●5月6日(土) R.シュトラウス歌劇『影のない女』
wiener staatsoper
samstag, 6.mai 2000 18.30 Uhr
Die Frau ohne Schatten
Musikalische Leitung : Giuseppe Sinopoli
Inszenierung und Lichtregie : Robert Carsen
Dramaturgie und Assistenz : Ian Burton
Buehnenbild und Kostueme : Michael Levine
Choreinstudierung : Ernst Dunshirn
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Der Kaiser : Ben Heppner
Die Kaiserin : Deborah Voigt
Die Amme : Jane Henschel
Geisterbote : Wolfgang Bankl
Ein Hueter der Schwelle : Rachel Harnisch
Stimme eines Juenglings : Ben Heppner
Die Stimme des Falken : Rachel Harnisch
Eine Stimme von oben : Regina Mauel
Barak, der Faerber : Falk Struckmann
Sein Weib : Gabriele Schnaut
Des Faerbers Brueder
Der Einaeugige : Geert Smits
Der Einarmige : Peter Koeves
Der Bucklige : Herwig Pecoraro
Die Waechter : Janusz Monarcha
Peter Wimberger
David Cale Johnson
Orchester und Chor der Wiener Staatsoper
Buehnenorchester der Wiener Staatsoper



R.シュトラウスのオペラの中でも「影のない女」の素晴らしさには感銘を受ける。これを豪華キャストで、しかもシノーポリの指揮となれば期待は大いに高まらざるを得ない。ステージは一昨日の「ルル」とはちがい幕が降りている。オケピットはほぼウィーンフィルで固められ、コンサートマスターはヒンク。今日の座席も昨日と同様、平土間2列目右側。シノーポリが登場し、最初から凄い拍手が沸き上がる。

カールセン演出になる舞台設定はベッドの置かれた部屋。しかもヴォイト演じる皇后は病に伏している模様。影が無く皇帝を思う悲しみを心の病と置き換えた解釈のようだ。乳母も霊界の使者も白衣を着た医者となって、それぞれの立場から皇后を思いやっているのが心に痛む。物語がバラクとその妻の下りに及ぶに至って、皇后の部屋の奥にバラク達の部屋が現れ、これら二つの部屋が鏡に映る対称形として描かれる。皇后とバラクの妻も鏡に向かい合ったかのように対称を意識した演出で、バラクの妻の影を皇后が求めるというストーリーを比喩したアイデアだ。面白いことに皇后の部屋はとてもシンプルに整理されているが、バラクの部屋はこれとは全く反対に、物が散らかった状態。

このような舞台設定で「影のない女」のドラマをカールセン流に解釈し、話を上手く展開しようという試み。意表をついた演出は第2幕第4場。皇后が夢にうなされる場面で、垂直に立ったベッドに横たわる皇后。すなわち皇后は垂直に立っている訳で、ベッドに入っているため、観客はちょうど天井から皇后を見下ろしたような状況に見える。さらに夢が進むにつれステージの間口の全面が薄いスクリーン幕となっていて、皇后が夢見る映像が映し出された。比喩的な動画の効果は抜群で、ヴォイトの素晴らしい歌とオーケストラの美しい音楽と調和し、息を呑むほどの盛り上がりを見せた。時々、映像をオペラに組みこむことがあるが、ここまで大胆な手法は始めてで、驚いた。

そのほか舞台展開で動きがあったのはシュターツオーパーの上がり舞台を利用し、ステージごと奈落の底へ落とすかのように下降させてたりする手法。全体にシンプルな舞台ながら、ダイナミックな動きを見せる演出で、ドラマとの連携も上手くいっている。

しかしそれ以上に今日の歌手達、オーケストラはとても素晴らしい。特にバラクの妻、シュナウトは圧倒する歌と圧倒する演技力。性格描写の的確さもさることながら、これほど心の揺れをリアルに演じることができるとは。それにシュトルックマンのバラクが素晴らしすぎる。時折ヴォータンの声を聞いたが、人の良いバラクを深い味わいで聞かせてくれた。まさにベルリンでのマイスタージンガーをキャンセルしたのが悔やまれる。そしてヴォイトの皇后も圧巻。第3幕、彼女の力強いソプラノが皇后の確固たる意思を歌い、感動のドラマへと展開してゆく。もちろんヘップナーの皇帝も凛々しく、ヘルデンさ漂う歌が素晴らしい。リポヴシェックがキャンセルしたので、代わりにジェ−ン・ヘンシェルが乳母を歌った。彼女は2年前のザルツのカーチャ・カバノヴァーで意地悪役を演じていたが、今日の乳母も素晴らしかった。

そしてさらに凄いのはシノーポリの指揮。ウィーンフィルから感動的なR.シュトラウスを描き出す。ヒンクのソロにしろ、若手チェリストの素晴らしいソロ。アンサンブルの凄さもコメントするまでもなく圧倒的。久しぶりに燃え上がるウィーンフィルが堪能できた。

最終幕最終場面では感動のドラマが展開するが、ここは照明だけのシンプルなステージで登場人物による大円陣が組まれる演出。このフィナーレはむしろこういった極限状態のシンプルさが相応しいことに納得させられた。怒涛の歌手達と圧倒するオーケストラだけで、至福の大感動が劇場を覆い尽くすのだから。余りにも素晴らしいオペラだった。大喝采は延々と続き、特にシノーポリに対しては最大限の喝采が。底知れぬ興奮と感動を覚え、今日はこのプロダクションを見て良かったと・・・