アルプス山歩きとコンサート

●アルプス登山記(7/14)

夏休み前の7月に10日間ほどシャモニに滞在した。目的はモンブランに登ること。当初雨天続きで折角のシャモニ詣でも水の泡かと思っていたが、後半になって急速に快晴に向い、モンブランにチャレンジできることとなった。シャモニからバス、登山鉄道と乗り継ぎ、ニー・デ・グルまで。ここから山登りが始るが、さすがにアルプスの山は大きくて、歩けき続けても大きな山々が次ぎから次ぎへと姿を現す。ようやく辿りついたグーテ小屋で完全にバテしまい、夕食が咽喉を通らない。が、ここのアップルパイは絶品で、やや元気を取り戻す。翌朝2時に起床し、完全装備でモンブランを目指す。まだ真っ暗な中をヘッドライトを照らしながら雪と氷の世界へと向う。

前半の悪天候中はミディで高度順化に専念した甲斐もあってか、体が軽い。順調に歩き続ける。パーティは4名で1本のザイルで結ばれている。途中ドイツ軍パーティを追いぬいて着実に山頂へと。暗いうちは零下10度くらいであったが、太陽が出てから気温が上昇する。ちょうどその頃、ボス山稜にさしかかった。ここはエッジになっていて、最も危険な箇所だ。緊張が高まる。

ヴァロ小屋で太陽が上がる。とても幻想的な世界だ。ここから山頂まではもうひと踏ん張り。そしてついに山頂。意外と広く、ここはフランス、スイス、イタリアの国境境になっている。遠くマッターホーンが望める。しばしの展望の後、早速下山に向う。下山が最も危険であるが、ここは氷河を下るのではなく、同じルートを引きかえす。深夜2時から連続15時間の行動で夕刻ようやくシャモニへ下山した。この日は充実の喜びで街のレストランへと繰り出すが、何となくR.シュトラウスの「アルプス交響曲」を体験したような気分になる。


●翌日7/15は疲れを癒すため、比較的楽なトレッキングを楽しむ。シャモニから電車でモンタンヴェールに向い、ここからはグラン・シャルモ、グレポン、ドリュ針鋒などの素晴らしい展望が楽しめる。道も概ね平坦で、まさに真夏のヨーロッパ・アルプスの満喫である。

上:グラン・シャルモとグレポン トレッキング道にて
下:ドリュ針鋒
ここでは日本人旅行客の方も多く、途中休んでいたら、サンドイッチを頂いた。フランス人の方とも写真を撮り合ったりと、のんびりとした時間を過ごせる。午後は再びシャモニへ戻り、ロープウェイでプレヴァンに上がる。ここはパラパントの発着場にもなっていて、まじかに色とりどりのパラパントが空を舞う。遠くモンブランがその威容を現し、この山の巨大さに改めて驚かされた。プレヴァンからは赤い針鋒群(エギーユ・ド・ルージュ)が連なり、牛の鈴が遠くから聞えてくる。ここでも「アルプス交響曲」が思い出された。


トレッキングで足腰を柔らかくしたところで、翌日の7/16はコスミック山稜の岩登りにチャレンジする。ミディ針鋒に連なった岩稜帯で、格好のフリー・クライミングが楽しめる。ミディまではロープウェイがあるが、ここから外ヘ出るのはかなり危険地域である。モンブラン登頂と同じメンバーでザイルを結びながらアイゼンを効かせながらミディのコルへ下る。やはり下りは最も緊張する。コスミック小屋を通過して取りつきに到着する。あのガストン・レビュファが開いたという南壁ルートを取る。途中チムニーやインサイド・クライムを織り交ぜながら、登って行く。

途中、雪面を滑落するトラブルがあったが、ザイルに助けられる。コスミックのエプロンに到着してからは緊張感がほぐれたが、第1岩塔を25m空中懸垂する。威圧感のある岩塔の奥にモンブランが聳える。なんとも威容な姿だ。真夏でも氷点下となるが、やはり太陽の光は心強い。氷と岩のガリーを登り、最後の4級プラスの壁を登るが、ラバー・ソールではなく山靴にアイゼンでは登り難い。ついにミディ山頂のテラスが見えた。ここまで来ると、ロープウェイの観光客がこちらに向って手を振っている。観光客に見守られながら展望台のテラスに立つのは何となく誇らしげな気分にもなるが、無事帰ってこられて良かったという安堵感で一杯だ。あとはロープウェイで下山し、ふもとのカフェでのんびりと喜びを祝う。この日の夜、クロード・ヘルファーのリサイタルに出かける。体のほうは絶好調で、疲れは全く無い。が、開演が21時なので果たして居眠らないかそれだけが心配である。


●クロード・ヘルファー/ピアノ・リサイタル
 1992年7月16日21時/マジェスティック・シャモニ
(プログラム)
 ラモー・ベートーヴェン・シューマン・ドビュッシー・ラヴェルなど
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シャモニーでは毎日クラシックのコンサートが開かれている。主に室内楽で、今日はたまたまクロード・ヘルファーのリサイタルである。この時のプログラムが残っていないので、何の曲が演奏されたのか忘れてしまったが、とにかく盛り沢山だったように覚えている。会場のマジェスティック・ホールは宮殿の広間といった感じのところで、ステージ背景が大きなガラス扉になっていて、午後9時ともなれば未だまだ明るいのであるが、夕暮れの光が入ってきて夏まっさかりであることを感じさせる。もちろん観光客の方はラフな服装の方が多いのであるが、中にはスーツにドレス方も居られとヨーロッパの劇場を思わせる。

大理石で出来た豪華な広間はさすがに心地よい響きがする。今までの山登りに加えてコンサートまで聞けた喜びに満足を感じつつ、氏の深みのあるピアノに感動を覚える。しかし睡魔との戦いは免れない。昼間は氷と岩の世界に興じていたためか、やはり疲れているのだろう。12時ちかくにホテルに戻り、そのまま爆睡してしまった。