5月4日(木)ベルク歌劇『ルル』



wiener staatsoper
donnerstag, 4. mai 2000 19.30 Uhr
Lulu

Musikalische Leitung : Michael Boder
Inszenierung : Willy Decker
Buehnenbild und Kostueme : Wolfgang Gussmann
Lulu : Anat Efraty
Graefin Geschwitz : Graciela Araya
Eine Theater-Garderobiere: Regina Mauel
Ein Gymnasiast : Katalin Halmai
Der Medizinalrat : Klaus Ofczarek
Der Maler : Michael Roider
Dr. Schoens /Jack : Franz Grundheber
Alwa, Dr. Schones Sohn : Torsten Kerl
Schigolch : Rudolf Mazzola
Der Tierbaendiger : Wolfgang Bankl
Der Prinz : Herwig Pecoraro
Der Theaterdirektor : David Cale Johnson

Orchester un Buehnenorchester der Wiener Staatsoper




今回のプロダクションはツェルハが補筆した第3幕をカットした2幕版で上演され、2月のプレミエではかなり話題になったとのこと。ピットを覗くとキュッヒルとヒンクの両コンサートマスターがプルトを組んでいる。ウィーンフィルのメンバーも勢ぞろいしているようで、ルルへの力の入れように緊張感が高まる。

幕は開演前から開いていて、逆アーチに大きく湾曲した壁が室内を形作るというユニークなもの。さらに天井は無くて壁の奥は観客ベンチで取り囲まれたサーカスのようなセットになっている。中央には梯子で組まれた大きな台があり、その上にルルが客席に背を向けて座ってた。開演するまでずっと同じ姿勢なので、エフラティにとってはかなり大変だと思う。舞台奥のベンチには黒スーツにとシルクハットという男性が多数座っていて、まるで劇中劇のようにルルを見守るという設定だ。


指揮者が登場し、いきなりオペラが開始する。オープンスペースになった舞台の為か、開始はとてもスムーズ。それに流れるようにルルのドラマが進んで行く。ルル役のエフラティはかなりの美人歌手。身のこなしも軽くて梯子を機敏に動きながらセクシーに迫ってくる。ルルといえば悪女に分類されるのだろうが、彼女は悪女というよりも愛しく感じられる。ルルに対する画家役のロイダーも上手い演技で、ルルとのコントラストが鮮やか。さらにグルントヘーバーが演ずるシェーン博士に至っては迫真の演技で圧倒する。とにかくルルを含めて彼らの歌は素晴らしい

U字の壁による舞台セットは全2幕に共通のセットとなる。壁に沢山の扉があるが、これは閉ざされた空間と外界とを結ぶ接点となっている。この扉を出入りする人物を通してドラマが進むためか、シンプルな舞台に不思議と無限の広がりを感じる。またベンチに座った群衆は実に不気味。画家の場面では無数のルルの絵をかざし、舞台で進行するドラマを増幅する役目を担う。まるでベンチの群集はドラマの語り部でもあるかのように。特に第2幕に続くエピローグでルルがシェーン博士に切り裂かれる場面は、この群集が一斉にかざしたナイフをルルに浴びせる。

音楽もすこぶる緊迫感が漂っている。特にキュッヒルのソロはぞくぞくするものがあり、ウィーンフィルの艶やかな木管が印象的。まさにルルのセクシーさが音として漂う。座った席が平土間2列目の右側と至近距離であったため、ティンパニや打楽器群は凄い迫力で鳴り響く。ボーダーの素晴らしい指揮もあってか、ドラマと音楽が完璧に融合している。それに今日のような斬新でシンプルな舞台でこそルルを雄弁に語るのではと感じた。ちなみにベルクはルルを第2幕までしか作曲していないが、今回のプロダクションではエピローグがあり、その音楽はベルクの組曲から取られているらしい。