08/05 ザルツブルク音楽祭『ドン・ジョバンニ』
●WOLFGANG AMADEUS MOZART
IL DON GIOVANNI KV527, Neuinszenierung
Premiere 5. August 1999, 18.00 Uhr

Don Giovanni : Dmitri Hvorostovsky
Il Commendatore : Robert Lloyd
Donna Anna : Karita Mattila
Don Ottavio : Bruce Ford
Donna Elvira : Barbara Frittoli
Leporello : Franz Hawlata
Masetto : Detlef Roth
Zerlina : Maria Bayo

Muskikalische Leitung : Lorin Maazel
Inszenierung : Luca Ronconi
Buehnenbild : Margaherita Palli
Kostueme : Marianne Glittenberg
Licht : Konrad Lindenberg
Choreinstudierung : Donald Palumbo
Choreographie : Giuseppe Frigeni
Continuo, Cembalo : Klaus von Wildemann
Violoncello : Tamas Varga
Mandoline : Robert Rezac

Winer Philharmoniker
Konzertvereinigung Wiener Staatsopernchor
Buehnenmusik Mozarteum Orchester
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今日のプレミエは先日の「ドクター・ファウスト」のプレミエよりもずっと華やかだ。かなり気合の入ったドレス姿の方々で一杯になっている。ちょうど放送局も取材に来ていてスーパーカーが2台が止まっている付近を取材中のようだ。

今日も座席は平土間1列目の真中だ。今日はTVカメラが何台も入っており、ピットの中にもカメラがいる。コンサートマスターはヒンク氏で隣のザイフェルト氏とプルトを組んでいる。

●舞台と演出

ドンナ・アンナ(カティラ・マッティラ)とドン・ジョバンニの騒ぎの場面、ドン・ジョバンニは頭の上から全身真っ黒なゴム服のようなものを着て、サングラス姿、アンナは服をはだけてかなりセクシーな場面で始る。当初予定されていたルネ・パペのレポレッロはハウラータが歌うことになった。彼は前回のオスミン役での滑稽さを今回のレポレッロでも見せてくれる。ドンナ・エルヴィーラ(バルバラ・フリトーリ)は白で統一したファッションで登場するが、なんと列車が舞台にレールの上を走ってきた。レポレッロのカタログの歌では、列車の車両に娼婦ならぬドン・ジョバンニの恋人達が窓から姿を現すという演出。レポレッロのアリアの終わりと同時に列車は舞台のレールの上を走り去っていった。

ツェルリーナとマゼットの結婚式の場面では、ステージの全面は黒の板で仕切られ、板の上下2列に四角くカットされた開口部がある。バックステージの淡い照明が美しい色調でアクセントを添えている。左にはドン・ジョバンニの白いオープンカーが現れ、右側には結婚式に向うツェルリーナとマゼットの黒の車が。ただし黒の車は故障でメカニック達が修理中。ドン・ジョバンニはとてもブルジョワといった感じで、ツェルリーナ−は彼に惹かれというよりもピカピカの車に目が無いと言った様子。早速オープンカーに乗りこみドン・ジョバンニに写真を写してもらうといったドラマ運び。この光景、シンプルな舞台に白黒の車がコントラストして美しいステージだ。二重唱「手を取り合おう」は舞台ととも印象的だった。

突然、左右の舞台の隅の衝立がスリット状に割れ、モーツァルテウム管弦楽団が扮する舞台オーケストラが出現。群集ととも左右の踊り場になだれ込み、結婚式の賑わいが見事に描かれた。これはちょっとした見せ場で、ザルツブルクのワイドステージをフルに使いきった演出にルカ・ロンコーニの冴えを感じる。

さて第1幕の途中から大きな球体の物体が舞台左に登場。この球体に途中色んな模様が映し出されたり、"viva la libera "と文字が浮ぶが、何かの象徴であることはたしか。第1幕終盤の大混乱の場面では青色の地球にも見えた。他にもシンプルで巨大な構造物を巧みに出現させて舞台セットが変幻自在なのは見所である。

もうひとつの象徴は大きな時計。舞台の途中に大きな懐中時計を三枚を重ね合わせたようなものも登場し、またある時は巨大な振り子時計が出現したのはインパクトがあった。さらにこれがドン・ジョバンニの歌とともに時計の箱が開き時計内部の仕組みまで見せるといった手の込みよう。

往々にしてあまり細かな演出をやりすぎると目障りだが、このような大きなオブジェを極自然に動かしてみるところにセンスの良さを感じた。それに舞台転換が、聴衆の視野に無いうちに動かすところが上手い。聴衆が気がついたときにはスムーズな舞台転換が既に進行している。
このようなスピーディな舞台展開を特徴とする演出と舞台だが、最後のドン・ジョバンニと騎士長の場面は、あの大きな球体が回転を始めた。すると半回転したところで、巨大な半球の窪みとなり、それは真っ赤に燃え盛るような火の玉を象徴。球面中央部には椅子があり、ドン・ジョバンニはこの椅子に座らされ、地獄に落ちるという結末になっている。この場面は音楽とともにかなりの迫力であった。

さて今回のドン・ジョバンニに関する音楽祭ロゴは砂時計。それに今日のオペラには大小様々な時計が象徴として出現したが、その意味はプログラム解説のイワン・ナーゲル氏の詩が参考となるかも知れない。

「部屋と時間、それは主人と特権。世の中の恋愛は純潔と不純。時は不純を生み出す・・・現代の狂ったように加速する時の刻み。もしかしたらそこにドン・ジョバンニのテーマがあるかもしれない。」

●演奏

まず何よりもマゼールの指揮が冴えていたと思う。やや重々しい音楽ではあったが、ウィーンフィルと歌手、合唱が織り成すアンサンブルは緻密かつダイナミックだ。音楽の素晴らしさと気迫はかなりのものだったと思う。

歌手ではタイトルロールのホフロストフスキーが味のある演技、というよりも彼のくせの有るキャラクターがドン・ジョバンニの放蕩ぶりを上手く表現できていた。それに歌もかなりのもの。レポレッロのハウラータはまずもって三枚目が滅法強く、レポレッロの当たり役を感じさせる。ドンナ・アンナを歌ったカティラ・マッティラは特に素晴らしく、容姿の良さも手伝ってか、このプロダクションで生彩を放っていた。フリトーリも勿論良いが、バーヨのツェルリーナがまた素晴らしい。あのドン・ジョバンニとの二重唱が美しい舞台とともに忘れられない一シーンとなった。

マゼール渾身の指揮、ウィーンフィルの演奏、シンプルで美しい舞台、これらが上手く溶け合い、迫力のあるオペラに仕上げていた。カーテンコールも圧倒的で、マゼールにも大喝采が浴びせられていた。ただし演出家ルカ・ロンコーニには盛大なブーイングが。これに反発するブラヴォーもあり、とりあえず演出は賛否両論の様子だ。