Concert sans Orchestre pour le Piano Forte" f-Moll op.14

Maurizio Pollini, Klavier
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プロゲット・ポリーニなるチクルスは1995年のザルツブルク音楽祭で初めて登場し、当時大きな反響を呼んだそうだ。今年はそのパート2として7回の公演が組まれた。前半は14世紀のミサから室内楽、現代アンサンブルに至るまでの幅広いレパートリーと、ポリーニが登場する後半で構成されるスタイルを基本としている。

この壮大なチクルスのコンセプトは何なんだろうと疑問に思うが、とにかくそのプログラムの多彩だけでなく、中世から前衛までの固定観念を取り払って、可能性に挑むという意気込みが感じられる。とにかくこのチクルスを全部を聞けば、その答えが分るかも知れない。

私が聴いたのはチクルス第2回で、前半はジャスカン・デュプレのミサ「ロム・アルメ」にドナートニの「ポル」。後半はポリーニが演奏するシェーンベルクとシューマンという構成だ。まずシェーンベルク合唱団によるミサはシンプルで透明感を生命としているようだった。ロム・アルメとは戦士たちという意味で14世紀当時のヨーロッパではかなり有名な歌だったとか。今年の3月にレ・ジューヌ・ソリスツによるデュファイのロム・アルメは聴いていたが、ジャスカン・デュプレのものは初めて。20名ほどの合唱は時に壮大で時に静寂の神秘を湛えていて、遥かな中世への想いを抱かせてくれた。

2曲目のドナートニの「ポル」ではステージの左にピアノ、右にチェンバロ、中央に弦楽器、奥に管楽器というアコースティック系による現代曲。演奏はクロナカ・デル・ルオーゴで演奏したクラング・フォルム・ウィーン。はっきりいって余り印象に残らなかった。会場にはドナートニ氏も来られていた。

後半はいよいよ、ポリーニの登場で緊張が高まる。座席は最前列真中のちょうど鍵盤が目の前にくるポジションだった。シェーンベルクの5つの作品ではポリーニ氏自身の緊張が会場に広がっているのが分るような演奏。息を凝らしてじっくりと響くそのピアノには精神集中の極度ではないかと思うほど。ポリーニ氏は時々歌いながら、時には唸り声を交えて、彼自身のピアノをコントロールしている。まるでグールドのようだ。

後半2曲目のシューマン!これはシェーンベルクの抑圧された精神力が一気に解放されたかのように、豪快きわまりない快演となる。凄まじいほどにシンフォニックなピアノタッチで、シューマンの楽想が留まることを知らないかのように、次々と湧き上がる演奏。モーツァルテウムの大ホールが彼の演奏によって音の大洪水と化したのである。これは本当に凄いシューマンだ。おそらく天国のシューマンも腰を抜かしたのではなかろうか。オーケストラ無しのコンチェルト・ソナタとタイトルをもつこの1曲だけで今日の演奏会は余りあるものであった。

ポリーニの圧倒的な演奏に会場は怒涛のブラヴォー。この熱狂がおさまらないので、シューマンがもう1曲アンコールされた。これもまた素晴らしい演奏で、さらにシェーンベルクもアンコール。もはや騒然といってもよいくらいの熱狂でプロゲット・ポリーニ2の第2夜は終了した。正直なところシェーンベルク合唱団のミサも、ドナートニのポルも全てポリーニの演奏に隠れてしまったと感じた。後半の演奏は通常の演奏会2つ分くらい、いや3つ分くらいの感動に相当するのではと実感した次第。