1998/11/11 オーストラリアバレエ『クロス・カルチャー』
●The Australian Ballet 《CROSS CULTURES》Premiere
Opera Theatre Sydney Opera House, 19:30, 11 November 1998

(Program)
 ・Divergence
 ・Fall River Legend
 ・Por vos muero

Australian Opera and Ballet Orchestra
Acting Concertmaster : Tony Gault
Asistant Concertmaster: Susan Collins
Conductor : Mark Summerbell

(Solists)
Vicki Attard / Lisa Bolte / Miranda Coney / Li Cunxin /
Steven Heathcote / David McAllister / Justine Summers/
Damien Welch
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今週は所用でシドニーに来ていました。ここはオペラハウスが何と言っても最大の名所。といっても今は初夏でオペラはオフ・シーズンに入ったばかりです。インターネットでプログラムを調べると、ちょうどオーストラリアン・バレエの「クロス・カルチャー」という公演があるようです。すかさずインターネットで予約を入れました。Eメールの返事は予約OKでボックス・オフィスにチケットをキープしておくとのこと。

シティ・センターからタクシーでオペラ・ハウスに向かいます。ここはバス乗り場からも離れているのでタクシーが便利です。それにシドニーのタクシーは安いですね。ほぼ15分ほどで港に出て、あの貝殻のような建物が見えてきました。

ボックス・オフィスでチケットを引き取ってから、オペラハウスの方へ上がります。ちょうどそこはガラス張りのロビーで外へ出られるようになっていました。テラスに出ると、海に浮かぶオペラ島という感じで、広大なテラスに法螺貝を何枚も重ねた大きな建物が二つ。左側のひとつがコンサートホールで右側がオペラハウスです。もうひとつ小さな法螺貝がコンサートホールの手前にありますが、これはレストランです。いずれも貝殻の蓋の部分は全面ガラス張りで、宇宙船のようにガラスが出っ張っていました。とにかくこのテラスから望む海と港の眺めは最高です。それに今日はプレミエのためでしょうか、多くの方はタキシードとドレス姿でした。

オペラハウスの中はステージを中心にしたすり鉢状で、どの席からもステージが良く見えます。それに器が手頃なサイズなので歌もよく聞こえそうです。まさにオペラの為に作った劇場。建物は大分古いそうですが、外観、内装とも古さを感じさせません。むしろ斬新で明るくて開放的。

さて今日の演目は「クロス・カルチャー」というタイトルがついていますが、《Divergence》《Fall River Legend》《Por vos muero》の三つのプログラム構成になっています。最初のダイヴァージェンスというのはコンテンポラリーなバレエで音楽はビゼーのカルメン組曲。オーケストラの演奏はとても威勢が良くて歯切れの良い音楽にバレエがぴったりでした。

ちょっと気になったのはオーケストラピットの開口がやや少ないということ。オーケストラの前半分はピットの開口から見えますが、後ろのほうはステージの床の下にもぐっていました。その為か、音がやや籠りぎみで音量感に物足りなさを感じました。たしか昔、シドニーオペラのボエームがBSで放送されたことがありますが、その時はピットは全開していたと思います。今日はバレエで広いスペースが必要な為かも知れません。

●Divergence
ダイヴァージェンスはスペインを意識してか、青と黒のコスチュームを基本にしていて、かなり刺激的な現代バレエでした。シドニーの方の気質はストレートで良いものは良いと素直に認めること。ですから拍手喝采は大変なもので、日本では考えられないくらい熱狂的。

今日は各演目ごとに20分程度の休憩が入ります。このオペラハウスでは1階後方のバーかカフェが最高の見晴らしで、客船の雰囲気が漂っています。そとのデッキのようなところにも出られて、ここから見る海の夜景は見事!これは一見の価値大です。

●Fall River Legend
続くフォール・リヴァー・レジェンドはテキサスでの実話を題材にしたもので、不幸な娘が父親殺しをしてしまうという悲劇。このバレエはオペラと同様、テキサスの街や、家の中をセットにして話しが展開しました。また要所要所に語りが入るので、分かりやすくなっていました。

●Por vos muero
さて最後の《Por vos muero》は圧巻で、バレエでこれほど感動したのはこれが初めてなほど。ストーリーはスペイン版ダフニスとクロエといった感じで、音楽は15世紀のスペイン古楽。この古楽はエスパーニャというアンサンブルの録音が使われ、オーケストラは登場しません。スピーカーから流れてくるハイファイ・サウンドはシャンソンとか中世ダンス音楽だったりで、これがまた凄い迫力でした。ヴィオラ・ダ・ガンバの哀愁ある響きから、太鼓の激しいリズム。フラメンコの元祖であることは疑うまでもありません。だからバレエも音楽に良く合います。特にエキゾチックでシンプルな振付は力強く美しい。アート・グラフィック調の照明効果も絶妙でした。黒ミサの調べではマスクで身を隠した僧侶達の不気味な恐怖の踊りが異様な迫力でしたし、最後の愛の場面では圧倒的な感動を覚えてしまいました。

さて今日のタイトルはクロス・カルチャーでしたが、これはスペインの昔からアメリカ開拓時代、それに現代とそれぞれが交差しあうという意味に思えてきました。特にスペインの古い芸術は今でも新鮮で、時代を超越した感動を与えてくれるのでしょう。

バレエが終わって帰途につきますが、サーキュラー・キーの港まで歩きました。これがまた素晴らしい夜景で、振り返るとオペラ・ハウスが照明で真っ白く輝いています。この有名な光景はやっぱり夜がベスト。さてここからタクシーでホテルまで帰りました。ちなみにシドニー滞在はこのバレエ1本だけ。コンサートはそう頻繁にはありません。東京がいかにコンサートに恵まれているかを改めて思い起こされました。