05/03 バスティーユ・オペラのベルク歌劇『ヴォツェック』
●OPERA NATIONAL DE PARIS / GRANDE SALLE BASTILLE
ALBAN BERG " WOZZECK"
lundi 3 mai 1999 a' 19h30
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direction musicale : Jeffrey Tate
muise en sce'ne et de'cors : Pierre Strosser
costumes : Patrice Cauchetier
lumie'res : Joel Hourbeigt
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Orchestre et Choeurs de l'Ope'ra National de Paris
Mai^trise des Hausts-de-Seine/
Choeurs d'enfants de l'Opera National de Paris
chest de chant : Anita Tyteca / Sylvie Leroy
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WOZZECK : Jean-Philippe Lafont
TAMBOURMAJOR : Stephan Margita
ANDRES : Donald George
HAUPTMANN : Robert Woerle
DOCTOR : Aage Haugland
ERSTER HANDWERKSBURSCH : Nicolas Teste'
ZWIETER NANDWERKSBURSCH : Johannes Mannov
DER NARR : Andreas Jaeggi
MARIE : Katarina Dalayman
MARGRET : Martine Mahe'
MARIENS KNABE : Arthur Bercovitz
EIN SOLDAT : Francisco Simonet
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パリでのヴォツェック上演は1963年のブーレーズ指揮によるものが最初とか。その後はアバド&ミラノスカラ座公演があったりして、最近では1985年のドホナーニ指揮があるのみ。ということで今回の公演は久しぶりのパリ上演になる。

●舞台演出について

今回のシュトロッサーの舞台では全幕通しで同じセットが用いられた。セットは大きな集合住宅で、ちょうど昨年のザルツブルク音楽祭でのカーチャ・カバノヴァーに似ている。すなわちステージの全面が大きな集合住宅で、構造は巨大な3面構造。住居には長方形の窓が縦横に開いていて、とても無機質的なイメージを与える。プログラム解説によると、ビュヒナーのドラマの舞台となった場所を調査して演出に用いたようである。巨大な建物の壁は、茶色でとても陰鬱な感じ。まるで牢屋の中にいるような雰囲気だ。

それにマリーが刺される沼とか満月といったような具体的な演出物は一切登場しない。シェローやシュタインなどの演出を「動」とすれば、今回のシュトロッサーは「静」と位置付けられる。それゆえドラマの視点は登場人物に集中することになり、人間の内面を抉り出させる効果を生む。実際に生々しい人間劇にのめり込むような緊迫感を覚えた。

この舞台で上手いと思わせたのは、カーチャ・カバノヴァーと同様、集合住宅の住民たちが窓からヴォツェックを傍観し、あるいは監視しているような演出だ。ヴォツェックが悲鳴をあげたりする場面では、住民達の各部屋の明かりが点灯し、窓から何事かと覗き込む演出など、まさにヴォツェック=世間からの除け者という構図が出来あがってしまう。ヴォツェックが悲劇へのレールに追い詰めることが既成事実であるかのように。

もうひとつ面白い点は、ヴォツェックのドラマ設定に捕らわれることなく、シュトロッサーの自由な解釈がなされたこと。それはヴォツェックが大尉のひげを剃る理髪師として登場するのではなく、靴磨きとして登場させていること。さらにマリーが子供に聖書を読む場面では、子供が登場せずに、舞台左側のヴォツェックがあたかも子供になったような演出。ヴォツェックはただひたすら、地面の砂を指で絵を描いて、子供になったかのような扱いは面白く、また残酷な運命を見せ付ける。最終場面、マリーの子供が登場するときも彼は馬に乗る遊びではなく、靴磨きの子として両手に靴を引っさげて登場。子は右側で、他の子供達は左側のアパートの窓から除き込む演出。完全にマリーの子供はヴォツェックの運命を背負って生きることを暗示している。


●音楽について

ジェフリー・テイトの指揮を聞くのは初めてだったが、音楽のテンポ運びが早く、しかもダイナミックな音楽を聴かせてくれた。バレンボイム&リンデン・オーパー来日公演の迫力には及ばなくとも、かなりの壮絶な音楽を作り出す。特にティンパニとブラスの炸裂には圧倒された。マリーが殺される演出などはあっさりとしていたが、テイトの音楽は壮絶極まりない。オーケストラも強力なアンサンブルを聞かせた。

ヴォツェック役のラフォンは上手い演技で、異常性を表現していたし、ダレイマンのマリーは小柄でも気性の荒さを上手く描写していた。カーテンコールでは、マリー>ヴォツェック>医者>大尉の順の拍手だった。テイトも杖をついて登場。プレミエ初日にしてはカーテンコールがさほど盛り上らなかった。シュトロッサーに対しては激しいブーイングが浴びせられた。こういった抑圧された舞台が好まない観客が多いようだ。