08/03 ザルツブルク音楽祭『クロナカ・デル・ルオーゴ』
●Luciano Berio " Cronaca del Luogo "
Azione musicale, Text von Talia Pecker Berio in italienishcer Sprache
3.August 1999, Felsenreitschule
Musikalishce Leitung : Sylvain Camberling
Regie : Claus Guth
Buehnenbild und Kostueme: Christian Schmidt
Licht : Heinrich Brunke
Dramaturgie : Uwe Sommer
Choreinstudierung : Erwin Ortner und Gerhard Schmidt-Gaden

R : Hildegard Beherens
Gereral : Frode Olsen
Phanuel : Matthias Klink
Nino : David Moss
Orvid : Monica Bacelli
Sindaco : Martin Blausius
3 Costruttori : Fritz Steinbacher, Martin Haltrich, Tore Denys
Donna in doglie : Carolina Astanel
2 Addetti all'abitazione : Joerg Espenkott, Dirk D'Ase
Solomusiker afu der Buehne
: Gabriele Cassone - Trompete
: Christian Lindberg - Posaune
: Michele Marasco - Floete
: Igor Ploestisky - Violine
: Georg Schulz - Akkoprdeon
Arnold Schoenberg Chor
Toelzer Knabenchor
Klangforum Wien
Centro Tempo Reale (Florenz) fuer Live-Elektronik
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「クロナカ・デル・ルオーゴ」とはルチアーノ・ベリオがヒルデガルト・ベーレンスの為に作曲したオペラ。今日はその世界初演の最終公演であった。そもそもこのオペラはフェルゼンライトシューレで上演することを前提に作曲された。ここのパノラマ岩壁はアーチ状の穴が無数に開いていてユニークだ。ベリオは、この壁から神秘性と絶対的な力を描き出そうとする。

さて標題のルオーゴとはヘブライ語で「場所」を指し、これは「神」を意味するとか。さらにクロナカは英語のクロニクル(歴代史)を意味するから、クロナカ・デル・ルオーゴとは神の物語という意味になるそうだ。

ベーレンスは”R”という人物として登場するが、”R”とは旧約聖書に登場するラハブを意味するとのこと。ラハブはジェリコの破滅を戒めた王。オペラとしてのストーリーはベリオ夫人のタリア・ペッカー女史が書き上げたもので、”R”は人物というよりも象徴で、オペラの語り部の役目を担っている。

●プロローグ
 夜、ピアッツァ(広場)に声、そしてRが居る。時間は止まり、Rの記憶が
 蘇る。

●包囲攻撃
 都市は包囲された。人々は壁の前にいるが、Rは広場と壁の両側にいる。天使
 ファヌエルはジェネラル(ヨシュア)の動きを教える。儀式は始まり壁は破壊
 された。唯一の生存者はR。彼女は天使に従わなかった者の運命を嘆く。

●野原
 戦争と干ばつの時。Rは夢の中で彼女の分身オーヴィドに出会う。彼女達は愛、
 悲嘆と期待について語り合う。永遠の人が雨を降らせ、子供達は彼を悩ます。

●塔
 ニーノは、彼のかつての力を自慢し、 群集を呼び出す。建築用地が整えられ、
 建築作業はますます多くの人々を駆りたてる。ある女性は出産しそうになって
 いるが、誰も手を貸さない。群集は二つのライバルグループに分離する。ニー
 ノは両方のグループをリードする。Rは、出来事に圧倒される。労働への脅迫
 観念は侵略とパニックに変わる。

●家
 ピアッツァ(広場)には誰も居ない。脅威は空にある。壁からの声は、Rの記
 憶の破片と出来事について語合っている。

●広場
 正常な生活は壁の前にあるが、邪悪な力は空間をどんどんと埋め尽くす。過去
 の人影が再び現れる。R は、運命に近づこうとする人々を警告する、しかし、
 彼女は力を失って行く。彼女は終末を歌うために、 オーヴィドを呼び、記憶
 は停止する。

以上のストーリーは旧約聖書を抽象化したもので、「包囲攻撃」はジェリコの陥落、「塔」はまさしくバベルの塔を指している。5つのエピソードが全体にシンプルなまとまりを見せるのと同時に、とにかくこのオペラには異様な力が満ちていた。まずフェルゼンライトの壁の全ての穴にオーケストラと合唱を配置したのは圧巻。さらに壁全体をスライド映像で脚色したりする演出は奇抜そのものだ。

壁全体から響く、無気味な音楽。プロローグではウィンド・マシンの風の持続音に舞台(ピアッツァ)上の合唱との共鳴が独特だった。シェーンベルク合唱団が皆私服姿で演技を行いながら歌い続ける。演技といってもパントマイムで、ほぼ静止に近い形でバレエのように体の動きで表現。時々群集のように集まったり、ランダムに散らばったりと、様々な動きを見せる。

ベーレンスの超ドラマチックソプラノが悲しげに歌い、彼女の分身のオーヴィド役のバチェリとが好対照を示していたのが印象的であった。それに人物以外にヴァイオリンやクラリネット、フルート、サクソフォーンといったソロ楽器が役者として登場した。お互いに楽器で歌を歌いながら囁き合ったり、論議しあったりする演出はユニークだ。

「包囲攻撃」では衝撃的な照明で目まぐるしくステージが変容し、ベリオの壮大な音響空間が現れる。壁全体がまるで狂気と化したかのような大音響。この時は壁全体がまさしく主役で、ジェリコの陥落を描写しきり。その圧倒する迫力に唖然とさせられた。

嵐の後は「野原」の場面を経て、工事現場の場面。バベルの塔ならぬビルディング工事のパントマイムで、ニーノを演じるデイヴィッド・モスの一人舞台だった。彼は黄色のヘルメットに青の工事服という出で立ちで、訳の分らぬ言葉や奇声をヘルメットのマイクで会場全体に増幅する。壁からの音楽と彼のパフォーマンスとが妙に合っていている。メカニックで不思議なリズムも魅力的であった。この場はコミカルでもあったが、その異常な演技に圧倒された。

こういったオムニバス風ドラマ毎に”R”が登場し、時に嘆き、時に希望を与えたりしながらストーリーが進んで行く。彼女が歌うと壁がそれに応え、エコーを返すといった場面が展開した。指揮者カンブルランはステージの中央に置かれた黒い箱の中で指揮し、広いステージでは彼を見ることが出来ないのか、会場に設置された大きなTVモニターに彼の指揮も映し出されていた。

とにかくこの作品は合唱、壁のアンサンブルが圧倒的な迫力に満ちていて、ドラマから全く目を離せない状態が続く。今ひとつはっきりとしないストーリーながらも、作品にこれだけの求心力を持たせることが出きるとは。まさしくベリオは天才だ。「クロナカ・デル・ルオーゴ」はオペラであるのと同時に、オペラを越えた力に満ちていたと言っても言い過ぎではないだろう。フェルゼンライトシューレの壁を切り出したコンセプトも成功している。その証拠にカーテンコールでは完全な大喝采となった。ベリオ夫妻も勿論のこと演出家を含めてスタッフ一同がステージに上がり、圧倒的な成功を告げた。普段はもじゃもじゃ頭のカンブルランは珍しくオールバックに揃えって、イタリアン風のファッションで格好良く決めていたのも印象的。ソリスト、クラング・フォルム・ウィーン、シェーンベルク合唱、テルツ少年合唱も全てが横長パノラマステージに整列したカーテンコールは壮大だ。「クロナカ・デル・ルオーゴ」というネーミングだけでは敬遠されやすいオペラだが、やはり見てみないことには新作の真価は分らないものだ。