●5月2日(火)ベルク歌劇『ヴォツェック』/ハンブルク州立歌劇場

Hamburgische Staatsoper
Dienstag, 2. Mai 2000, 19.30Uhr bis ca. 21.15 Uhr
Wozzeck
Oper in drei Akten (15 Szenen)

Musiklische Leitung : Ingo Metzmacher
Inszenierung : Peter Konwitschny
Buehnenbild und Kostueme : Hans-Joachim Schlieker
Dramaturgie : Wemer Hintze
Licht : Hans Toelstede
Chor : Steffen Kammler
Spielleitung : Wolfgang Buecker

Wozzeck : Bo Skovhus
Tambourmajor : Jan Blinkhof
Andres : Juergen Sacher
Hauptmann : Chris Merritt
Doktor : Markus Marquardt
1. Handwerksbursch : Dieter Weller
2. Handwerksbursch : Kay Stiefermann
Der Narr : Frieder Stricker
Marie : Kristine Ciesinski
Margret : Renate Spingler
Philharmonisches Staatsorchester
Chor der Hamburgischen Staatsoper


メッツマッハー指揮コンヴィチニー演出のヴォツェックは今一番ホットという評価だそうで、すかさずCDを買った。が、音だけでは今ひとつ良く分らない。やはり舞台を見てみなくてはというのが今回ハンブルクまで来た理由。キャスティングはプレミエ時とほぼ同じだが、マリー役がアンジェラ・デノケから昨年バスティーユのヴォツェックでも歌ったダレイマンが予定。実際にはクリスティーネ・チーシンスキに変更されていた。

さて舞台の幕は無く、白の四角い空間と壁に設けられた扉のみというシンプルさ。開始と同時にタキシード姿のヴォツェックと大尉が登場。まるで演奏会形式のように音楽が始まるのだが、最初の暫くは登場人物の仕草、顔の表情のみで演技が行われることになる。しかしその表情や演技だけで演奏会形式をはるかに超えた想像豊かなドラマが展開される。

とにかくスコウフスの異常な表情は実に滑稽。メリットも異様な表情と演技で、まるで顔と体による狂言を見ているようだ。とにかく彼ら登場人物はみんなおかしくて狂っているようだ。しかしドラマをじっと見ていると異常が異常ではなくなってくるような感じもしてきた。このあたりがコンヴィチニーの演出の凄いところかも知れないが、次第にリアリティすら感じられる。

最初は真四角い空間だけだったが、途中壁がくずれ落ちたりと、かなり激しい舞台の動きもあった。ダイナミックな音楽とともに舞台も大きな変化を見せる。お金がひつとのテーマとなっているようで、空から紙幣が執拗なほど降ってきたのには驚いた。その量は半端なものではなく、ステージ一杯に降り積もり、登場人物が札に埋まるほど。実はヴォツェックがマリーを殺害する時には、彼女を札の山に埋めてしまう演出なのだ。普通なら如何に恐怖、震えを表現しようかと演出家は考えるのだが、実にあっけない演出。しかしこの時のオーケストラは実に怖かった。壮絶なまでに震えを誘う不協和音がとても長いフェルマータ−で襲いかかってくる。

良く聞くと音楽と登場人物の表情や動きが実によく噛み合っていることに気づく。まるで彼らの表情は音の出さない楽器と呼べるのかも知れない。一切の具象を省き、シンプルな体の表現と音楽だけで究極のドラマを表現してみせる。それがメッツマッハーとコンヴィチニーの新たなる芸術表現と評しても良さそうだ。

もう一つの面白い試みは、音楽がオケピットだけからでなく劇場の天井あるいは後方など周囲から多元的に鳴らすこと。まるでサラウンド・ステレオのようで、その臨場感で聴衆はますますリアリティあるドラマに追いたてられる。そして最終場面、マリーの子供と他の子供達はステージには現れず、その歌のみがスピーカーを通して演奏され幕となる。まるで最後は全て虚無であるかのように。

今まで見たペーター・シュタインやパトリス・シェローの演出に比べるとコンヴィチニーのはまるで違うヴォツェックであり、こんな演出も可能なのかと改めて驚いた次第。オペラというとつい既成概念に捕われてしまうが、やはり前に進むには兆戦が必要なのだと・・・